サイキンのタケウチ
〔身辺雑記〕
10月22日(土)
朝の散歩に行こうとして驚いた。
外に出る階段から駐車場を見下ろすと、表面がきれいに仕上がってたのだ。コンクリートの表面が滑らかに固まってて、猫の足跡がいっこもついてなかったのだ。
まあ当たり前っちゃ当たり前のことなのかもしれんけど、昨日の様子を見ていた僕には驚きだった。うちの目の前には猫数匹を放し飼いにしている家があって、我が家はその猫軍団の通り道となってるのだ。職人さんによれば猫には塗りたてのコンクリートの上を歩きたがる性質があるのだそうで、昨日は塗ったそばから猫の足跡がつきまくってたのである。
そういや人間の僕も積もりたての雪の上を歩くと気持ちいいもんなーと思いつつ、足跡が残っても別に構いませんよと伝えておいた。足跡程度じゃ駐車場の機能に影響はなかろうし、記念にくろべーの足跡も残しとこうかと思ったくらいだったのだ。
んがしかし、そこは職人さんのこだわりがあるようで、昨日の日没後も何度か戻ってきては作業を繰り返していた。現場監督さんによれば生コンの乾燥時に浮き上がってくる水分を拭き取って表面をきれいにする作業なのだそうだが、ほっといても乾くことは乾くので、通常は一回やっておしまいらしい。それを何度もやってもらうのはありがたいなーと思うのだが、作業が終わったかと思うと途端に猫の足跡がついているっていう繰り返しで、結局は足跡つきになっちゃうんだろうなーと思ってたのである。
しかし職人さんいわく「あと一回撫でれば足跡もつきにくくなるはずですよ」とのことで、昨夜は結局10時近くまで作業してくれてた。僕も最後にどうなったかは確認しないで寝室に引っ込んじゃったんだけど、今朝になったら足跡ゼロで完璧に仕上がってたというわけだ。
職人さんのこだわりが猫に勝利したのだ。単にこだわるだけじゃなく、最後に勝利を収めるのってかっこいいなーとつくづく思う朝であった。映画『みんなのいえ』で大工さん達の職人芸に憧れてた物書きの主人公のことをふと連想した。
そういや昨夜最後に会ったときには落語の世界を連想していた。ラスト作業の前に一杯ひっかけてきた雰囲気だったし、作業前にくろべーと遊びつつ雑談してたら面白い話を聞かせてくれたのだ。
「猪もなつくとこうやって腹みせてじゃれるんだよね」
「猪?」
「前に飼ってたんですよ。家の近くで捕まえて」
「ああ、瓜坊ってやつですか?」
「いや、瓜模様は消えてたから子供じゃなかった」
「大人の猪を捕まえたんですか!」
「最初は慣れなくて俺に突っ込んできてね、檻にぶつかって頭が血だらけになってた」
「それでも飼って慣れさせたの?」
「うん」
なんでも猪や鹿が出るところに住んでるんだそうで、「家の周りで猪鹿蝶が揃う」のだそうな。「猪鹿蝶って6文でしたっけ」とつぶやいた僕に「いや、5文だね」と訂正してくれるところまで、職人のこだわりが漂ってるような漂ってないような。
そんな感じで動物好きのおっちゃんなのだが、猫に対しては妥協しなかったわけである。今朝になって前の道路を見ると生コンをつけた猫の足跡が点々と残っていたが、去り行く敗者の後ろ姿に見えなくもない……
10月24日(月)
午前中、家事と執筆と木工。なんか天気がいいってえとえらく忙しい気になる。
木彫りくろべー像は研磨がだいぶ進んできたので、椿材の亀裂を塞ぐ作業。生えてた時の状態のせいか乾燥のさせ方のせいか、彫りすすめた後で内部に傷や透き間が見つかったりするのだ。
質感を同じにするため、紙やすり作業中にためといた磨きカスを木工ボンドと練り合わせて亀裂に塗り込んでいく。ご近所さんに教わった方法なのだが、そうやって塞いだ後で乾燥させて再び磨くってえときれいに仕上がるのだ。
ベランダで作業してたので、喉が渇いたら竹の葉を摘んで台所へ。今回は2階まで伸びた部分の葉を使ってお茶を入れてみることにしたのだ。よく分からんけど、なんか上の葉の方が美味しそうな気がするし。
ホットで飲むのはカップに注ぎ、冷まして飲むのはペットボトルに注ぐ。ペットボトルに入れた分は驚くくらいきれいな色で、ちびちび飲みつつ陽に透かしたりしてみる。
と、そんな僕の横でくろべーが期待に満ちた顔をしている。もともとお茶の類が好きな犬なのだが、竹茶もほしいらしい。日当たりのいいベランダにいて喉が渇いたのかもしれんが、普通のお茶より物欲しげ度が高いようなのはほのかな甘味があるせいだろうか。
そんじゃあと、一階のくろべー食卓に降りてって二つの皿に水と竹茶を並べてみる。くろべーは水なんて目もくれずに竹茶をがぶがぶ飲みまくり、もっとないのって顔をしていた。
