民事訴訟法 昭和44年度第2問

問  題

 当事者の訴訟行為が有効であるために相手方の同意または承諾を要する場合について説明せよ。

答  案


一 当事者の訴訟行為が有効であるために相手方の同意又は承諾を要するのは、当該訴訟行為によって相手方の何らかの利益が害されるおそれがある場合である。以下では、訴訟における各段階ごとに訴訟行為の有効要件として相手方の同意又は承諾が必要な場合を説明する。

二 請求レベル
1 訴えを提起した原告は、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備書面手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、訴えを取り下げることができない(二六一条二項)。
  これは、本案について請求棄却判決を求めることのできるという被告の利益を保護しようとしたものである。

2 一方、被告については、控訴審における反訴の提起について相手方の同意が必要とされている(三〇〇条一項)。
  これは、反訴に係る請求についての相手方の審級の利益を考慮したものである。

3 また、独立当事者参加が行われた場合の原告、被告による訴訟脱退にも相手方当事者の同意が必要とされる(四八条一項)。

三 主張のレベル
1 まず、法律上の主張のレベルについては、相手方の同意又は承諾が有効要件となる場面はない。
  なぜなら、法律上の主張の存否についての判断は裁判所の専権事項だからである。

2 事実上の主張のレベルについては、自白の撤回が、原則として相手方の同意又は承諾が必要なものとされる。なぜなら、自白が成立した事実は不要証事実となる結果(一七九条)、証明しなくてもよくなったことに対する相手方の信頼が生じ、この信頼は自白者自身が作出したものである以上自白者自らが害することは許されないと考えられるからである(禁反言)。
  ただし、自白が刑事上罰すべき行為によってなされた場合や、錯誤に基づきなされかつ真実に反する場合には相手方の承諾無くとも撤回が許される。

四 証拠のレベル
  いったん当事者が申し出た証拠は、証拠調べがなされたときには相手方の同意又は承諾が無ければ撤回することはできない。
  なぜなら、証拠による事実認定においては自由心証主義(二四七条)が働く結果相手方に有利な事実認定の資料となることもあり(証拠共通の原則)、申し出のなされた証拠により有利な事実認定を得られる可能性があるという相手方の地位を損ねるべきではないからである。

以 上


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