善人は若死にをする                                大西赤人/小説と評論

差別は永遠に

「おまわりさん。またあの野郎が来てるんですよ。なんとかして下さい」

 一軒の酒場から店主らしい男が、巡回中の二人の警官、マックスとハロルドに声をかけた。

「またかね。今日は忙しいのに、畜生め」


 警官たちは酒場の中へ入っていった。客たちの憎々しげな視線の焦点に、一人の若い男が立っていた。彼は、プラカードを持ち、大声で叫んでいた。

「人種差別反対。……二十一世紀も後半の世界に、人種差別などがあっていいのか!……俺たちだって人問だぞ。……キング大統領を倒せ!……現代のアメリカは腐敗の極だ!」


「おい、ジョージ。お前たちは、この酒場に入っちゃいけないはずだったな。お前たち専用の酒場は、この先のブランク≠カゃねえか。さっさと出ていけよ。先々月、足の骨を折られたの忘れたか?」

 マックスが言った。しかしジョージと呼ばれた若い男は動かない。マックスは、ジョージに近づいて、その右腕をグイッとひねり上げた。ジョージは悲鳴を上げた。

「何度同じ事をやりゃあ、気が済むんだ? 今日は腕を可愛がってやるぜ」


 客たちは、「もっとやれ」と騒ぐ。いくら公然の差別とはいっても、一般人がリンチをやると、さすがに厄介な問題になる。だから客たちはジョージに手を出さなかった、しかし警官の制裁は、相手を殺さぬ限り、合法である。マックスは、ジョージの右腕をなおもねじり上げた。骨がきしんだ。

「ハロルド。一発お見舞いしてやれ」

 身動きのできぬジョージの腹に、ハロルドがバンチを炸裂させた。ジョージはくずおれた。
「よし、もう一、二発食らわして、外に放り出せ」

 そう言ってマックスは、ジョージの腕から手を離した。そしてプラカードをゴミ箱に投げ込んだ。


「あいつも馬鹿だな。スラム街に引っ込んでりゃいいものを。あんな事をして何になる? へっ、何が差別撤廃だ? 劣等人種めが。ちゃんちゃらおかしくって。俺たちのアメリカ万歳、キング大統領の差別政策万歳だ」


 マックスが高笑いをして、皆もそれに同調した。マックスまたはマックスたちの肌は黒かった


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