昼食ついでに外出、寿司についての文章を書いてたせいでやたらとマグロが食べたくなり、海方面の回転寿司へ。遠洋から運ばれてくるネタは海に近くたって関係なさそうだけど、ダウンヒルを走った後で赤身やトロや鉄火をつまむのはそれだけで気分がいい。マグロのカワなんて小鉢(ゼラチン質の皮をポン酢と紅葉オロシで和えてある)を初めて食べてみたが、なかなか美味。これからヒルクライムだと思うと飲むわけにはいかなかったが、ビールや酒の肴に合いそうだなあ。
帰りは里山コースを走り、こないだバテた坂を征服。公園のベンチに寝転んで読書休憩してから買い物に出かけ、日用品プラス紙やすりを購入。これまで使ってたのは320番と800番だから今度は240と1000で攻めてみるか……などと考えるのが妙に楽しい。
サイクリング後の水分補給と思ってドリンクコーナーに行ってみたら、「熊笹茶」ってペットボトルを発見。熊笹は竹の親戚だし、中国語だと「山白竹茶」となるのだそうで、既に竹茶のペットボトルは商品化されてたのだな。
成分表を見るとほうじ茶をブレンドしてあったが、これは飲みやすさを求めたせいだろうか。そうした方が一般的なお茶のイメージに近づくのかもな。
〔タケウチDJ〕
今回は二通のお便りをご紹介。まずは常連のW&Kさんから。
ついこないだ出たばっかりの『図書館の学校』に、早速ご感想をいただきました。メールの発信日時を見たら、うちに掲載誌が届く前の晩だったってのがさすがであります。
> 『図書館の学校』第6回手作りの町の図書館
> 読みました。行ってみたくなりました。
> 和紙にはとても興味がありますので、
> 飾られたものやサインになっているのもみたいです。
> 2時間くらいかかるのでいつになるかわかりませんが。
あの連載は2月に出る号で最終回の予定なんですが、こうして読者の方からの反響をいただけるのは嬉しいですね。
和紙関係の本も充実してる図書館だそうだし、小川町のあちこちで和紙製品を売ってる店を見かけたので、図書館好きで和紙好きの方には2時間かけて行く値打ちはあるのではないでしょうか。
本文の方でも書きましたが、女郎うなぎとクラフトビールもおすすめですよ。
> 2005.10.19のブログのなかでサイマル出版の『チャーリーとの旅』を
> 読みたいとのことでしたが
> 図書館で借りるという選択肢も入れてもいいのではないかと思います。
> お住まいの近くの図書館に無くても、県立図書館や他の
> 自治体の図書館から借りてくれるはずです。
> また 日本の古本屋 というウェブサイトで検索してみましたら、
> かんがるー文庫で10月21日20時33分現在 800円でした。
図書館取り寄せはよくやってるんですけど、この本は借りるんじゃなくて手に入れて読みたいななーって本だったんですよ。アリスファームの藤門弘さんとかカヌーイストの野田知佑さんとか、男が憧れちゃうタイプのおっちゃん達の本の中で紹介されてた本なので、おいらも実際に犬連れ車旅でもしながら旅先で読んでみたいなーと。
あと、はた画伯の『ウッシーとの日々』でもこの本が紹介されてます。画伯の家のご近所には実際にこの本を読んで愛犬(ウッシーの兄弟)にチャーリーと名づけ、犬連れ車旅を実行したって方がおられるんですな。その人にお会いした時に手作りキャンピングカーの写真を見せてもらったんですが、はるか日本の読者にそういう影響を与える本ってすごいなーと思ってまして。
僕は本を読むペースが遅いので、借り物よりは自前の方がゆっくり読めるかなってのもあったんですが……結局、我慢できずに図書館で取り寄せて借りちゃいました。いやあ我ながらこらえ性がない。
まだ読み始めたばかりですが、なかなか楽しい本であります。わりに翻訳物が苦手な僕にもすらすら読めて、時折くすりと笑わせてくれる文章がさすがスタインベック。ノーベル文学賞作家っていうとやたら小難しい文章なんじゃないかって偏見を持ってたんですが、そんなことは全然なかったです
今悩んでるのは、このまま最後まで読んじゃうか途中でやめてちゃんと買ってから読むか……。ネットで買うのも悪くないけど、僕は書架の中で本を見つけるってのが好きなんで、つい躊躇しちゃいます。旅の本だし、やっぱり文庫化されてほしいなあ。
お次は「高崎の高1」さんからのお便り。
今回で何度目になるのかな、彼もすっかり常連って感じですね。
> 竹内さんの「「サイキンのタケウチ」出張所」をときどき見ています。
> すごいですね。竹で表札を作ったり、木彫りのくろべー君を作ったりと。
> 僕は、最近休日が雨なので、サイクリングに出かけられなくてヒマをもてあましています^^;
分かる、分かるぞその雨の日の気持ち!
