あなざー らぶ いず ですとらくてぃぶ

03/04/98

 

時に西暦2016年、ネルフは最期への道をたどっていた。ゼーレとゲンドウの決裂、
A801の発動、マギのハッキング。一つ一つが死刑台への階段の一歩であった。

ハッキングが赤木リツコによって何とか防がれても、それはただ死への時間が延びたこと、
その事をみながうすうす感じ始めていた。

この後にはおそらく実戦部隊による実力占拠がある。衛星・レーダーによる情報、マギによる分析、
そして、ゲンドウ、冬月による推理、いずれも出す結論は同一である。

そして、そうなった場合、こちらは不利。時間が残り少ないのもあるが、一番の問題は兵力差である。
これを埋めるには地の利と計略しかない。

これが普通の戦争なら今のうちに逃げるか白旗をあげるという手もあるのだが、彼らにはその
手段もとれない。(逃げが得意の某要塞・艦隊司令官だったらどうするだろうか)

だが、ネルフには不敗のマジシャンこそいないものの、その語源のマギがいる。独創的な発想は無理だが、
疲れ無しで彼らの頭脳をサポートしてくれるのはありがたい。

さらに、世界最高の作戦部長と科学者がいる。この双璧は大いに心強い。

だが、その一璧、ミサトは考えていた。いや困っていたというのが正解か。戦自に出動命令が下っているのは
もう解っている。こちらから打って出ることができない以上、取る戦略はろう城戦。地の利がある以上、
ある程度の戦力差は埋められるはず。ただ、効率的な戦術が思い付かない。

ある程度まで浮かんだ戦術はこうである。

中くらいのゲートを一つ残し、後のゲートを自爆、その内側の通路をベークライトで固め侵入経路を
一つに絞る。その一つも脇道をベークライトで固め、長い一直線の通路を作っておき、そこに敵が
集中したとき一気に攻めるといったもの。

だが、最後の決め手が無い。

悩んだ挙げ句、ミサトは意を決すると赤木リツコや部下の日向マコトに近づき、そして、結論をこうかたる。
「もうなりふりかまってらんないわ。追い込んだ敵に閉鎖空間の中で、BC兵器を使うわよ。」

「しかし、葛城さん、細菌やウイルスは培養に時間がかかりますし、毒ガスも今からじゃ製造は…」
難色を示す日向。無理もあるまい。

「だからリツコ、いや、赤木博士にお願い。なんとかして。」

そのとき、ミサトの胃と腸が主人の待遇に不満を漏らすようにぐーとなった。

「どうしたの、ご飯食べてないの?」

「うー、ちょっちね。シンちゃんがあんな感じでしょ。ここんとこまともなもの食べてないのよ。」

その時、リツコの目が鈍くとも鋭くともつかない光で輝いたことにミサトは気がつかなかった。

「解ったわ、手段は何とかする。あなたは腹ごしらえしてらっしゃい。戦術はマギがつめてくれるし、
腹が減っては戦ができぬっていうでしょ。そうだわ、野戦食って事でみんなにカレー作ってあげれば?
美人と強運の作戦部長手作りってことで喜ぶかもよ。」

「そうですね、僕もぜひ食べたいです。」喜ぶ日向。

「そう、じゃはりきっていってくるか。」いそいそと食堂へ行くミサト。

それを確認したリツコはゲンドウ、冬月に化学兵器の製造の了承を求めると(もちろん、問題ない、
やりたまえとの返答)、特殊兵器製造班を招集した。

そのころ、ミサトはあっという間に(五右衛門風呂何杯もあろうという)カレーを作り上げていた。
そこへリツコがやってくる。

「うちの特殊兵器製造班に一番に食べさせたいの、もう時間が無いし。あなたは、シンジ君や
発令所の分を別に分けて向こうへもってって食べてくれる?司令達も離れられないし。」

「わかったわ」いそいそと鍋に10人分ほどいれてもって行くミサト。

するといれかわりに完全武装の特殊兵器製造班が来る。

「早くこのカレーを濃縮して。それと食紅でも青色1号でもいいから適当に色付けといて。
これがカレーとばれたら
殺されるわよ。」

ミサトがちょうど司令部に戻る途中にシンジがいた。

「シンちゃん、こんなところにいたら危ないわよ、早く私と一緒に逃げなきゃ。」

ずるずると引きずられるシンジ。

「そうそう、発令所に着いたらカレー食べさせてあげる私がさっき作った特製よん。」

それを聞いたシンジ、急におびえるように叫ぶ。

「いやだもう食べたくない、食べるくらいなら死んだほうがいい!」

ミサトは態度も声も急変。

なに甘ったれたこといってんの。あんたまだおなか好いてないんでしょ!
しっかりおなか減らして、それから食べなさい。!!

