リレー小説
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<<NERV広報部の逆襲!>> #1 by さとし
西暦2015年、第3新東京市直下ジオフロントネルフ本部。
無意味に広いとしか言いようのない司令室で冬月副司令は幾つかの書類を眺めながらため息をついていた。
「うーむ、全く、雑用ばかり増やしおって。碇の奴、少しは自分でやればいいものを」
今日はゲンドウは市内へ出かけていて本部を留守にしていた。
誰もいない司令室を見渡して、冬月はもう一度ため息をつくと立ち上がり気分転換のために部屋を出た。
冬月が悩んでいるのは、先日CMで地に落ちたネルフの評判をすくい上げるべく苦し紛れに広報部が提出したチルドレンを利用したイメージアップ企画の内容についてであった。
第3新東京市では中高生を中心にして秘かにチルドレンの人気が高まっている。
広報部の案はそれを利用してなんとかネルフの評判を少しでも上げようと言う、まさに苦し紛れの愚策である。
一笑に付すべきであるのにこの企画書を読んだゲンドウは何が気に入ったのかこれをプロジェクトとして正式に認めると言いだし、今日もレイをつれて出かけてしまったのだ。
そして今、冬月は留守の間プロジェクトメンバーを選び、そして稼働させるための下準備に追われていた。
「レイ、ここだ」
「はい」
ゲンドウはレイを連れて図書館の前に立っていた。
ゲンドウはネルフ司令官の制服、そしてレイは一中の制服のままである。
通りかかる人たちの好奇の視線をものともせず、二人は平静な顔をしてこの暑さの中、無表情に建物を見上げていた。
夏休みも終わり、閲覧者の姿も少ないようだ。
「手始めの練習としてはちょうど良い。行って来い」
「はい」
レイはちょっと視線を上げた後、すたすたと館内へ入っていった。
エレベーターの前まで来るとちょうど扉が開いて鼻歌を歌いながらマヤが降りてきた。
「あ、冬月副司令」
「おお、伊吹くん。ちょうど良かった。今、時間があるかね」
マヤはちょっと困った顔をしたが副司令の言葉を無視できるはずもなく立ち止まって話を聞くことになった。
「何のご用でしょうか?副司令」
「うん、実は新しいプロジェクトを始めるためにスタッフを募っておるのだ。君は最近はどうかね、忙しいのは分かっているが、もう一つ新しいのを何とかならんかね」
「プロジェクトって、シンジ君たちを宣伝に使おうって言う、あれですか?」
「おや、もう知っているのかね、それは話が早い」
「ええ、結構噂になっていますよ。それで具体的にはどういうことをするプロジェクトなんですか?」
マヤは子供たちを利用するという考えに反発を覚えながらも、興味を隠しきれなかった。
「一日駅長とか、一日署長とかあるだろう。あれをレイとアスカ君にやってもらうつもりらしい」
「・・・それはどなたの発案ですか?」
「いや、碇の考えだが」
「申し訳ありませんが、今MAGIのシステム向上で手が一杯で。あまりお力になれそうもありません」
マヤはそう言うと頭を下げて、そのまま立ち去った。
冬月は後ろ姿を見送りながら、今更ながら前途が多難であることを感じていた。
「どいてくれる」
「・・・はあ?あの、何のご用でしょうか?」
司書の女性はカウンターの中から顔をあげて不審そうな表情を見せた。
「そこ、私の場所」
司書はどういった対応をとればいいのか一瞬迷ったようで困った顔をして、レイの紅い瞳を見つめたが、すぐに何か、思い当たったようで、おそるおそるレイに尋ねた。
「もしかして、館長が言っていた【一日館長】の綾波レイさん・・・ですか?」
「そう」
「あ、あの、はい、ではとりあえずこちらへどうぞ。館長室にご案内いたしますから」
「いい、仕事だから」
その日図書館は仕事にならなかった。
「あのー。ごめんなさい、ぼく、かりてた本をなくしちゃったんですが」
「どうしてなくしたの」
「えっと、なつやすみまえにかりて、おばあちゃんのところに行ったんです」
「どうしてなくしたの」
「いとこの健太くんが読みたいっていってもって行っちゃったんです」
「それでなくしたの」
「ごめんなさい。でも、でも、健太くんが・・・」
「それでなくしたのね」
「うぅ、うぅ、わーん、おかあさーん」
館長になだめられながら連れて行かれる男の子の後ろ姿を見てレイはつぶやいた。
「笑えばいいのに」
次の日、マスコミに何の反響もなく、失敗におわったことを聞いたゲンドウは「次がある。問題ない」と冬月に告げた。
冬月はゲンドウの後ろ姿を見ながら胸の内でうめいていた。
「メンバーをどうするんだ、この企画。誰に任せれば良いのだ。それにしても、碇、これでアクセスアップにつながるとはとても思えんのだが」
続く・・・のか?
