Ch.ムートン完全制覇の会

 昨年の秋のある日、横浜ゴトー酒店の後藤さんから僕の職場に、信じられないような電話が入りました。「何万本も持っててもワインは飲まなきゃしょうがないから、ムートンの1945年から1998年までの全ヴィンテージを近いうちに飲もうかと思っているけど、そういう会があったら来る?」(確かそんなような内容でした。。。)
 3年前に、お宝ワインのほとんどを盗難にあってしまった後藤さんは、なんとフランスのムートン・コレクターから、再び全ヴィンテージを購入していたのです。金額はうん百万円(すごい。。)
 話が逸れますが、僕はその盗難事件からしばらく後藤さんの店に顔を出さなかったのですが、1年後ひょっこり顔を出したら「あれ(犯人)、君かと思ってたよー!」とキツーいパンチを頂きました(笑)
 話は戻って、その後、冬になっても後藤さんからは音沙汰無し。「もう飲んじゃったのかな・・・」とかなり不安に思っている中、ある伝から「横浜のゴトーさん、とてつもない会をやるらしいよ。」との噂が耳に入り、焦って後藤さんに確認までする始末。ワインってここまで人を夢中にさせるのね。。。
 兎に角、噂のまわるのは早く、多くの方が参加に興味を示したのでしたが、僕は運が良かったのか、うまくメンバーに入りこんだのでした。

 という訳で、「ワインは飲んでなんぼ」という後藤さんの持論のもと、今回1945年から1998年までのヴィンテージを10回に分けて、11人のメンバーで飲み干そうということになったのです。会場は「全ヴィンテージ同一条件に近いかたちで飲みたい」「それなりのグラスが数十個必要」ということもあって、全10回すべて横浜元町の老舗のフレンチレストラン「霧笛楼」が選ばれました。会費は内緒。
 なお、全ヴィンテージ、すべてノンリコルクで保管状態もすべて同一条件にあったものという、比較テイスティングには最高の状況がセッティングされたのです。


スケジュール(第10回までは横浜元町の老舗フレンチ「霧笛楼」にて)
=第1回= 3月17日(土)
 19541964197419841994年の5種類。

=第2回= 4月21日(土)
 19531963197319831993年の5種類。

=第3回= 5月12日(土)
 1952、1962、1972、1982、1992年の5種類。

=第4回= 6月16日(土)
 1951、1961、1971、1981、1991年の5種類。

=第5回= 7月21日(土)
 1950、1960、1970、1980、1990年の5種類。

=暑気払い= 8月18日(土)(ムートン会はお休み)

=第6回= 9月15日(土・祭)
 1949、1959、1969、1979、1989年の5種類。

=第7回= 10月20日(土)
 1948、1958、1968、1978、1988、1998年の6種類。

=第8回= 11月17日(土)
 1947、1957、1967、1977、1987、1997年の6種類。

=第9回= 12月15日(土)
 1946、1956、1966、1976、1986、1996年の6種類。

=第10回=  1月19日(土)
 194519551965197519851995年の6種類。


=反省会を兼ねた新年会=2002年2月16日(土)(吉兆西洋銀座店にて)
 1873年、1973年マグナム、エール・ダルジャン等。




第一回 3月17日(土)
 19541964197419841994年の5種類。

 すべてノンリコルクで、幸運にも保管状態もすべて同一条件にあったもの。18:00から15分かけて若い順(94から)にスクリュープルにて抜栓。すべてデカンタージュしてグラスへ。ブショネは無しとの後藤さんのコメントの後、18:20からテイスティングを開始し、約30分で終了。
 ひとこと:54は飲み頃を過ぎていると思われるが、思った以上に上品な枯れ方をしていて楽しめる。64、74は綺麗な熟成の最中。84はまさに飲み頃

