視覚障害者用音楽ソフトの開発

ファーストソング・ウィズ・ボイスガイドの開発

2010年の4月ごろから、視覚障害者の方とメールのやり取りをする機会があり、ファーストソング・ウィズ・ボイスガイドという音楽ソフトを作りました。

アクセスログで分かるのですが、視覚障害者が使える音楽ソフトとして、私のソフトが紹介されていて、そこからけっこうな頻度で訪問者があることには気づていました。

「使えるソフト」というのは便利なソフトという意味ではなく、文字通り、使えるという意味です。
言い換えると、Windows標準のボタンなど文字表示が中心の画像なしのインターフェイスで作られたソフトで、視覚障害者用の読み上げソフト(スクリーンリーダーといいます)の助けで、操作が可能という意味です。
EXCELやWORDなど、あじけないインターフェイスのビジネス系のソフトがこれにあたります。
スクリーンリーダーは、たとえば、「ファイルメニューがプルダウンされています。メニューの1番目は新規、2番目は開く・・・」などと、つど、操作に必要な情報を提供します。

しかし、ここで問題が。。。
たしかに、当初は、Windows標準のインターフェイスだけで開発したソフトだったのですが、もうだいぶ前(7〜8年前かもっと前?)には、グラフィカルなインターフェイスに切り替えています。
紹介文はそのままなので、たまに訪問者があるといった状態です。

そのあと、NICTの助成金プロジェクトで、スクリーンリーダーを開発する機会がありました。(ちなみにNICTの研究所は私の家から歩いて10分くらい。年に1回、オープンハウスのちらしが入ります。)
ちょうどその頃、今は無き日本スタインバーグと取引があり、M氏(お兄さんのほう)から、「スティービーワンダーは特注のCubaseを使っているんだよ」という話を聞き、スクリーンリーダーで読み上げ可能なように改造しているんだな、と思いました。
使えるソフトを求めて、私のサイトにやってくる人がいるのは心が痛みますし、スクリーンリーダーに関する知識も習得していましたから、そのうち視覚障害者用に対応しようと思っていたときに、以降の開発や点字マニュアルの作成に協力していただいた 南舘邦士さんからメールをいただいたんです。
詳しいメールの内容はもう忘れましたが、これを機に視覚障害者用に対応しようということになり、開発が始まりました。音楽ソフトはさらにグラフィカルになる傾向が強く、そのうち視覚障害者が使えるものが無くなってしまうのでは、という危機感があるそうで、大手メーカーに開発 できないか聞いてみたものの、採算にあわないという答えだったようです。(人にもよると思いますが、この理由は私には納得がいくものです。)

当初、すでにあるソフトを改造して、スクリーンリーダに対応させる仕組みを入れようとしたのですが、無理が多く、結局、視覚障害者用に別のものを作ることになりました。操作自体がマウスを前提に作られていましたし、単純に状況を読み上げるだけで、操作可能にするということも難しかったのです。表示しているものをスクリーンリーダ経由で読み上げさせるのではなく、読み上げ機能を内包して、直接内部情報を読み上げる形式です。(ちょっと画期的?)
方向を展開してから、ソフトの開発は驚くほどスムースに行きました。メロディとコードを入力すると、伴奏を自動でつけて再生してくれるというソフトですが、短時間で開発できたのには幾つかの理由があります。(ソフトは2010年6月公開。)

○楽譜表示が不要
通常のシーケンスソフトだと、楽譜を綺麗に表示するという部分にかなりの工数を割いています。スタッフ表示、ピアノロール、リスト表示など、画面もたくさんあります。今回、リストしか必要なく、しかも表示せずにメモリ内で管理するのみです。

○単音でいい
メロディとコードから自動編曲するソフトなので、単音入力です。視覚障害者用の場合、位置確認(何小節、何拍目を入力中か)の仕組みが難しいのですが、同時発音があると、うまく仕組みを作らないとユーザーが混乱しやすくなります。

○16分音符までの入力しかできない
もともと、16分音符の3連までしか入力できないソフトだったのですが、これは相当楽です。16分音符までだから楽というのではなく、音の最小単位が決まっているというのが、位置管理する際にかなり楽です。

しかし、視覚障害者用のための、通常の開発にはない別の手間もあります。

○操作性の工夫

通常のシーケンスソフトとは異なるインターフェイスを1から考える必要があります。使い勝手に関する工夫は、南舘さん(先のメールの主)に、かなり協力していただきました。

○ショートカットの問題

マウスが使えませんから、すべてキー入力で操作することになります。CTRL+Cだとコピーのようなキーと操作の割り当てを、すべての操作について行うので膨大になります。
さらに問題なのが衝突です。視覚障害者の方は複数のスクリーンリーダを併用するということを普通に行っていて、それぞれのソフトがショートカットを使用します。他のソフトと割り当てが衝突していると、正しく動きません。このような問題は、NICTのプロジェクトの際に考えた方法で対処しました。(助成金に関するソフト開発を疑問視する声もあると思いますが、やっぱり何らかの形で世の役にたつのです。)

シーケンスソフトの開発

自動編曲ソフトは、シーケンスソフト開発のための下調べみたいな意味もあったのですが、シーケンスソフトでは、今回以上に使うショートカットが増えると予想されます。
トラックが増えることはさほど問題ないと考えているのですが、16分音符の制限をなくて、さらに同時発音をどのように分かりやすく入力させるか、という問題を今、考え中です。通常のシーケンスソフトのリスト画面を作って、読み上げても、使いづらいのではないかと思っています。