<<NERV広報部の逆襲!>> #2 by Lich
ネルフ本部、総務部庶務課庶務係のオフィス。
係員の鈴木氏は、「主任相田」のネームプレートの前に呼び出されていた。
「鈴木君、先日の、広報部からの提案の件なんだけどね・・・。」
これが、鈴木氏の更なる受難の幕開けだった・・・。
「ちょっと、なんなの、このダッサイ格好は!」
更衣室を飛び出して来た惣流アスカ・ラングレー嬢が、開口一番そう叫ぶ。
彼女がそういうのも、無理はない。
彼女が着ている服装は、黄色いポロシャツに緑の綿パン、おまけに緑のキャップというセンスという言葉とは全く無縁の格好だったのだから。
「ア、アスカ、しょうがないよ、これがユニホームなんだからさ・・・。」
そろいのユニフォームを着た碇シンジ少年がなだめるが、
「ちょっと、バカシンジ!この天才超絶美少女アスカ様が、こんな格好で人前に出られると思ってんの!」
アスカ嬢は、ますます猛り狂う。
「弐号機パイロットは、何を怒っているの?」
同じ格好をしながら、一人平然としている、綾波レイ嬢を見ながら、
「これでだいじょうぶかなぁ・・・?」
鈴木氏は、一人、ため息をついた。
相田主任からの話とは、広報部提案の、「チルドレンを活用したイメージアップ作戦」の一件であった。
先日の綾波レイ嬢による一日図書館長に続き、別の公共機関とタイアップしたイメージアップ作戦を碇司令から命令された広報部が、総務部庶務課に泣き付き、庶務係の鈴木氏が、大学の同期である、第三新東京市清掃局減量美化推進課勤務の佐藤氏を通じて、「ごみのポイ捨て防止キャンペーンのイメージキャラクターの依頼を受けたのだが・・・。
「ちょっと、そこのあんた!」
アスカ嬢の声が、新品川駅前に木霊する。
「な、なんだ?」
呼び止められた、通行人A氏が立ち止まると、
「このあたしの目の前で、たばこのポイ捨てとは、良い度胸してるじゃない〜。」
背中に、目に見えるほどのオーラを背負いながら、A氏に詰め寄るアスカ嬢。
「な、なにも俺だけじゃないだろ!他にも捨ててる奴はいるじゃないか!」
弱々しい口調で抗弁するA氏だが、
「問答無用!天が許しても、この天才美少女アスカ様が許さないわよ!」
たちまちアスカ嬢に叩きのめされてしまう。
「いやあ、最近のお嬢ちゃんは、元気が良いのう・・・。」
そろいのユニフォームに身を包んだノーポイリーダーズ(ポイ捨て防止キャンペーンのボランティアスタッフ)の老人達が、感心して見守る中、アスカ嬢の天誅が、次々と下されていった・・・。
「・・・そこのあなた・・・。」
新代々木駅前で、レイ嬢の静かな声がする。
「なあに、お姉ちゃん?」
小学生くらいの少年B君が振り返る。
「・・・どうしてお菓子の包みを捨てるの・・・?」
レイ嬢は、あの、何もかも見透かすような瞳で見つめながら、尋ねる。
「え〜、だって、邪魔なんだもん〜」
答えるB少年に、
「邪魔だったら、道端に捨てるの?」
レイ嬢はさらに問い詰める。
「だ、だって、ごみは捨てないといかないし・・・」
「じゃあ、ちゃんとごみ箱に捨てたら?」
「ごめんなさい、でも、ごみ箱、見当たらないし・・・」
「ごみ箱を探して捨てたら?」
「うぅ、わ〜ん、ごめんなさい〜、申しません〜」
泣き出してしまったB君を見つめながら、ごみ袋を握り、レイ嬢はつぶやく。
「泣くぐらいなら、最初からこのごみ袋に捨てれば良いのに・・・」
「あ、あの、そこのあなた・・・」
新駒沢駅前にで、碇シンジ君がおずおずと声をかける。
「え、私?」
20代半ばほどのOL、C女史がUターンする。
「あ、あの、その、ハンバーガーの包みを、道端に捨てるのは、良くないと思いますよ・・・」
シンジ君は、曖昧な笑顔を浮かべながら、恐る恐る注意すると、
「あれ、あなた、サードチルドレンの碇シンジ君ね?」
C女史は嬌声をあげる。
「はい、そうですけど・・・。」
気弱な口調のシンジ君の返事に、
「きゃー、かわいい〜!」
C女史が金切り声をあげる。
「え〜、シンジ君がいるの?」
「え〜、どこ?どこ?」
「うわ〜、本物だ〜!」
「ウワイ、実物だ〜!」
「超かわいい〜」
たちまちもみくちゃにされるシンジ君を見ながら、
「若い者は、ええのぅ〜」
ノーポイリーダーズの老人達は、のんびりと缶入りの緑茶をすすっていた・・・。
重傷者5名(シンジ君に詰め寄った女性達に踏みつけられた諜報部員)、軽傷者17名アスカ譲に叩きのめされた)、泣き出した子供15名(レイ嬢に注意された)・・・。
惨澹たる結果報告を見た赤木博士に、一言、
「無様ね」
と切って捨てられた鈴木氏は・・・
「ドナドナドナドナ〜、荷馬車は揺れる〜・・・」
佐藤氏と一緒に「ドナドナ」を合唱していた・・・
続く・・・のでしょうか?
