KA・MO・ME

<1000hit記念>

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  紺碧の空は、高く高く、どこまでも澄み渡っていた。

  
  「おい、ケンスケ。あれはタカとちゃうか?」

  「白いタカなんてみたことないよ」

  眼鏡をかけた少年は、双眼鏡を取り出した。

  「へへー、これ、ドイツ製なんだぜ」

  「ドイツのでも、オランダのでもええから、はよ貸せや」

  「いいけど、壊すなよ。小遣いつぎ込んでんだから・・・・」

  ジャージ姿の少年は双眼鏡を受け取ると、天空の一角に向けた。

  「あれは・・・・・・」

  
  それは、兵装ビルの間を、ゆっくりと双翼を大きく広げて飛んでいた。

  1回、2回、3回。

  それは、半壊の兵装ビルを旋回すると、

  最後に兵装ビル群を中心に大きく弧を描いて旋回すると、

  しばらく、名残惜しげに中空にとどまっていたが、いずこともなく飛び去った。


  「何だった?」

  「・・・・カモメやったわ・・・・」

  「そんなはずないだろ。ここは、新小田原から、かなり内陸に入ったところだぜ。ここまで飛んでくるわけないよ」

  「でも・・・・確かに、あれは・・・・」


   
  「暑いな。こう暑くっちゃ、仕事にならないぜ」

  スイカ畑の手入れに精を出していた、長髪の男は、天を見上げた。

  「あれは・・・・・・」

  見上げた空を、それは舞っていた。

  双翼をやや傾けて滑るように、羽ばたくこともなく。   

  「あのあたりは、鷹巣山から双子山のへんだな・・・・・」

  男の視線に気づいたかのように、それは、進路を西に変えると、

  ゆっくりと大きく旋回しながら飛び去った。

  「あのあたりも変わったな」

  彼はつい先日、そのあたりに行ってみたことがあった。

  大きくえぐられた土肌には、今や草が一面に芽吹き、

  風に吹かれて揺れていた。


  
  「データ計測を始めるから、指示どおりに動いてみてくれる?」

  「分かりました」

  「ねぇ、シンジ、今日の晩ご飯、ステーキ食べたいな」

  「で、でもねえ、今月の予算はもう残り少ないし・・・・・」

  「なによ、あんた!! このあたしが食べたいって言ってるのよ!! 予算少ないのなんて、とっくに知ってるわよ!!

  そこをなんとかやりくりするのが、あんたの役目でしょうが!!」

  「ちょっと、アスカ、実験中よ。私語は慎みなさい」

  「あんたがぐずるから、話が長引いてリツコに叱られちゃったじゃないのよ、バカシンジ!!!」

  「そ、そんなあ。」

  少年が困った顔をして天を仰いだとき、それはみえた。

  それは、ゆっくりと双翼を大きく広げて降りてきた。
  
  「あれは・・・・」

  「あ、カモメじゃない。珍しいわね。っていうか、どこからジオフロントに入ったのかしら?」

  長い黒髪の娘がモニターをみつめながら呟く。

  「この間壊れた隔壁がまだ修理中なのよ。たぶん、そこから、よ」

  金髪に眼鏡をかけた娘が答えを返す。


  それは初号機の頭上で少し羽を休めた。

  そして、2体のエヴァを中心に大きく弧を描き、大きな双翼をいっぱいに広げて、悠然と飛んだ。

  1回、2回、3回。

  それはエヴァから離れて飛び去ろうしているようにみえたが、もう一度引き返してきた。

  ゆっくりと羽ばたきながら、しばらく名残惜しげに中空にとどまっていた。

  そしていずこともなく飛び去っていった。



  「・・・・・あれは・・・・・」

  発令所で他の職員と一緒にモニターをみていた蒼髪の少女は呟いた。

  彼女が乗るべきエヴァは、もう、ない。

  彼女も、彼女であって彼女ではない。 

  蒼髪の少女は気づいた。

  (・・・・羽ばたきの周期が・・・・ヒトの脳波パルスと似ている・・・・・)



  第三新東京市。別名、使徒迎撃専用要塞都市。

  その役目は数ヶ月前に終わった。

  今は損壊部分の大規模な復興工事が行われている。

  国連および政府の公式発表では、一連の使徒迎撃戦での死傷者は皆無、だった。



  だが、みんな決して忘れていない。

  使徒を足止めするために壊滅した戦略自衛隊の戦闘機や戦車大隊、そして砲台があったことを。

  それを駆使して自らの使命を果たそうとした人がいたことを。

  非戦闘員の避難用シェルターのいくつかが大きく損壊したことを。


  それは決して忘れてはならないこと。

  その人たちの未来の代わりに、自分たちの未来が許された。

  市内や郊外を歩いたときによくみてみるといい。

  名も無い街路、山中、河川のほとり、田園風景の中、

  いろいろなところに人知れず置かれた小さな石碑や地蔵があるのを。




  それは、市内上空を飛びまわったあと、市街が一望できる展望台に舞い下りた。

  復興の槌音の響く市街をしばらくみつめていたが、

  やがて大きく翼を打ち振ると、高く高く舞い上がった。

  まるで、ようやく安心したかのように。

  そして二度と降りてくることはなかった。



  
  紺碧の空は、高く高く、どこまでも澄み渡っている。

  主は天上にあり、世はすべて事もなし。


F i n

ああ、とうとうやってしまいました、シリアスSS・・・・。
自分で書いてて、赤面しますね。
やっぱ、慣れないことはするもんじゃない・・・・・。
2000hitのときには、お笑いにします。


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