民法 平成7年度第2問

問  題

答  案
(本試験再現、評価B)


一 AのCに対する不法行為責任について

1 A社団法人の事務・事業をその理事Bが行うにつきBの過失によりCが損害を被った場合、AはCに対し損害賠償責任を負う(四四条)。

  また、BがAの被用者である場合には、Aの事業を行うにつきなされた行為はBがAの「事業ノ執行ニ付キ」行ったものといえるので、AはCに対し使用者責任(七一五条)に基づく損害賠償責任を負う。

2 四四条に基づく責任(法人の不法行為責任)も使用者責任もAが他人であるBの行為について負う責任である。しかし法人の不法行為責任と使用者責任は、Bが理事の場合法人の代表権を有する(五三条)のに対し使用者は代表権を有しないという理事と被用者の性格の違いから、責任の性質に差が生ずることとなる。

3 Bが被用者の場合にAが負う使用者責任は、事業の執行について他人を用いて利益をあげている者はその他人が第三者に与えた損害についても責任を負うべきという報償責任の考え方に基づいている。他人の行為について負う責任ということでその責任の性質は代位責任といえる。そのため一定の場合についての免責事由が認められている(七一五条一項但書)。

4 これに対してBが理事の場合、BはA社団法人の代表権を有する結果(五三条)、Bが職務の執行のためになした行為の効果は当然に法人に帰属する。つまり理事の行為が法人の行為とみなされるのである。

  したがって理事が職務を行うにつき過失により他人に損害を与えた場合に被代表法人が賠償責任を負うのは理事の行為及び過失が法人の行為及び過失とみなされるからであり、いわば法人自身が不法行為を行ったことによるものといえる(本人責任)。よって免責事由は認められていない。

二 BのCに対する不法行為責任について

1 Bが被用者の場合、Bの過失によりCに損害が生じた場合にはBはCに対して不法行為に基づく損害賠償責任を負う(七〇九条)。

2 これに対し、Bが理事の場合、Bの行為はAの行為とみなされるのであるから、Aのみが責任を負い、Bには不法行為は成立しないとも考えられる。

  しかし、自らの過失で他人に損害を与えたBがたまたまAの理事の職務として行ったものであるからといって責任を免れるのは適当でない。

  思うに、Bの理事としての行為の効果がAに帰属するというのは法律行為の効果をAに帰属させるためだけのものであり、その行為がBのなしたものであることやBへの責任追及を否定するものではないと解する。

  よってBは不法行為に基づく損害賠償義務をCに対して負う(七〇九条)。

三 求償の可否・範囲について

1 Bが被用者の場合、Aの負う責任はBの行為についての代位責任であるから、Aは、Cに損害を賠償した場合にはBに対する求償権を取得する(七一五条三項)。

  ただ、その範囲は、Bの労働条件等を勘案して信義則上(一条二項)相当な範囲に制限される。

2 Bが理事の場合、Aの責任はA自身の行為に対する責任であり、Bに求償していくことはできない。

以  上


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