<<「NERV広報部の逆襲!」>> #3 「NERVの希望は電波に乗るか」by みやびー
ネルフ本部、広報部の部屋。
その一番奥の一角に竹生広報部長のデスクが有る。
そこで、部長はコップの水を一息にあおった。
一年中夏の気候で喉が渇いていたわけではない。
胃薬を飲むためである。
それも、効き目穏やか漢方薬派だったはずの広報部長が、ついに胃薬の最終兵器「H2ブロッカー」に手を出していた。
もちろん、彼の胃痛の原因が使徒ではなく、先日来の「ネルフイメージアップ作戦」のせいであることは自明の理である。
司令・副司令からの有形無形のプレッシャー、諜報部・総務部等他のセクションからの抗議が重なった状態におかれて、胃がおかしくならない人がいれば顔を拝んでみたいものだな、と広報部長は思っていた。
さて、そんな状況お構い無しに、碇司令からの次なるイメージアップ作戦の遂行が命じられる。
といっても、具体的な内容は当然広報部任せであるが。
「いくらやってもだめなものはだめ、どうせだめなら酒飲んで寝よか」
と開き直れないところがサラリーマンの辛いところ。
第3新東京市とのタイアップは今回は見送った方がいいな、と広報部内の意見は一致してるのだが、さて、何をするか。
こんな時は部下から意見を聞く。
会議だと発言しないだろうから、企画書にして一人一つアイデアを出せ、と命令した。
さて集まったアイデアである。
その中にあった若手広報部員の企画書の一つに部長は目を奪われた。
「「ええっー!僕(私)がラジオのパーソナリティーやるんですか(のー)ー!」」
久久に決まったアスカとシンジのユニゾンである。
「そ、第3新東京市の中でコミュニティFMをネルフが開局するの。で、ネルフの広報やったりするんだけれど、やっぱりメインはチルドレンのあなたたちに出演して欲しいってことなのよ。でね、…」
ミサトの説明中、喜色満面のアスカ、当惑顔のシンジ、そして、あいも変わらず何を考えているのか、その表情からは「全く」といっていいほど伺えないレイ。
企画書にはこうあった。
「前回の失敗はチルドレンと一般市民の直接の接触にある。また接触をしてサードインパクト(笑)を起こさないようにするには、放送媒体によるものが最適であろう。今世紀に入っての一層の規制緩和によって、一定地域の中なら放送免許は比較的簡単に取れる。そこで、チルドレン中心にコミュニティFMによる情報提供を行えばネルフのイメージアップと情報管理の一石二鳥であろう。」
と、いうことで、その発想のユニークさに飛びついた広報部長である。
ま、人間、体調が悪いとすぐに良いと思える考えに飛びつきがちなのは筆者が身を持って体験済みである。
閑話休題。
放送免許はちょいと(かなり、ともいう)第2東京に圧力をかけて取得、放送設備は通信用のものを技術部に頼み込んで改造、さらに技術部に頼み込んで、あるものを10000個作って市民に無料配布することになった。
それは、「NERV−FM」聴取専用ラジオである。
しかも、ひそかに、リアルタイムで聴取率(テレビで言う視聴率)の集計がマギ経由で出来る機能が内蔵されている。
(余談であるが、ラジオの製作・配付の予算は、広報部のガタがきはじめたコピー機の更新予算その他の流用でまかなった。これにより、広報部員の八丈たちの朝のコピー取りなど、日々の事務の苦労が軽減されるのは当分後である。ちなみに、コピー機の相場であるが、業務用の場合、大体一機100万は下らない。)
さて、場面をミサトとチルドレンに戻す。
「でね、その最初をだれにし「はい、はい、はーい!私やりまーす」」
大方の予想を裏切らず、ミサトの発言を遮って一番先に手をあげるアスカである。
ま、あとの二人が積極的に手をあげるわけが無いのだが。
と、言うわけで、多少の経済的な難点を克服しつつ、ついに、「NERV−FM」の開局の日を迎えることと相成った。
ハード的には問題はない。むしろ…そう、ソフトこそが最大にして唯一絶対の問題をはらむ要素である。
「はろー!ぐーてんもーげん!こちらNERV−FM。今日から開局のクールでナイスなラジオ局なんだから。この私超絶美少女アスカ様の顔が見せられないのがちょーっと残念だけど、そこはこの美声でカバーしちゃうわ!この美声をリアルタイムで聞けるんだからよーっく感謝するように、いいわね!それじゃ、まず一曲かけようかしら、…」
「広報部長!成功です!マギによると、ほとんどが電源がオンになっています。しかも、苦情の電話もほとんどありません!」
広報部員の明るい声が響くのはいったいどれくらい久しぶりのことだったろうか?
つい部長の涙腺が緩む。
「これで、H2ブロッカーともおさらばできる」
そう思ったことは想像に難くない。
そして、数日後、今度は投書が殺到した。
アスカの番組への感想も少なくはなかったが(好評が不評より現時点では多いことは多い)、圧倒的大部分が、「他のチルドレンも出せ!」というものであった。
「というわけで、レイ、シンちゃん。あなたたちにもやってもらうからね。」
「無理だよ、見たことも聞いたことも無いのに出来るわけ無いよ!」
「ただマイクの前でしゃべっていればいいわ。それ以上は望みません(それが難しいんだって)」
「ラジオ…声を電波に乗せるもの…パーソナリティー…ラジオに向かってしゃべる人…電波が私の声を乗せる…そう、これが電波が結ぶ絆なのね…」
果たして、このまま成功は続くのか?