独り暮らしで自転車生活&大型犬の室内飼いなぞしていると、「サイクリングに出かけられなくて」に「洗濯物が乾かない」とか「買い出しにいけない」とか「犬の散歩が面倒」とかが加わります。自由業なおかげで「休日が雨」ってのは全く気にしてなかったけど。
つうか、僕が木や竹を削って遊んでるのは「サイクリングに出かけられなくてヒマをもてあまして」るからだったんだな。今気づきました。
だけどサイクリングに行った先の人けのない公園で休憩し、そこでおもむろに木工作業ってのもなかなか楽しいもんであります。サイクルウェアにサングラスの大男が上機嫌で刃物を持ってたりすると誰も近寄ってこなくなるけど。
> 竹内さんの作品「自転車少年記」の昇平や草太たちのふるさと『風ヶ丘団地』
> の坂にはモデルになった場所があるのですか?
> 竹内さんの高崎出身というプロフィールから、勝手に高崎にある坂(例えば
> 農二の坂)がモデルかな?と思い読んでいます。もちろん勝手な想像ですが^^;
> 身近に物語を想像しやすい場所があると、リアルに感じられるからとても楽しいです^^
風ヶ丘団地自体には、特にモデルはないです。『自転車少年記』連載中は「風ヶ丘ニュータウン」って書いてたんだけど時代&場所設定的に「ニュータウン」ってのが合わないことに気づいて「団地」に変えました。上京編を書く前に作中で設定した南房総あたりの道を走ってみたところ、21世紀の今も「ニュータウン」って感じの風景じゃなかったしね。
でも執筆中に漠然と思い出してた原風景ってのは高崎の坂でした。僕は3歳くらいまで高崎西部の山名町ってところに住んでたんだけど、そこには丘陵地帯の斜面を削って造成された市営住宅がずらーっと並んでたんですよ。そういえばあのあたりも「山名団地」と呼ばれてたはずだし、ちょっと家を離れると長い坂道があるあたりは『自転車少年記』の冒頭部分と一緒です。その坂の突き当たりは一軒家じゃなくて集合住宅とタコ公園(蛸型滑り台のあるやつね)だったけどね。
「農二の坂」と比べるとどっちがきついかなーと想像しつつ、どっちの坂も高校一年生の体力とシマノ社製の優秀なコンポーネントだったら軽々と消化できるだろうから、放課後や晴れの休日にでも行ってみてください。僕が10年くらい前に行った時には市営住宅にも空き家が目立って取り壊される寸前みたいに見えたけど、今はどーなってんのかなあ。
10月29日(土)
生まれて初めて、作家仲間の飲み会ってのを体験。
ニューヨーカーの野中ともそさんの帰国に合わせて小説すばる新人賞の受賞者を中心に「小説ツバル」という集まりを立ち上げたのだ。これまでも面識ある人と飲むことってあったけど、業界パーティーでもないのに4人も作家が集まったのって初めてな気がする。
作家4人に編集者や写真家も加わったし、ともそさんはイラストレーターでもあるので、こんだけ揃えば本当に小説誌を作れちゃうんじゃなかろーかと思う。まあ予算もないし僕自身はほとんど役に立たないわけだけれども。
まあしかし、いざ集まってみるってえと小説の話など一切出なかった。会場は個室だったので、プロレスの覆面をかぶってふざけたりノコギリと小刀を取り出して竹の酒器を作ったり。わあわあ喋って飲み食いしてたら、あっという間に制限時間になってしまった。
覆面はセキグチさんに持ってきてもらったのだが、刃物と竹を持参したのは僕である。警官に職質くらって荷物検査とかを受けてたらやばかっただろうし、店を出たとこでタケウチ&セキグチが行き倒れたりしたら所持品からどんな推理をされたことだろう。「覆面をかぶって武装した強盗2人組が竹製爆弾でテロを画策」なんてことにされなくてよかったと思う。
10月31日(月)
長いこと工事していた駐車場も、先週末には乾燥も終わって無事完成していた。だけど車など持ってないので、当面は自転車停めたり切った竹(竹酒器の残り)を置いといたりって用途しかない。日曜日にはぽつんと竹と自転車が置かれ、そこをくろべーがひょこひょこ走ってるのがいかにも僕の家って感じであった。