54、64、74、84、94
第一回のワイン
左から94、84、74、64、54

僕の評価 パーカーポイント ラベルを描いた画家名 飲んだ日
1954 ★★★★ --- JEAN CARZOU 2001/3/17
 色は茶褐色に近い。全体的に色は薄くなりつつあるようだが'74より濃い。香りは古酒特有の、スパイスを思わせるヒネた香りが全面に出ていたが、30分くらい経つとその香りが丸みを帯び、ミント、チョコ、スーボワのような香りが目立ってきて、会場を唸らせた。口に含むと甘味の低い干し果実のような独特な味わいと、経年を感じさせる酸味がある。タンニンはまろやかで、後味に白胡椒のようなスパイシーさを感じた。
 飲み頃を過ぎた感じは否めない感があるが、独特の風味の陰に上品で素晴らしい古酒の味わいを残している。
1964 ★★★★☆ PP55 HENRY MOORE 2001/3/17
 色は茶がかったガーネット。良く見ないと分からないくらい'54に似た色合いだが、こちらのほうが少し赤みがあるか。鼻を近づけるとスーボワの香りがふわっとたちこめ、後から樽やコーヒーの香りを感じる。果実の香りは目立つものが無く、干しブドウのような香りが特記されるくらいか。味わいはこなれた酸味と収斂性。アフターに苦みと酸味を残すが、すっきりとしている。全体のバランスが良くとれたワインで、綺麗な熟成をしている。
 飲み頃をやや過ぎた感じもあるが、まだまだ美味しく飲める。今日の僕のイチオシ。
1974 ★★★★☆ PP69 ROBERT MOTHERWELL 2001/3/17
 色は全体的に茶がかったガーネット。他の54、64、84、94のヴィンテージと比べても一番薄い。香りは熟したプラム、鉛筆の芯。全体的に香りは弱め。味わいは酸味があるが嫌な感じのない、非常に上品な酸味。口の中でひっかかるものが無く、これも64同様、健全な熟成を感じる。
 64同様、飲み頃をやや過ぎた感じもあるが、まだまだ美味しい。Rパーカー曰く、このヴィンテージは「一級シャトーの水準を相当下回った。」とのことだけど、いやいや美味しいじゃないですか。今日の2番!
1984 ★★★★ PP80 AGAM 2001/3/17
 色はエッジが既に茶がかった濃いガーネット。香りはスーボワ、カシスなど。香りは54、64、74、84、94の5ヴィンテージの中でもっとも豊か。酸味もタンニンもしっかりしていてアフターに苦味を伴う。少しヒネた味わいとすっぱみがしたのは保存状態が悪かったのか。。。先月飲んだものより熟成を感じる。抜栓した方がワインの染みたコルクを見てうなっていたのが気がかり。
 今が飲み頃でしょう。カベルネソーヴィニヨンをほぼ100%使用。
1994 ★★★★ PP91+ KAREL APPEL 2001/3/17
 色はルビーに近い濃いガーネット。エッジはより紫がかっていて、ジョンブもしっかりめ。香りはコーンフレークのような、ムートンの特徴とされやすいロースト香や鉛筆の芯など。味わいは凝縮感がり、甘みは少ないが、酸味、渋味、共にしっかりとしている。非常に若々しさを感じる。
 先月飲んだ94マグナムは香りが開いていて、もう少し甘みがあった気がしたが、これは閉じ気味なのか。今はロースト香が少々強く、バランスが崩れている気がする。そういった意味もあり、飲み頃はまだまだ先でしょう。ちなみに「ロースト香がムートンの特徴とされるのは少し誤解である。」と、ある方が仰ってました。。。




第ニ回 4月21日(土)
 19531963197319831993年の5種類。

 すべてノンリコルクで、幸運にも保管状態もすべて同一条件にあったもの。スクリュープルにて抜栓。すべてデカンタージュしてグラスへ。残念ながら今回は63が多少ダメージを受けたものだった。
 ひとこと:53は素晴らしく上品な枯れ方。63はテイスティング出来ず。73は市場評価以上の味わいで、83は飲み頃とも言えるが熟成途上かも。93は閉じ気味でまだまだ。