広報部長に本当の平安の日は訪れるのか?
H2ブロッカーは本当に要らなくなるのか?
それとも、ドナドナを歌う羽目になるのか?
それは、筆者にも解らない。(爆)
それでは、このあともリレー小説が続くことを願って。
<<「NERV広報部の逆襲!」>> #4 「恵理子登場」by さとし
「おかあさん、おにいちゃん、どうしたの?」
「えりちゃん、お兄ちゃんはね、お仕事で色々とあるのよ。心配しなくても大丈夫、またえりちゃんと遊んでくれるわ」
第三新東京市の郊外にある公務員用の集合住宅。
表札には鈴木と記されている。
集合住宅とは言え、なかなかセンスも良く、綺麗な建物で周りには緑が広がっている。
ただ、人口が激減しているとはいえ、将来の首都として設計されているだけあって決して土地が潤沢にあるわけではなく、周囲の緑地は今後のために確保して置くという目的もあるのだが・・・
鈴木恵理子
来年の春、つまり四季を永遠に失ってしまった常夏の国日本の4月、と言うことだが、今度の春に小学校に入学する鈴木氏の年の離れた従姉妹である。
セカンドインパクト後の混乱の中、恵理子の両親はかなり無理をして生活しており、その無理がたたったのか5年前恵理子を出産してすぐに産褥のために母親が、そして後に残された父親も過労のために早逝してしまった。
そのため、鈴木氏の両親が他に身よりの無い恵理子を引き取ったのだ。
出生直後から鈴木氏の家庭に入ったため、もはや家族も同然ではあるが、やはり鈴木氏の両親とは年が離れすぎていることもあって感覚的には孫という感じになってしまっている。
鈴木氏にしても思春期後半から青年時代にかけて面倒を見てきた恵理子は妹と娘を足して2で割ったような気持ちをもつ相手になってしまったことを自分でも薄々ながら感じていた。
恵理子は鈴木氏に随分と懐いていた。
「でも、おにいちゃん、さいきんへんよ」
「えりちゃん、お兄ちゃんのことをそんな風に言うもんじゃないわ。・・・それで、お兄ちゃん、どうしたの?」
「おかあさん、ずーるーいー。えりちゃんのこといけないっていっといて、ちゃあんとえりちゃんからおにいちゃんのこときこうとするんだもん」
「あらあら、ごめんなさいね。でもお母さんもお兄ちゃんの事、心配なのよ」
恵理子はこの年頃の子供特有の移り気を見せて、すぐに怒っていたことを忘れてしまった。
「きのうもね、おにいちゃん、おへやでおうたをうたってたのよ。えりちゃん、まえにせんせいからならったことあるからしってるのよ。おかあさん、ききたい?」
「あらあら、えりちゃん、どんなお歌なの?」
「あーるーはれたー、ひーるーさがりー、いーちーばーへつづーくみちー」
鈴木氏の母親は幼稚園でこの歌は早いのではないかと内心思いながら、黙って恵理子がドナドナを最後まで唱うのを聞き届け、大きな拍手をしてみせた。
恵理子はどうやら満更でもない様子でどこで覚えたのか、大げさに一礼して見せ、そのあと鈴木氏の受難は忘れてしまったようで、どこかへ遊びに出かけて行った。
「困ったわねえ・・・今日はあの子のために何か美味しい物でも用意しなくちゃ」
鈴木氏の母親は先程までこちょこちょと動かしていた刺繍針を針刺しに戻すと、買い物に出かけるために重い腰を持ち上げた。
組織においてもっとも仲の悪い相手は身内であることは今更筆者が語るまでもなく教養と実体験から読者諸兄におかれては重々ご存じの事とは承知している。
右手のやることを妬むのは左手、帝国陸軍にとってもっとも敵愾心を燃やす相手とは帝国海軍、人間の敵は所詮人間。
今更なにをことさらに強調する必要があるというのか。
そして読者諸兄の想像通り、今回、ネルフの敵はネルフなのであった。
ネルフ広報部が得た成功をもっとも疎ましく思ったのは竹生広報部長の同期、円山総務部長であった。
この特殊な組織において出世することがはたしてどんな意味を持つのかを知っているのは中枢のごく一握りの人間だけであって、竹生部長、円山部長、両人ともそんな事は全くあずかり知らぬ事であった。
二人はそんなことはつゆ知らず当然のこととしてライバル同士であったのだ。
先日、広報部単独で行われた「ネルフイメージアップ作戦」の成功を受けて、ネルフ上層部では
「餅は餅屋、やはり総務部などに任せずに、予算は広報部へ降ろそう」
という声が高まっていることを耳にした円山部長はただちに総務部も独自の方法をとってイメージアップを成功することを画策しはじめた。
だが、部長は、それまでは庶務課が単独で行っていたために、ほとんどタッチしておらず、とりあえず担当であった相田主任を呼び出すことにした。
「鈴木君、君、今かまわんか」
相田主任は伊達にこの官僚の世界で生きているわけではない。
