思い出の美術館111 - 120

思い出の美術館111:熊谷守一美術館(要町、東京)

地下鉄の有楽町線の要町の駅(池袋の次です)で降りて、要町通に沿って進み、小学校を過ぎたところで左折して、細い道を歩いて行くと、蟻の絵の描いてある特徴的な建物があります。ここが、画家、熊谷守一のアトリエ跡である、熊谷守一美術館です。

熊谷守一は、東京美術学校を卒業し、二科会で活躍しましたが、晩年、この地に住んで、仙人のような生活をしながら、作品を製作し続けました。彼の没後、次女の榧氏によって、この地に個人美術館が建てられました。現在は、豊島区立の美術館になっています。

1階には、氏の青年時代から晩年までの主要な作品が展示されています。青年時代の作品は、表現主義を思わせるようなタッチです。晩年になって、輪郭線と色面による特徴的なシンプルな画面が現われます。”白猫”や”アゲ羽蝶”が有名です。愛用のチェロも展示されていました。

2階には、ちょっと意外な墨絵の作品もありました。帰りには、受付の奥にあるカフェで、アイスコーヒーを飲みました。

このあたりは、戦争直後、画家達が集った、”池袋モンパルナス”のゆかりの地でしょうか。
思い出の美術館112:札幌宮の森美術館(札幌)

札幌の円山公園に沿って、北1条通を西に歩いて行くと、フランシス教会の手前に、ちょっと場違いな白亜の結婚式場があります。ここに併設されているのが、現代美術専門の美術館である、札幌宮の森美術館です。2006年に開館した、新しい美術館です。

ここでは、今までに、クリスト、ヤノベケンジ、榎忠などの展覧会が開かれました。私達は、粟津潔の展覧会を見に行きました(2008年10月)。粟津潔は、1960年代から1970年代に活躍したグラフィック・デザイナーで、前衛的なポスターで知られています。

建物の一角の2階の3部屋が、展示室にあてられています。大きなオブジェは入りそうもない小さな展示室ですが、ポスター、絵画、彫刻、ビデオと多様な展示がされていました。

礼服姿のおじさんが見に来ているのも、結婚式場ならではです。帰りに、円山の六花亭でホットケーキを食べました。
思い出の美術館113:ポーラ美術館(箱根、神奈川)

箱根登山鉄道の強羅駅から、施設循環バスに乗って、曲がりくねった山道を20分ほど行くと、仙石原のポーラ美術館前に着きます。ガラスのトンネルをくぐって、美術館のエントランスに入ります。

ここは、ポーラのオーナーの鈴木常司氏のコレクションを中心とした美術館です。フランス印象派やエコール・ド・パリの作品が目玉になります。このほかに、日本の絵画や化粧道具のコレクションもあります。

私達が行ったとき(2008年12月)には、佐伯祐三の特別展をやっていました。佐伯のパリ風景のシリーズが、彼に影響を与えたブラマンクやユトリロの作品とともに展示されていました。

もう1つの特別展は、レオナール・フジタの”小さな職人たち”で、フジタ好きの私達にとっては思わぬ収穫でした。

常設展では、モネの”睡蓮の池”、ルノアールの”レースの帽子の少女”、シャガールの”私と村”などが有名です。アクセスが悪い美術館にしては充実しています。

観賞後、館内のカフェで、モンブランをいただきました。ここには、レストランもあります。
思い出の美術館114:箱根ラリック美術館(箱根、神奈川)

ポーラ美術館前から施設循環バスに乗って、北に進み、仙石原の中心街に入ると、まもなく、仙石案内所のそばに箱根ラリック美術館があります。

ルネ・ラリックは、アール・ヌーボーからアール・デコ期に活躍したフランスのガラス・宝飾デザイナーです。この美術館には、彼のガラス工芸品、宝飾品、陶器、家具などが収蔵・展示されています。

入り口に入ると、ショップのある建物の奥に、美術館の建物があります。入ってすぐのところには、大きなガラスの壁面装飾があります。1階には、おもに宝飾品があります。彼の独特な、とんぼや蝶やつばめをモチーフにした作品、あざみや蘭をモチーフにした作品があります。ガラスの噴水もあります。2階には、家具やガラス器、陶器類があります。また、彼のインテリア・デザインを再現した小部屋もありました。