53、63、73、83、93
第ニ回のワイン
左から93、83、73、63、53

僕の評価 パーカーポイント ラベルを描いた画家名 飲んだ日
1953 ★★★★★ PP95 CENTENARY YEAR 2001/4/21
 色は'73と似た色合い。淡く澄んだガーネットでエッジはオレンジがかっている。粘性は普通。干しブドウや熟したプラム、無花果等の甘さを想像させる香りに、ハーブや春菊、ほのかな樽香、チョコレートやカカオなどの香りが複雑みを増す。口に含むと、しっかりしているが滑らかな酸をアタックで感じるが、その後細かくまろやかなタンニンやスパイスが縦へと膨らみ、長い余韻を残す。
 非常に繊細。僕の好みだったが、抜栓1時間後には酸が立ってしまい、遅刻したのを非常に残念に感じた。まさに飲みごろ、間違いなく今日のイチオシ。
1963 --- BERNARD DUFOUR 2001/4/21
 残念ながらダメージを受けたボトル。色は濁っていて濃いこげ茶のようなガーネット。黒砂糖のような色。香りはマイルドなシェリー香と焦がした砂糖の香りが混ざった感じ。味わいも香りから想像できるもので、シェリーからボリューム感をとってしまったような味わい。果実味はいっさい飛んでしまったような感がある。グランヴァンの片鱗はまったく見えない。
 寒気を感じる香りであったことは非常に残念。本来、63は淡い色あいの、繊細で控えめな飲み易いワインであるとのこと。「本当の全ヴィンテージ制覇に向け、63はいつかまた飲まなくては!」と課題を残したのであった(これもまた将来の楽しみ)。
1973 ★★★★☆ PP65 PABLO PICASSO 2001/4/21
 色はエッジにオレンジが見える淡いガーネット。干しブドウや熟した黒い小さな果実香の奥に茎のような香りや樽、ロースト香など、様々な香りが交錯する。アタックで柔らかい酸味、アフターで柔らかい苦味。少しフラットな感じがあるのが、少々残念。
 香りは全体的に弱めと思っていたが、いやいや、七変化とはこのことか。時間が経つにつれ良くなっていった。おかげで抜栓1.5時間後まで楽しむことができた。もう少し年が経っても飲めるのでは。今日の2番!「樽の香りがきつくて木がにおい、果実味は急速に色褪せてしまう」と表現している人もいるけど、いやいや、その表現より確実に美味しいですよ。
1983 ★★★★ PP90 STEINBERG 2001/4/21
 色はエッジがオレンジがかったガーネット。香りは樽、ミント、チョコ、熟した果実、ロースト香。酸とタンニンがしっかりしていてアフターに酸味と苦味を伴う。甘みは抑え目か。
 まだまだ熟成中。飲んでも美味しいし、待っても良いと感じた。
1993 ★★★★ PP90 BALTHUS 2001/4/21
 色はルビーに近い濃いガーネットでジョンブもしっかりめ。香りは最初閉じ気味で、湿った香り、青茎などが支配していたように思うが、徐々にクレム・ド・カシスなどの熟した果実香、ロースト、チョコ、カカオなどが現れた。まさに凝縮した香り。味わいはタンニンが非常にしっかりしていて、酸味もしっかり。アフターにもしっかりした酸味と苦味が残る。
 抜栓40分後に香りが開き始めたが、なんとなく86や95を思わせる閉じた香り。。。このヴィンテージは化けるかもしれない。ところで、参加者の中の一人が「カメムシの臭い」と仰っていたがそんなに臭かったかな〜?(笑)




第十回(最終回) 1月19日(土)
 194519551965197519851995年の6種類。

 コルクはすべてノンリコルク。後藤さんの抜栓の腕が良いからだろうが、ソムリエナイフにて抜栓したコルクは、まったく崩れることがないほど素晴らしい状態であった。すべてデカンタージュしてグラスへ。ダメージワインは無し(正直45が健全な状態で「ほっ」とした(笑))。
 ひとこと:45は独特な香り、味わいのバランスは絶品。55はいつまでも力強く、今後も熟成の可能性大。65は繊細で上質なピノを味わっているかのよう。75は閉じているのかドライアウトしているのか。。。85はムートンの特徴が出ていて素晴らしい。95は全てがパワフル。