部長の呼び出しを受けて内容を察し、念のために部下を連れていくことにした。
もちろん、何か無理難題を押しつけられることは判っていたため、鈴木氏を人身御供として専任にあたらせるためである。
そして、相田主任の目論見は見事に成功した。
新人鈴木氏に逃れる術はなかった。
恵理子は幼稚園の友達が大勢いるはずの近所の公園へ向かって元気よく走っていた。
相変わらず強い日差しがアスファルトを焼いてゆらゆらと空気が立ち上り、まるで蜃気楼を映し出すかのように遠くの景色をゆがめている。
恵理子は生まれたときからこの気候で育っているため特に何も思うことなく、精一杯のスピードで熱を帯びたアスファルトを蹴っていた。
「アンタ、何を考えてんの!アタシ(達)はラジオと訓練と学校で忙しいのよ!」
アスカは鈴木氏を睨みながら吠えまくっていた。
もっともこの炎天下、学校帰りにいきなりギラギラと太陽を反射するアスファルトの上を十分以上も歩かされるとアスカでなくてもいらいらするのは無理もない。
だが、隣で歩いているシンジと鈴木氏にとってはアスカの声は福音には成り得なかった。
「ええと、じつはですね、総務部庶務課としましては、もう一度皆さんの協力を得まして、ネルフのイメージアップに貢献していただきたく、」
「それはもう広報部がやってるじゃない。あーあー、アタシもクーラーの効いた放送室に戻りたいわー」
アスカの皮肉っぽい声を耳にして鈴木氏はうらめしそうな顔をして雲一つ無い青空を見上げた。
「あの・・・鈴木さん、僕たち何をするんですか、今回は」
「ええと、確か、碇シンジ君だったね。ん・・・碇?変わった名前だね。どこかで聞いたような・・・。あ、ごめんごめん、今日は君たちには一日警察官として交通安全の指導を手伝ってもらうことになっているんだ。この近くの公園で子供たちが待ってる。もうちょっとなんだけど」
「しかし、なんだってアタシたち突然呼び出されて、しかも歩いて来なきゃなんないのよ!せめてタクシーくらいなんとかなんないの!」
「ええと、庶務課としても予算がありまして・・・」
「それに、前回はアタシたちの護衛にけが人まで出たそうじゃない。もう、チルドレンを直接市民に接触させるのは止めにしたって聞いたわよ」
「ええーと、それはですね、今回は前回とは違って、事前に一般には公表していないんです。で、子供達に今のうちにあなた方の魅力とネルフのイメージを一緒にしておこうという計画なんですが・・・」
もちろん、これは苦し紛れの言い訳である。
鈴木氏としてはなんとか広報部のラジオを上回りたかったのだが、残念なことに彼にはそれだけの創造性はなかった。
筆者も相談されたのだが、筆者(その一)にその才能がないことは筆者(その二&その三)と比べていただければ明白である。鈴木氏、ごめん!
「フーン、日本のことわざってやつね。三つ子の呪いは七代ってやつでしょ」
「いや、まあ、アスカさん、お願いですから今日それを言わないで下さいよ」
「アスカさんなんてやめてよ、気持ち悪い」
そっけなく言い放たれた鈴木氏はいたく傷ついた様子であった。
「言っとくけど惣流さんや、ラングレーさんも真っ平よ。アタシの事はアスカって呼んでよね」
思わずくすりと小さく笑い声をもらすシンジ。
アスカはじろっとシンジを睨んだ。
「あっついわねえ・・・さっさと行きましょ。で、どこなのよ、その公園」
「もうすぐ・・・あと歩いて十分くらいかな・・・アスカ」
「アンタねー、良い年して恥ずかしがらないでよね」
「・・・あの、ところで、鈴木さん、どうして綾波は今日は呼ばれていないんですか」
シンジはアスカへの対応で苦しんでいる鈴木氏を見かねて助け船を出した。
「ああ、彼女は本部だよ。パイロットが全員留守にするのはという声もあって、ネルフ本部で待機している筈だけど」
「ああ、そうですね。わかりました」
その後、鈴木氏とシンジは世間話をしながら歩き続けた。
シンジは人見知りの激しい自分が割と自然に鈴木氏と話せることに驚いたが、それがアスカに困らせられている者同士の連帯感からだということには気がついていなかった。
恵理子は砂場で一生懸命トンネルを作っていた。
この公園はかなり大きく、近くに団地が集中していることもあって、いつも日中には子供が沢山遊んでいる。
恵理子がようやく掘り進んだ指先を友達と砂中で触れあえるようになったとき、ざわざわと声がして大人たちが大勢集まっていることに気がついた。
ここは簡易ステージもついており、いつもは子供たちの遊び場の一つとなっているのだが、今日はもうどかされており、セッティングが始まっている。
向こうの方からは近くの小学校の低学年の子供たちが引率されてくるのが見えた。
「ねえ、えりこちゃん、あれ、なにやってるの」
