破産法 平成7年度第2問

問  題


 甲は、平成三年三月三一日、乙との間で、自己所有の建物を次の約定で乙に賃貸することを約し、乙は、これに従い、敷金及び賃料を払って、翌四月一日、建物の引渡しを受けた。
 (1) 期間 平成三年四月一日から二年間。ただし、更新をすることができる。
 (2) 賃料 月額一〇万円。契約時に三か月分を支払い、以後、賃貸借開始から三か月ごとの月末に次の三か月分を払う。
 (3) 敷金 二か月分とし、返還すべき額は、賃貸借終了時に建物の返還と引換えに返還する。
 乙は、以後、契約どおり賃料を支払って建物に居住してきたが、平成五年一月一五日、甲が破産宣告を受けた。その場合に、破産管財人は、この賃貸借につきどのような措置を採ることができるか。乙からは、どうか。

答  案
(本試験再現、評価A)


一1 甲乙間の建物賃貸借契約は、甲が乙に対し建物を利用・収益させる義務を、乙が甲に対し賃料支払義務をそれぞれ負っており、双務契約といえる(民法六〇一条)。

 2 そこで甲の破産管財人としては五九条に基づき本件賃貸借契約につき解除しようとすることが考えられる。しかし乙は契約どおり賃料を支払ってきており、平成五年三月三一日の契約終了までの賃料は平成四年一二月三一日に支払っている。とすれば乙は履行を完了しており双方未履行とはいえず、五九条は適用されないと考えられる。
   この点、賃貸人の破産の場合に賃料の前払は破産宣告の当期及び次期の分しか対抗できないとされており(六三条)、甲乙間で賃料が月額一〇万円と決められていたことからすれば、乙は賃料の前払を平成五年一月一五日の破産宣告の当月及び翌月すなわち一月と二月の分しか主張しえず、三月分については未払とみなされるので双方未履行の契約となるとも考えられる。
   しかし、賃料の前払の主張が制限されているのは(六三条)、義務もないのにあらかじめ過大に賃料を払い込むことは詐害性が強いと考えられるからである。とすれば、六三条にいう「当期」及び「次期」は支払の単位として決められている期間を指すものと解する。
   甲乙間では賃料は三か月分ずつ支払うこととされているので、破産宣告の平成四年一月一五日当時の当期とは平成五年一月一日から三月三一日までをいう。
   したがって乙は賃料の前払を甲の破産管財人に対抗しうる。

 3 乙は甲から建物の引渡を受けて居住しておりその建物賃借権は対抗力を有している(借地借家法三一条)。したがって破産宣告後も乙は甲の破産管財人に対し建物賃借権を対抗しうる。

 4 甲の破産管財人としては、平成五年三月三一日で契約期間が終了することから、その時点で賃貸借契約の更新を拒絶することが考えられる。しかし更新拒絶のためには契約期間終了より六月以上前に異議を述べる必要があるが(借地借家法二六条)、破産宣告時点で契約期間終了の一月半前となっているので、更新拒絶はできない。

 5 ただ更新後は期間の定めのない賃貸借契約となるので(借地借家法二六条一項)、正当事由があればいつでも解約できる(民法六一七条、借地借家法二八条)。
   そこで、破産宣告を正当事由として建物賃貸借契約を解除できないかが問題となる。
   思うに、賃借人にとって全く帰責性のない賃貸人の破産によって賃借人が不利益を被る理由はない。したがって、破産宣告は正当事由(借地借家法二八条)とはならないと解する。

 6 甲の破産管財人は建物を賃借権の付いた状態で換価していくこととなる。

二 乙としては、建物の引渡を受けているので、建物賃借権を甲の破産管財人に対して主張しうる(借地借家法三一条)。
  また契約期間終了及び建物返還により敷金返還請求権を行使することとなるが、破産宣告前の契約によるものであるので、破産債権として破産手続内で行使することとなる(一五条)。

以 上


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