しかし、既に工事費も払ったってのにそれも勿体無い話だなーと思ってたら、ひょっこり友人から連絡が来て遠路はるばる車で来訪してくれた。一緒に美人インスタレーション(空間造形)アーティストもやってきて、初対面でいきなり竹をプレゼント。別にゴミを押し付けたんじゃなく、創作の素材にするってことで欲しがってくれたのだ。車といい竹といい、なんともグッドタイミングな話である。
そんなわけで、我が家の駐車場に初めてタイヤ跡を残すことになったのは赤の初期型ワゴンRだった。軽自動車が停められりゃあ充分っつって発注したのだが、ワゴンRが停まっても広々とスペースが残ってる。その気になりゃあ2台駐車できそうだね。
ちなみに、ワゴンR自体も広い荷室が魅力で購入候補にしてた車だった。実際に乗せてもらって計測してみるってえと、助手席を倒せばロード自転車が丸ごとが入るって感じで、それは三菱トッポなども同様のようだ。車輪を外せばもっと楽なのだが、着脱がちと面倒だから丸ごと積めるに越したこたあないんだよな。
しかし仲間と複数台詰め込んでサイクリングツアーに出たり、車で寝泊りしながらくろべーと旅行したりなんて用途には、やはりワゴンというか箱バンじゃないと辛いようである。大は小を兼ねるを信条に生きてる身としては、やっぱりでかいほうがいいかなーって気もしてくる。
車関係で働いているご近所さんに頼んで手頃な中古車を探してみたところ、ちょいと値の張る紺の乗用車(とてもきれいで走行距離も少ない)とお手頃価格の白の商用車(いかにも仕事用って感じでファッション性ゼロ)が候補に残っている。商用車には屋根の上にも積載用の鉄骨(何ていうんだろ)がついているんだが、適当に金具を足せば自転車を載せることもできるんだろうか。なにしろ知識がないので便利なのか邪魔なのか判断がつかないが、さてどーしたもんだろう。
遊びにきた友人たちも、くろべーと遊んだり木彫りチェスをしたりしながらいろいろ教えてくれたんだけど、まだ決断がくだせない。……そんなわけで、皆さんのアドバイスお待ちしております。
〔タケウチDJ〕
今回のお便りは、前回に続いてW&Kさん。追加情報って感じでこんなことを教えてくださいました。
> すでにご存知とは思いますが、世田谷区立中央図書館の
> 『ざ・ちゅうおう ぷれす』第50号2004年7月の
> 新着図書案内に『図書館の水脈』 メディアファクトリー
> 竹内真著 請求記号F1たけ とあり あらすじのあとに
> 「この本には,蘆花恒春園など世田谷が随所にでてきて
> 楽しい。また話のキーポイントに図書館の分類記号049
> (雑著)というのがでてくるが、中央図書館ではこの分類は
> 1階のノンフィクションに変更してあるのでご注意を。」
> とありました。
情報ありがとうございます。ちゅうおうぷれすのことは知らなかったので、お知らせいただいて嬉しかったです。
世田谷区立中央図書館、僕もかつてはよく利用してたので懐かしいなあ。不用本の放出の行列に並んだり、古い雑誌の閲覧を地階カウンターで頼んだり、地下からエレベーターに乗ったら間違って上の階に行っちゃって階段で下りたら不審者と思われて職員のおっさんに尾行されたり(教育委員会の施設で関係者以外立ち入り禁止らしい。なら一般エレベーターと直通にすんなって)、いろんな思い出がよみがえってきます。
でもたしか、あそこの請求記号だと僕の本は「たけ」じゃなくて「たま」になるんじゃなかったっけ。今は形式が変わったのかな。
ともあれ、『図書館の水脈』は全国各地の図書館員の方にあたたかく受け入れてもらえてるようで嬉しいです。こないだ岐阜の方で講演会をやらないかって依頼をいただいたけど諸般の事情で実現しなかったので、またどっかで招いてくれないかなあ。
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