ポートランド日記                                     スズキメディア

9月11日(火)──42日目


 朝起きたら、ロビーで何人もがテレビを見ている。朝テレビを見ている人がいるのは初めてのことだ。何だろうと思ったら、テレビではビル火災の映像。オレゴンのどこかかと思って、部屋のテレビを見たら、ニューヨークの世界貿易センタービルだった。
 でも、一棟しか映っていない。確かツインタワーだったはずだけどアングルの関係で陰に隠れているのだろうかと、いぶかしく思いながら見ていたら、一棟が崩れ落ちるシーンがビデオで放映された。飛行機が突っ込んでビルが炎上して崩れ落ちたらしい。テロリストの仕業のようだ。
 あとの事情はみなさんもご存じの通りだ。今日一日、テレビはすべて「Atack on America」の報道だった。通常は、映画や音楽ばかりやっているケーブルテレビ局も、今日は放送を止めて、CNNの放送をそのまま流している。
 街に出て、カーラジオから流れてくるのも、音楽ではなく、ニュースばかりだ。

 今日は、9時からPSU(Portland State University)のESL(English as Second Language)のクラス分けのテストを受けに行った。ところが、パスポートを見せて登録しようとしたら、J-1(交換留学生)やJ-2(その配偶者)のビザでは受けられないという。ESLは移民のためのクラスで、僕らが受けられるのは、ENL(English as Non-Native Language)のクラスだという。
 ENLの案内を渡されたが、クラスが開かれるのは、PSUではなくて、僕らの住んでいるところからは交通の便の悪い別の大学だ。電話をしてみたが、「今夏休み中なので、留守番電話に用件を入れてください」というメッセージが聞こえるだけだった。

 ESLのクラスで渡された資料に、もうひとつ「volunteer tutoring」というのががあった。これは、英語のクラスを受けるのに、時間の余裕がない人に、市内のいくつかの場所でボランティアのチューター(教師)が、授業をしてくれるものらしい。
 そのボランティア・チュータリングの場所にひとつに、マルトノマ郡(ポートランドのある郡)の中央図書館があった。ここなら、ダウンタウンにあって、今追い出されたPSUからそれほど遠くない。何か新しい情報が得られるかもしれないと思い、図書館まで行ってみることにした。

 ホームページで見ると、マルトノマ郡中央図書館の歴史は古い(http://www.multcolib.org/agcy/cen.html)。1913年に開館し、96年から97年に元の建物をそのまま残す形で改装された。コンピューターを全面的に導入するための改装で、各階にコンピューターがあり、最新の設備を備えている。しかも、壮麗な外装や、特に正面の階段の彫刻など、古い物もそのまま生かされている。図書館としての心地よい威厳を持ちつつ、最新の設備で市民に対応する素晴らしい建物だ。
 「volunteer tutoring」を担当するところは2階の端にあったが、残念ながら今日は担当者が不在だった。水曜日から金曜日まではいるので、電話番号を控えてきた。

 せっかく図書館に来たので、いろいろ回って見る。マルトノマ郡図書館の蔵書はインターネットでも検索できるので、いくつか調べてあった。ひとつは、オレゴン州のビールに関する本。オレゴン州はビールの原料のひとつであるホップの産地で、小さなブリュワリー(ビール醸造所)がたくさんある。日本ではみかけないマイナーなビールばかりだ。全貌を解説してある本がないかと思っていたが、図書館でいくつか見つけることができた。
 これで調べて、ポートランド周辺のブリュワリーについて、取材をしてみよう。
 Cもこの図書館の蔵書量の多さには驚いたようで、1冊本を借りることにして、図書カードを作った。

 そのあと、図書館の隣の玩具店や文房具店を覗いてみる。ここはダウンタウンの中心部からは少し離れているが、どちらもけっこう品物のそろった面白い店だった。また来てみることにしよう。バスで寮に帰る。午前中は、いろんなことに振り回された一日だった。


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