「うーんと、うーん、うーん、・・・いってみよっか!」
「そうね!いきましょ!」
「あ、でも、このとんねる・・・」
恵理子は惜しそうに自分たちが作った山と埋もれている腕を見つめた。
「もったいないなあ・・・おにいちゃん!」
突然の大声で驚く周囲の園児たち。
恵理子は自分が山を崩した事に気づかずに砂場から駆け出した。
>続くのでしょうか
続けてくれるでしょう(爆)
<<「NERV広報部の逆襲!」>> #5 「鈴木氏、豹変」by Lich
第三新東京市内、某所の公園。
「おにいちゃん!」
五歳ぐらいの女の子・・・鈴木恵理子・・・が、20代前半ぐらいの気弱そうな青年・・・鈴木克也氏・・・、に飛びつく。
「あれ、えりちゃん、どうしてここに?」
困惑した様子の鈴木氏。
「んっとねぇ、えりこね、みんなとこうえんであそんでたらね、おにいちゃんがみえたからね、こっちきたの。」
恵理子は、たどたどしい口調で、鈴木氏に説明する。
「ふ〜ん、そうなんだ。」
恵理子の前に膝をついて、目線を合わせながら返事をする鈴木氏。
「ねぇ、おにいちゃんは、どうしたの?」
屈託のない表情で、恵理子は尋ねる。
「今日はね、お兄ちゃん、お仕事でこっちに来てるんだ。」
優しい笑顔を浮かべながら、恵理子に説明する。
「ちょっと、鈴木!あたし達をほっといて、なに話してんのよ!」
惣流アスカラングレー嬢が、腰に手を当てたいつものポーズで、鈴木氏に叫ぶ。
「あ、すいません・・・、えりちゃん、また後でね。」
恵理子の頭を撫でると、鈴木氏は、アスカ嬢の元へと小走りで走っていった。
「今日は、セカンドチルドレン・惣流アスカラングレーさんと、サードチルドレン・碇シンジさんから、交通安全の指導をしてもらいましょう・・・。」
制服姿の警察官と、並んだ小学校の先生が、アスカ嬢とシンジ君を紹介し、交通安全指導が始まった。
多少のハプニング(おしゃべりを始めた子供を切れたアスカ嬢が怒鳴り飛ばしたり、シンジ君がエヴァンゲリオンのことを聞かれてオロオロしたり)があったりしながらも、順調に指導は進んでいたのだが・・・。
「キャー!」
突然響き渡る、女の子の悲鳴。
悲鳴のした方向には、右手には出刃包丁、左手には女の子を人質に、と芸のない格好の誘拐犯がいる。
左手の中の女の子は・・・。
「あ、あの子、さっきの子じゃないですか?」
シンジ君の言うとうり、恵理子であった。
「おにいちゃん、たすけて〜。」
恵理子が泣き叫ぶ。
周囲に人々が集まり始めるが、恵理子の身を案じて、遠巻きにするだけで近づくことができない(この場には、諜報部のガードもいるが、彼らはチルドレンの護衛が任務であり、チルドレンが危機に陥らない限り、手を出そうとはしない)。
「ちょっと、鈴木!何とかしなさいよ・・・。」
アスカ嬢が鈴木氏を怒鳴りつけようとして、その表情とけはいを見て口をつぐむ。
鈴木氏は、日頃の気弱そうな表情を消し去り、鋭く精悍な物に変えていたのだ。
例えて言えば、獲物を狙う鷹の目の光か、あるいは子を守る猛虎の爪の閃きか・・・。
「近寄るな、近寄るとこのガキをぶっ殺すぞ!」
これまた、芸のない叫びを上げる犯人に、鈴木氏は一言、
「その子を離しなさい。」
それだけで人を斬り殺しそうな鋭い気迫のこもった声で、静かに言う。
その声の鋭さに、犯人だけではなく、周りの人々まで震え上がる。
「う、うるせえ、近寄るんじゃねぇ・・・」
虚勢を張る犯人に、鈴木氏は、
「もう一度言います、その子を離しなさい。」
声に冷気すらこめて、再度言う。
「こ、このガキがどうなってもいいのか・・・。」
尚も虚勢を張る犯人に、
「仏の三度目です、その子を離しなさい。」
鈴木氏は、死刑宣告のような声で言う。
すっかり脅えきった犯人は、瘧にでもかかったように震えだし、破れかぶれになったのか、恵理子を鈴木氏に投げつけると、出刃包丁を握り締め、鈴木氏に突き掛かる。
鈴木氏は、右手で恵理子を受け止めると、あろうことか左腕で出刃包丁を受け止め、さらには呼吸を計り、左腕に出刃包丁が突き刺さったままの状態で、相手の足を払い、犯人を宙に舞わせる。
思わず出刃包丁から手を放してしまった犯人は、頭から地面に激突し、そのまま動かなくなる。
「え〜ん、おにいちゃん、恐かったよ〜。」
ようやく動き出した人々の中で、恵理子は鈴木氏に泣きながら抱き着き、鈴木氏は、
「大丈夫?けがはなかった?」
左腕に出刃包丁を突き刺さらせたまま、痛みなど微塵も感じさせない優しい笑顔を浮かべながら、恵理子の頭を撫でていた。
「いやあ、ドジを踏んでしまいました。」
ここは、ネルフ付属病院外科病棟。
いつもの気弱そうな表情に戻った鈴木氏が、無傷の右手で頭を掻いている。
