奇跡の価値は? |
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国連直属の特務機関、NERV。
人類再建の要となるはずのジオフロントに本部を置いており、
使徒の直接攻撃を受けたとは言え、設備の損傷は比較的軽微である。
が、しかし、なぜか常に戦場となる
第三新東京市の被害は甚大だ。
いつも簡単に強羅絶対防衛線を突破されてしまうからだ。
ほんとに「絶対防衛線」なんだろうか・・・・・。
西暦2015年、第16使徒との戦いが一応終わった後、市の再建が開始された。
こんなに大打撃を受けたのに、なぜ旧東京のように放棄しないのか?
答えは簡単。
街がないとNERV職員が生活できないからだ。
この「市街地補完計画」は、所要費用額の大きさから、
NERV内でも異論は多かったが、
それを封じたのが、4人の幹部だった。
酒屋やコンビニが閉店してエビチュを飲めないミサト、
コーヒー豆が買えないリツコ、
街でナンパができない加持、
なじみの将棋会館が閉館して、へぼ将棋の相手のいない冬月。
しかし、肝心のゲンドウは、職員を出張扱いで新小田原まで毎日派遣して
好物の「くさや」を買いに行かせているから「問題ない」。
「ニヤリ」と至福の笑みをたたえながら、
彼が夕方に司令室の七輪で破れ団扇で煽ぎながらそれを焼く時、
煙がジオフロントに充満し、
こういったものにとくに免疫のないチルドレンは塗炭の苦しみを味わう。
「信じらんないわ!日本人はなんで納豆とか、くさやとか、鮒寿司とか、ああいう腐敗したものが好きなのかしら?」
「あれはおいしくて健康にはいいものなんだ・・・・・。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ!」
「・・・・くさや・・・・飛魚の干物・・・・・伊豆諸島の伝統保存食・・・・・
・・・・ヒトの作り出したもの・・・・・漁村住民と都市住民の絆・・・・
・・・・・・くさい絆・・・・・・・・
・・・・私が私でなくなる感じ・・・・・
・・・・・これが涙というものなの?・・・・」
ただ一人、肯定的な意見の者がいる。
「(べらんめえ調で)くさやはいいねえ。リリンの生んだ文化の極みだよ。
あの香ばしい香りと深みのある味は、好意に値するよ。
日本酒が、好きってことさ。
シンジ君、君はくさやとの一時的接触を極端に嫌うね。
あんなすばらしい食材なのに・・・・
僕にとって、くさやとドリアンは等価値なんだよ。
こんな旨いものが食べられなくなるのは全く耐え難いね。
アダムに回帰するという使命は、この際、なかったことにしよう」
しかし、最近になって、ゲンドウも市街地の必要性を痛感していた。
男やもめ暮らしが長い彼は、洗濯物をためておく習性がある。
とくに最近は忙しくて洗濯をしていない。
彼は今朝、出勤時に替えの下着がないことに気づいた。
「フッ、シナリオどおりだ。問題ない」
彼はいつものように下着を買うべくコンビニに走った。
「当店は誠に勝手ながら昨日をもって閉店いたしました。
長い間のご愛顧ありがとうございました」
「・・・・・何事にもイレギュラーはつきものだ。修正は可能だ・・・・」
彼は薬局に行って紙おむつを買った・・・・・。
彼のいたいけな瞳は、「碇司令も、ついに・・・なんだって」との噂が
すぐに広まるという、運命をまだ知らない。
ゲンドウの認可の下、「市街地補完計画」が始まった。
しかしNERVはエヴァ建造・修理に金を掛けすぎて財政難が続いている。
この窮状を打開したのが、マヤの一言だった。
「宝くじを出せばいいんじゃないですか?」
マヤ、マコト、シゲルの3人は、数年前から宝くじのグループ買いをしている。
最近は海外の宝くじにまで手を出している。が、当たったためしはない。
真っ先に賛成したのはリツコだった。
「いいんじゃない。やってみたら。」
やがてNERVの肝いりで「第三新東京市復興宝くじ」が発行された。
好きなナンバーを自分で選べるしくみの電子宝くじである。
資金集めを円滑に進めるため、当たり本数は極めて少ない。
当たり確率は0.000000001%。
これでは当たる方が奇跡である。
しかし、一等5億円という賞金額が、欲の皮のつっぱった人々を吸い寄せた。
当たり番号は抽選会場でレイがスロットマシンのスイッチを入れて決める。
レイが選ばれたのは、彼女の美しさと、最も買収が効きそうにないためである。
深夜、NERV、第一発令所。
リツコが白衣を着て立っている。
彼女は今、「仕事」を終えたばかりである。
「母さん、頼むわよっ!!」
彼女はあらゆるデータを駆使して、
当たり確率の最も高い番号をMAGIに推定させた。
「はずれ!? そんなはずはないわ!!」
抽選日、リツコは驚愕の叫びをあげた。
彼女は、また「Oナインシステム」に負けた。
NERVの人々は甘かった。
今や感情を持っているレイが、
自分でも宝くじを買うということを誰一人として想定していなかった。
「賞金5億円・・・・土地付き一戸建て住宅が買える・・・・・
・・・・・あの、ボロアパートはお払い箱・・・・・
・・・・・過酷な環境で暮らしている碇君・・・・
・・・・・あなたは死なないですむわ・・・・・
・・・・・私が救い出して一緒のおうちに住むんだもの・・・・
・・・・あなたは私と一緒に幸せになるんだもの・・・・・」
蒼髪の少女、綾波レイは、ヤシマ作戦の時以上の笑顔で微笑んだ。
完
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