民法 平成7年度第1問

問  題

答  案
(本試験再現、評価B)


一1 Dは、Bによって自己所有の山林に不法に投棄された冷蔵庫が元来それぞれAとCの所有に属していたものであることを理由に、山林所有権に基づく妨害排除請求権を行使してA及びCに冷蔵庫を撤去するよう請求することが考えられる。

2 これに対しA及びCは、冷蔵庫の不法投棄はBが行ったものであり自分たちの関与したものではないからAとCはDの山林所有権を「妨害」したものとは認められず、妨害排除請求の相手方とならないと反論することが考えられる。

  たしかに、妨害排除請求権は妨害者に対して行使すべきものである。

  では、A及びCは妨害者といえないか。思うに、物の所有者はその物により他人に損害を与えないようにものを管理する義務を負っているものと解すべきである(七一七条類推)。したがって、物が他人の所有権の妨害となっている場合にはその物の所有者が他人の所有権を「妨害」したものと考えられる。

3 これに対し、A及びCは、当該冷蔵庫についてはAもCも廃棄したものであるからAもCも冷蔵庫の所有者でないと反論することが考えられる。

  しかし廃棄する意思であっただけで所有者としての責任を免れるのは適当でない。

  思うに、所有権の喪失も物権変動の一種であるからそれを第三者に対抗するためには動産の場合には「引渡」が必要であると解する。そして所有物についての管理責任を免れるためには、物が自己の管理しうる場所から出たことつまり直接占有も間接占有も失ったことが必要であると解する。

  この点、Cについては、Aの冷蔵庫のそばに自分の冷蔵庫を捨てた時点で直接占有も間接占有も失っているのでこの時点で冷蔵庫の所有権を失っている。したがって、所有者とはいえず、妨害排除請求は受けない。

  これに対しAは、BがAに冷蔵庫の廃棄を依頼されている者であることから、Bの投棄までは冷蔵庫に対する間接占有をしていたものと認められる。

  したがって、AはDに対し冷蔵庫の所有権喪失の事実はDに対抗しえない。

4 以上よりDはAに対しては所有権に基づく妨害排除請求権を行使しうる。

5 これに対し、Aは、妨害排除請求権は所有者が相手方の物を撤去することを相手方に忍容するよう請求できる権利にすぎず、妨害者の手による排除まで求めうる権利でないと反論することが考えられる。

  しかし、妨害排除請求権は妨害を排除することを目的とする権利であるから、その実効性を図る見地から妨害者に妨害を排除するよう請求できる権利と解する(判例同旨)。

6 したがって、DはAに対しては冷蔵庫の撤去を山林所有権に基づく妨害排除請求権の行使によって求めうるが、Cに対しては冷蔵庫の撤去を求めえないと解する。

二1 Dは、冷蔵庫による危険の防止のために各冷蔵庫にそれぞれ五万円の費用をかけていることから、A及びCに対し、この費用の賠償を求めていくことが考えられる。

  この場合、A及びCの不法行為に基づき損害を被ったとして賠償を求めることになる(七〇九条)。

2 これに対し、A及びCは、本件不法投棄はBがA及びCの関知なくして行った物であり自分たちには故意も過失もないと反論することが考えられる。

  この点まずAについてみると、前述のように物の所有者はその物が他人に害を与えないように管理すべき義務があるところ、不法投棄するようなBを選んだことはこの義務に違反するものと言える。

  またCは、Aの冷蔵庫のそばに冷蔵庫を捨てているが、これも同様の義務に違反している。

3 よってA及びCには過失が認められ、DはA及びCに対しそれぞれ五万円ずつの賠償を請求できる。

以 上


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