「ほんと、ドジよね、よりにもよって、腕で出刃包丁を受け止めるなんて!ちょっと躱せばいいのに、とろいんだから!。」
アスカ嬢が、いつもの強気な表情で鈴木氏をこき下ろし、
「ア、アスカ、なにもけがしてる鈴木さんにそんな言い方しなくても・・・。」
オロオロと言うシンジ君と、
「おねえちゃん、おにいちゃんのわるぐちいわないで!」
すっかり元気を取り戻した恵理子が鈴木氏を庇う。
「いやあ、ちょっと心得がある程度で、刃物を持った相手に、合気を掛けようとした、お兄ちゃんが悪いんだよ。」
鈴木氏は、恵理子の頭を愛しげに撫でる。
「しっかし、あんたに付き合わされると、ろくなことがないわね、鈴木!」
アスカ嬢が、言葉は悪いが、いつもより心なしか優しい口調で言い、
「そうですね、またご迷惑をお掛けしました。」
鈴木氏は、素直に謝る。
「鈴木さん、気を落とさずに、きっと次は成功しますよ。」
シンジ君の励ましの声に、
「う〜ん、次が来る前に、首になってるかもしれないねぇ〜。」
鈴木氏は、あながち冗談でもない様子で、だが、『恵理子が無事で良かった』と書かれた顔で、苦笑した。
ちなみに、アスカ嬢の嘆願(というより、脅迫)により、鈴木氏が引き続き広報キャンペーンの総務部での担当を続けるようになったのは、言うまでもない。
但し、その理由は、
「シンジ以外に、あんなに怒鳴りつけ甲斐のある奴はいないわ!」
というのであるから、鈴木氏にとってそれが幸福かどうかは、定かではないが・・・。
>続くのでしょうか
続くといいですねぇ(嘆)
<<「NERV広報部の逆襲!」>> #6 「ぐらすのすち」 by 蒲生碧之介
ここは、ジオフロント内、ネルフ本部の某所にあるベランダ。
そのベランダの正面には、地上からの光を集めて光ファイバーでジオフロント内に運ぶ役割を果たす集光装置がある。
すなわちここは、「ネルフ本部でいちばん陽の当たる場所」なのである。
赤木リツコ博士と、その後輩にして部下でもある伊吹マヤ二尉は、そこで太陽の光のもたらす恩恵にあずかっていた。
簡単に言えば「ひなたぼっこ」をしていた。
二人は、六畳ほどの広さのベランダでうつ伏せになって体を丸くして、両腕を組んでその上に顔を乗せ、左右対称のポーズをとって寝っころがっていた。
ちょうど二匹の猫がお互いに顔を寄せて屋根の上で昼寝をするように。
おまけに二人とも、お手製のねこみみとしっぽ(当然おそろい)を付け、完全に猫になりきっているらしかった。
これはリツコの、あ〜んど作者の趣味であること言うまでもないだろう。
「平和ですねぇ〜、先輩。」
「平和ねぇ。」
「気持ちいいですねぇ〜。」
「そうねぇ。」
「ず〜っとこうしていたいですねぇ〜。」
「ほんとうよねぇ〜。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「二人とも、こんな所でなぁにやっとっちゃあーーー!!!」
泰平の眠りを醒ます大声が響く。
「にゃっ!」
その声に驚いたマヤが思わず猫な叫び声をあげる。
一方のリツコはめんどくさそうに声の主、葛城ミサト作戦部長のほうを向く。
「何の用?せっかく人がいい気持ちでいるところに。」
「先輩、わたしたちは、今は人じゃなくて猫です。」
「それはもういいのよ。で、用件は?使徒でも来たの?」
「『で、用件は?』ぢゃないわよ!技術部だけよ!例の『ネルフイメージアップ作戦』の新提案、まだ提出していないの!」
そう、広報部の企画したラジオ番組の成功によって大きく水をあけられた形になった総務部が、巻き返しを図るための企画を広報部以外の各部署に求めることを司令に申し出て、しかもどういうわけかそれが通ってしまったために、各部署はイメージアップのための新企画を提案するハメに陥ったのだった。
どの部署でも、始めは「あんで俺達が総務部なんかのお手伝いをしなきゃなんねぇーんだよォ。」「あのオヤジ、ちゃんと書類見て決裁してんのかぁ?」「いいの考えてもどうせ総務部の手柄になっちまうんだろ。だぁれが(そんなモン考えるかよ!)。」という空気が蔓延していたが、司令からの命令という錦の御旗にはどうにも逆らえず、結局その後の交渉の結果、手柄は半々ということで一応のケリはついた。
そして、今日がその新企画の提出期限なのだ。
お役所ってえところは期限には特にうるさいトコでありまして、提出期限ギリギリ、時間いっぱい、はっけよーいのこったになってもまだ企画案を持ってこない技術部に対して業を煮やした円山総務部長が、リツコの大学時代からの友人、ということでミサトに取り立てを要請したのでございます、っとくらあ。
「まったく、なんでえこの私があんなオヤジに命令されなきゃなんないの!」
と葛城ミサト嬢29歳、ご機嫌ななめのよ
ズキューン!