無理矢理引きずられるシンジパート2。

発令所に着くと同時に戦自の侵攻が始まった。

「これからご飯だってのにい。それにリツコは?」

「大丈夫。ちゃんと完成させたわ。」通信がリツコの研究室から入った。
発令所に戻ったらカレーを(無理矢理)食べさせられるとの危惧であろう。

予定どうり一つを残して自爆、進入不能になるゲート。そして、わざと盗聴されやすいように
無線を流す。つまり、残ったルートから司令達が脱出するとの偽情報を。

集中する戦自隊員。そして、そのすべてがそのルートに入ったとき、いきなり閉まる後ろのゲート。

今度は進行方向のシャッターがしまった。そして、彼ら戦略自衛隊にとっての悪夢の始まり。

通気孔のダクトから流れ出る不可思議な色の液体。

これは、カレーのにおい?」それが彼らが感じた最後の感覚であった。倒れていく隊員達。

戦略自衛隊の進行は阻止された。歓喜する発令所。

「ようし、戦いにも勝ったことだし、葛城さんのカレーで祝勝会だ」喜ぶ日向。

一人隅で嫌がっているシンジを除き、その案に賛成した。

 

そして、彼らネルフにとっての悪夢の始まり。

ばたばたと倒れるネルフの面々。

冬月「ユイ君、そこにいるのはユイ君だな」バタン。

日向「葛城さーん」バタン。

マヤ「先輩、先輩、せんぱーい」バタン。

哀れ、幻を見ることも無く気絶した青葉。

ゲンドウは一人被害を受けなかったリツコの部屋へ「冬月先生あとはおねがいします。」と言い残し
(
冬月は倒れていたが、目に入っていない)残った気力と体力のすべてをつぎ込み向かった。

「赤木リツコ君。君は本当に(要領がいいな)」といって倒れるゲンドウ。

「ウソツキ(誉める気なんて無いくせに)」それはそうだ。これは皮肉なのだから。

その惨状を見たミサト「か、加持君、これで、(カレーはこのレシピで)良かったのよねえ。」

もし、そこにいたら彼はこう答えただろう。「違うな。それは。そう思っているだけさ。」

 

主要メンバーで被害を受けなかったのは、作った本人のミサト、逃げを決めたリツコ、

入院中のアスカ、そして、「私、肉嫌いだもの」「私はあなたの人形じゃない」と、
やはり逃げたレイであった。

最もネルフ側は、濃縮していないカレーだったので、死までは至らなかった。

 

 

そうそう、数日後目を覚ましたアスカが、ネルフ中に染み付いたカレーの匂いに
気持ち悪い」といったところ、無理矢理カレーを食べさせられたシンジに
「この苦労知らずー!」と首を絞められたのはまったくの余談である。

 

あとがき

どうもはじめまして。みやびーでございます。

初めてのssですがいかがでしたでしょうか?

この話の元ネタは二つありまして、一つが、今年の正月にやっていた衛星放送の
エヴァ(デスアンドリバース)でして、マギがハッキング受けてから戦自が攻めてくるまでの間
ネルフの連中の対応がなんか怠慢だなと見てて感じた次第。そこで、この間に最大限の対応をしたら
彼らはどうなっていたかを書きたかったんです。

もう一つが、TBSテレビで日曜にやっている「うわさの東京マガジン」という番組の中の
「やってTRY」というコーナー。若い人に習字や料理や簡単な工作をさせるというコーナーなんですが、
これに出てくる人のひどいこと。もしミサトさんが出たら劇物か化学兵器でも作りかねないな、とふと思いました。

この二つが化学変化を起こしたのがこのssというわけでして、ま、ダークにならず、軽く読んでいただきたいと思います。

お粗末さまでした。