今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

ドリカム元メンバー・西川隆宏、覚醒剤取締法違反の疑いで再逮捕

大西 赤人       



 父親が一時は『しんせい』だ『いこい』だ『ピース』だという相当なヘヴィー・スモーカーだったから、子供の頃の僕は、いわゆる「副流煙」を随分と吸い込んでいたものと思う。しかし、自分では、これまで煙草に口をつけたことさえ皆無。別に、禁煙運動推進家ではないし、人が吸う分には――あえて歓迎まではせずとも――御随意にというだけだが、ついぞ自ら吸おうとしたことはない。酒については、嫌いではないものの、正確には飲みながら話す・楽しむことが好きなのであって、決して強くないし、量は飲まない。従って、泥酔した、まして前後不覚に酔っ払ったという経験がない。これは一つには、日頃から松葉杖で歩いているので酔うと足元が非常に危なくなるという物理的(身体的)制約も係わっているのだけれど、そもそも僕の中には、「理性」を失う――完全に我を忘れる・記憶をなくす――という状況に対する強烈な忌避の念がある。

 大体、酒を飲んで酔っ払いたいという欲求とは、日常の縛られた枠を忘れ去りたいという想いに基づくものだろう。もちろん、僕にもそういう傾きがなくはないとはいえ、それはあくまでも「理性」の範囲内で楽しみたいわけで、多分これはいいとか悪いではなく好みの問題。でも、「つまらない人間だなあ」と感じる向きもあるかもしれない。とにかく、物心ついて以来、これまでに「理性」あるいは「意識」を完全に失ったというのは、十七歳くらいの頃、持病から来た症状のために激痛に見舞われ、ほぼ失神状態にあった数時間のみ。この時は、午前中から「痛い、痛い」でウナッていて、ハッと気がついた(痛みが消えた)ら夕方の4時か5時になっていた。

 というわけで、そんな延長線上、僕は、覚醒剤や麻薬の類《たぐい》にも、ほとんど全く惹かれるものがない。要するにこれは、必ずしも道徳観の問題ではなく、変な表現だが、言わば“趣味”の問題ですね。

 さて、J-POPを代表する人気グループ「ドリームズ・カム・トゥルー」の元メンバー・西川隆宏が10月7日、義姉に対する傷害容疑で逮捕された。しかし、これは言わば身内のゴタゴタ。「西川容疑者を知る関係者の中には『傷害以外に何かあるかも』といぶかる人も」(10月8日付『サンケイスポーツ』)などとも書かれていた。そして、同容疑については処分保留で釈放となったものの、取調べ中に尿検査から覚醒剤陽性反応が出て、覚醒剤取締法違反(使用)の疑いで再逮捕されてしまった。どうやら実は、こちらのほうがかねてからの捜査対象で内偵が進められていたらしい。西川は「始めたのは2、3年前から」「吸引するときは1日数回吸っていた」と容疑を認めているという。

 僕が最初に「ドリームズ・カム・トゥルー」を知ったのは、1989年に流れたNHKテレビの番組だったと思う。もちろん、まだ全く無名、でも、デビュー曲の『あなたに会いたくて』はとても新鮮で、特にヴォーカル・吉田美和の硬質な声が素晴らしかった(余談だが、トークの最中、彼女がアメリカの大統領の名前も知らないので驚いたことを今でも覚えている)。早速、ファースト・アルバム『ドリームズ・カム・トゥルー』をカセット(!)で購入、友人などに「これ、いいよ」と薦めていたものだ。しばらくして、『うれしはずかし朝帰り』『決戦は金曜日』『Eyes to me』などが次々に人気を博して本格的にブレイク。『LOVE LOVE LOVE』の大ヒットへとつながり、男・二人、女・一人の安定した構成が世間で「ドリカム状態」と呼ばれるようにまでなったことは、皆さんも御存じであろう通り……。

 僕の個人的な感覚では、彼ら三人には、なんとなく無機質というか、どこかしら作り物めいたイメージが伴い、中でも西川は以前から違和感があった。顔面のピアスがどうにも不気味で、娘とは「眼がイッチャッてるなあ」といつも話していた。今年3月、彼は「自分の音楽と生き方を追究したい」としてドリカムを脱退。音楽グループにまま起こる分裂劇のようだが、あまりにも唐突な印象を受けた。今回の逮捕をキッカケにネットで検索してみると、彼に関する疑惑は以前から囁かれていたようで、こんな記事が見つかった。

「先月には都内にある西川さんの自宅前に、多数のマスコミが集まる騒ぎがあり、プライベートにトラブルを抱えているのでは、などと憶測を呼んでいる」(4月3日付『週刊レビュー』)
「西川隆宏がドリカム電撃脱退した理由は当局によるドラッグ内定《ママ》説の噂」(『噂の真相』2002年5月号・使わなかった一行情報)
「ドリカム西川隆宏の電撃脱退はドラッグ疑惑隠しとのレコード会社情報」(『噂の真相』2002年7月号・使わなかった一行情報)

 実際、「西川容疑者には在籍中から薬物使用のうわさがあり、関係者によると、当時メンバーの間で話し合いが持たれ、西川容疑者は疑惑を否定していたという」(10月18日付『ウェブ報知』)から、まあ、“公然の秘密”に近いものだったのだろうか?

 特に音楽関係者には、ドラッグにまつわる醜聞が多い。つい先日も、往年の人気グループ・サウンズ、ジャガーズの元メンバー・沖津ひさゆき容疑者が大麻取締法違反(所持)の現行犯で逮捕され、GS全盛期にも吸っていたことを供述したという。日本では大麻は法律違反だが、アメリカの一部の州では合法化の動きもあるそうだし(医療用大麻は既に合法)、第一、ビートルズを筆頭に、少なからぬ有名ミュージシャンが明白にドラッグに浸っていたことは周知の事実だ(そして、中毒死した者も何人も居る)。彼らは決まって“音が変わる、感覚が研ぎ澄まされる”というふうに言う。本当なのかね?

 西川は「最初は覚醒剤と知らず疲れが取れる薬と聞いてやった」と定番のような供述をしているらしいが、気になるのは、逮捕後に現在の「ドリームズ・カム・トゥルー」の二人(吉田美和、中村正人)が事務所を通じて発表したいかにも綺麗なコメント。
「DREAMS COME TRUEは、デビュー前からアンチドラッグという姿勢を強く貫いてきました。西川自身からの言葉を信じてきた我々にとっては、大変残念なことです」(10月19日付『日刊スポーツ』)

 しかし、常識的に考えれば、先の臆測的記事にもあった通り、グループ全体への致命的な波及に至らない時点で――どちらから提案し、決断したかはさておき――西川の脱退という形を選択していたように見えてしまうのだが……。
(2002.10.21)


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