「レディに対して年齢のことは禁句よ!」
ごめんなさい。
「で、企画はちゃんと考えたんでしょうね。ま〜さ〜か、なんにも考えてないってえことは、な・い・わ・よ・ねぇぇ〜〜〜っ。」
「大丈夫よ、ところでそちらの企画はどんなの?」
「うちはねぇ・・・聞いて驚かないでね、なんと、『エヴァと市民とのふれあいの日』ってやつ。わが作戦部の自信作よ!!」
「ちょちょちょ、ちょっと、『エヴァと市民とのふれあい』ってどういうことよ!」
「読んで字のごとし、普段はみんなシェルターや街の外に避難してるから一部の人以外は当然エヴァなんて見たことはないわけでしょ。そこで、一日だけどこかの空き地かなんかに三機を持っていって、一般公開するのよ。もちろん、パイロットに乗ってもらって実際に動くところとかも見てもらうわけ。でもって、子供達がエヴァの頭や肩に宮崎アニメみたいにかたまって乗って記念撮影・・・いいと思わない?」
「ふーん・・・、ミサトにしてはいい企画だにゃ。」
「だめです!」
突然マヤが叫んだ。
「なっ・・・、この企画のどこがだめなのよ!」とミサトも食ってかかる。
「先輩、言葉の最後に『にゃ』とか『にゃあ』はだめです!蒲生さんは語尾に『にゃ』とか『にゃあ』ってつける猫娘は嫌いだって、教えてくれたのは先輩じゃないですか。」
ちなみに状況を説明すると、二人ともお手製のねこみみとしっぽはつけたまんまである。
「そうだったわね・・・ごめんねマヤ。うっかりしてたわ。」
「せんぱ〜い(ごろにゃん)。」
「(・・・・・・・・・)で、そっちはちゃんと企画、考えたの?今日なのよ、提出期限。」
「何度も言わせないで。大丈夫よ。」
「で、どんな企画?」
「それはね・・・、」
「ネルフ本部の一日一般公開〜〜〜!?」
会議室に総務部員全員のユニゾンした叫びが響いた。
「しっかし、技術部も思い切ったことを考えましたね。」
「なになに、『ネルフ本部およびジオフロント内の公開によって、閉鎖的なネルフのイメージを一新する』というコンセプトだそうだ。」
「成程・・・、しかし、これには秘密漏洩の恐れがあるな・・・。」
「その辺は向こうも考慮してあるみたいですね。ほら、ここに『但し、エヴァンゲリオンのケイジ等、組織の最高機密に関する施設などは対象外とする』って書いてあります。」
「だが、エヴァを公開しないのは、それはそれで問題があるぞ。なんたって、今やエヴァの存在及び戦果は、市民、いや世界中の人々の間で公然の秘密だからな・・・。」
「それなら作戦部の、エヴァだけを公開するというほうが良いかもしれませんね。」
「しかし、こうした情報公開案というのは諸刃の剣だ。現に旧ソ連も、ペレストロイカ(建て直しの意)においてグラスノスチ(情報公開)を行ったが、数年後にソ連は崩壊したじゃないか。急激な情報公開はあまりにも危険だ。」
「他の企画案は。」
「どれもこれもろくなのがありませんな。何ですかこの人事部の『ネルフのイメージアップのために素晴らしいテーマソングを作ろう!』ってのは。で、試作品のこの曲。『地球の平和はわれらが守る』だの『行くぞ明日の光のために』だの、半世紀前のロボットアニメ並みのくさい歌詞はどうにかなりませんかね。」
「あいつら歌好きで、飲み会のあとは必ずカラオケ行くもんな。」
「あ、そうそう、人事部のテーマって知ってる?『ジンギスカン』の替え歌なんだけど・・・
『じん、じん、人事部〜♪ あ〜すのた〜めにひ〜とを育てて
じん、じん、人事部〜♪ いらないや〜つはどんどんリストラ』」
「君、会議中だ!歌うなんて不謹慎だぞ!」
「は、申し訳ございません。」
「諜報部のほうは?」
「『有志を集めてロックバンドを作ろう。幸いサードチルドレンには楽器の心得があるし、ギターの好きな職員もいる。オリジナルソングなども作成してプロモーションビデオも作る。そして第三新東京市市民文化会館とかでコンサートを開いて盛り上がれば、かなりのイメージアップにつながるのではないか。』です。かなり具体的な案ですね。」
「陰働きをしている連中に限ってそういう風に表でハデなことをしたがるのかもな。」
「意外といいんじゃないスか?」
「甘いな。若い世代ならともかく、上のうるさ方が認めないだろう。そういう連中はいまだに『ロック=不良』と決めつけてるんだからな。」
「じゃあ、これも却下ということで。」
「ふぅ。それじゃ経理部のほうは。」
「えっと・・・『新東京駅の一日駅長』・・・」
「もういい。」
「・・・・・・・・・」
数時間後。
「それでは、作戦部の『エヴァと市民とのふれあいの日』案と技術部の『ネルフ本部の一日一般公開』案の両方をとりあえず提出して、上層部の決裁を仰ぐ、という形でよろしいでしょうか。」
「賛成。」「賛成。」「異議なし。」
結局、上層部からの解答は・・・、
『技術部の、ネルフ本部およびジオフロント内のの一日公開を採用する。但し、公開の範囲は、エヴァンゲリオンのケイジを含むこととする』というものだった。
「作戦部の顔を立てた、ということなのかねぇ。」
「しかし、エヴァを公開しても支障は無い、ということですかね。」
「エヴァの存在はもう世間に知られてることだし、非公開にすることはかえってイメージダウンにつながるという上の判断なんだろうな。」
さてこのイメージアップ企画、果たして吉と出るか、凶と出るか・・・。
>続くのでしょうか
続いてほしいです(願)