53、63、73、83、93
第十回のワイン
左から95、85、75、65、55、45

僕の評価 パーカーポイント ラベルを描いた画家名 飲んだ日
1945 ★★★★★ PP100 PHILIPPE JULLIAN 2002/1/19
 色は茶がかった輝きのあるガーネットでエッジは淡いオレンジ。干しイチジクやチョコレートのような香りに、ミント調の香りがさわやかにプラスされ、複雑さが膨らんでいる。非常に特徴的な香りであるように思う。口に含むと、香りとは裏腹にしっかりした且つ滑らかな酸とタンニン。甘さも程よい。ひとつひとつの要素が主張しているが、それらが見事なバランスで調和している。
 これは事前に頭にインプットされた情報云々にかかわらず、本当にエクセレントなワイン。数十分経ってもそのバランスを崩さない、主張を持った繊細なこのワインは満場一致で本日のイチオシであった
 ちなみにこのワインの澱は、な・なんと!!雉胸肉のソテーのソースと化したのでありました。美味しかった〜♪
1955 ★★★★☆ PP97 GEORGES BRAQUE 2002/1/19
 色は茶がかったガーネット。中央部はそれなりに濃い色を保っている。紙面に落とした一滴には複雑性が良く見て取れる(これは45と75にも見ることが出来た)。香りは凝縮した黒系のベリーの香りに多少のヒネ香。ハーブや青草、白胡椒、インクなど。味わいは甘みと苦味、タンニンがしっかりしていて酸はソフトな印象。アフターは甘苦系の味わいが舌にまとわりつくといった感じで驚くべきもの。しかも長く続く。
 まだまだ熟成するだろうと期待の膨らむ一本。これからどのように変化するのか、数年後に機会があったらまた是非飲みたい。
1965 ★★★☆ --- DOROTHEA TANNING 2002/1/19
 色は照りのある淡いガーネット。単調な色合い。香りは弱めであるが、イチゴとチョコレートの交じり合った古いピノノワールを思わせる香り。ハーブのようなミントのような香りは透き通ったイメージを感じる。樽香は少々。味わいは酸味がはっきりしていて甘さもすっきりしている。タンニンも非常にやわらかくアフターもすっきり。
 何も考えずに飲めるが何かが物足りないか。。。年とともに水に近づくワインは美味いと思うがこれは何かが違う。。。何だろう?
1975 ★★★☆ PP90 ANDY WARHOL 2002/1/19
 色は濃いガーネット。香りは墨汁や西洋杉の香りが強く、果実香は隠れてしまっている。味わいは苦味とタンニンが顕著で甘さが乗ってこない。エグいオレンジと評する同席者がいたが、まさにそんなイメージ。
 色合いは非常に複雑なニュアンスがあるのだが、香り・味に果実らしさが無い。うーむ、閉じているのか、こんなポテンシャルなのか、評価がかなり難しい。75年の夏は非常に暑く各シャトーのブドウの出来はバラバラなようだが、このムートンは化けるかこのまま沈んで行くのか。。。
1985 ★★★★☆ PP90+ PAUL DELVEAUX 2002/1/19
 色は濃いめのルビーでジョンブは強い。香りはまずロースト香、その後干しイチジクや青茎、西洋杉の香りなどが感じとれる。口に含むと甘みが膨らみしっかりしたタンニンが現れる。
 今日の2番目に好きなワイン♪凝縮した果実に上品でほど良いロースティな感じ。。。ムートンらしさが出た一品でしょう(かなりのコジツケ?)。
1995 ★★★★ PP95+ ANTONY TAPIES 2002/1/19
 色は濃い!エッジがピンクがかったルビー。ジョンブは強め。鼻を近づけるとまずものすごい凝縮感のある干しイチジクの香りを感じる。その後にロースト香や樽香が押し寄せる。味わいはもの凄くしっかりした酸味と果実味、タンニンを感じる。それらが「ぶわっ」と口の中で膨らむ。アルコールのボリューム感もあって、すべての強さに圧倒される。
 このワインを一言で表せば「パワフル」なワイン。また、強い香りを感じた反面、まだまだ閉じているといった抵抗力もあるように思える。ブドウの強さを感じることの出来るワインと言うべきか。



とうとうムートン完全制覇の会が終わってしまいました。。。(泣)
毎月毎月、東京の職場や自宅から横浜に通うのは結構大変でしたが、ムートンを楽しめるという喜びや当たり前のように顔を合わせていた参加メンバーとの賑やかな交流が無くなってしまうのは、なんだかとても寂しく思います。

また、この会では得たものはとても大きなものでした。
ワインに関して言えば、巷のムートンの評価と自分の鼻や口で感じた味わいは、大きく違う場合があるということを自分で確認できたということ。また自分なりの表現でテイスティングを楽しめたということ。滅多に逢えない最高のワインを味わうことができたということ。中でも45の独特な香りと味わいのバランスの素晴らしさ、46の優しさ、55の今後の発展の大いなる可能性、73の意外性、82の頑なな性格。。。言い出したらとまらないぐらい印象的なワインがありました。
あと、ムートンはムートンでもヴィンテージが変わればまったく違う一面もあるということ(“ブラインドで出されてもムートンとは分からない”とはっきり感じるヴィンテージもあった。特に65年。)。←これは「お前、ムートンあれだけ飲んでんのに何で当たらんのか!?」と後で罵られると怖いので、事前策として“逃げ”を書いておきます(笑)

残念なのは1回欠席してヴィンテージ末尾が9のものが飲めなかったこと。
完全制覇ならずでした。
でも、ダメージを受けて本来の味わいが出せていなかったヴィンテージを含め、これからの楽しみがまだ残っていると思えば逆に良かったと思っています。

さて、どなたか49と59飲ませてください(笑)

最後に、このような機会を与えてくださった横浜ゴトー酒店の後藤さん、
毎月会を楽しく盛り上げていただいた参加メンバーの皆さん、
そして美味しい料理&数々のわがままを聞いてくださった霧笛楼のスタッフの皆さん、
一生の思い出をどうもでした!


平成14年1月21日  世田谷太郎



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