敷地内にある庭園も、なかなかいい感じです。別棟には、ラリックにより内装がほどこされたオリエント急行の車両を使ったカフェもありましたが、値段が高かったので入りませんでした。
思い出の美術館115:箱根彫刻の森美術館(箱根、神奈川)

箱根登山鉄道の、終点の強羅駅の1つ手前の駅が、彫刻の森駅です。駅を降りて、南東に100mくらい歩くと、箱根彫刻の森美術館の入り口です。ここは、美術館が4棟もあり、広大な野外美術館もあり、一種のテーマパークのような感じの美術館です。

入り口を入ってすぐの本館ギャラリーでは、ヘンリー・ムーアの彫刻が展示されています。その近くのアート・ホールでは、私達が行ったとき(2008年12月)には、彫刻家の朝倉文夫(思い出の美術館92)の特別展をやっていました。猫のシリーズが来ていました。

そして、広い園内を歩いて行きます。園内には、レジェ、ヴァンジ、ニキ・ド・サンファルらの彫刻が点在しています。橋を渡って、広場を過ぎると、ちょっと場違いな足湯があり、そのとなりが絵画館です。このときには、ロダン、ロッソ、バッラ、ブールデルなどの、ロダンと同時代の彫刻家の作品が展示されていました。

そこから少し歩くとピカソ館です。ここにはピカソの絵画、版画、陶芸作品があります。油彩では、”画家とモデル”などがありました。

園内は、子供も遊べるように、うまく作られています。ミュージアム・ショップも充実していました。そして、帰りには、園内の中華のお店で、点心を食べました。
思い出の美術館116:原美術館(品川、東京)

京急線の北品川駅で降りて、第一京浜を渡り、細い道に入って西に進むと、山の手線を越えます。越えたところが御殿山で、江戸時代には花見の名所として知られていました。ここをしばらく歩いて、右の細い道に曲がると、ちょっとしゃれた個人住宅のような 原美術館があります。

ここは、現代美術、デザイン、建築などを中心とする美術館です。ここの建物は、実業家の原邦造氏の邸宅だった建物で、昭和初期のモダニズム建築です。1階と2階に展示室があります。3階の小塔には、インスタレーションがありました。

収蔵品には、ウォーホール、カルダー、フォンタナ、ナム・ジュン・パイクなどがあるそうです。庭園には、彫刻作品がありました。

私たちが行ったとき(2009年6月)には、”ウインターガーデン:現代日本美術におけるマイクロポップ的想像力の展開”展を見やっていました。村上・奈良以降の、現代美術の若手の作家たちの作品です。タカノ綾、ChimPom、工藤麻紀子、佐伯洋江などです。マイクロポップというのは、ポップアートの路線上にありながら、かわいいもの、私的なものに重点を置くということでしょうか。

中庭を望む、おしゃれなカフェ(カフェ・ダール)もありました
思い出の美術館117:損保ジャパン東郷青児美術館(新宿、東京)

新宿駅西口を出て、高層ビルの間を歩いて行くと、モード学園のまゆのようなビルの向こうに、白くそびえる損保ジャパンビルが見えてきます。このビルのわきのところに、美術館専用の入り口があります。ここから入って、ビルの42階に上がると、 損保ジャパン東郷青児美術館があります。

ここでは、 損保ジャパンの前身である安田火災がコレクションした美術品を、中心とした展示がされています。言わば、バブルの遺産です。そういえば、バブルの最盛期に、この会社が、ゴッホの”ひまわり”を数十億円で落札したことが思い出されます。

この”ひまわり”と、モネ”荒れた海”、セザンヌ”りんごとナプキン”が常設展示されていました。もちろん、東郷青児の作品もあります。

私たちが行ったとき(2009年6月)には、企画展として”岸田劉生展”をやっていました。劉生の没後80年を記念して、彼の全生涯にわたる肖像画を集めています。なかでも、”自画像”、”村娘之図”、”麗子五歳之像”、”二人麗子図”などが有名です。初期の、セザンヌのような作品から、盛期の、デューラーの影響を受けた作品までの変化がたどれます。

42階からは、新宿の景色が見渡せます。美術館の中は、新宿の喧噪とは無縁です。
思い出の美術館118:棟方板画美術館(鎌倉、神奈川)

鎌倉駅前のバスターミナルで、鎌倉山行きのバスに乗ります。細い道をうねりながら進んで、旭が丘のバス停で降ります。少し歩いて、喫茶店のところで左の細い道に入り、坂を上って行くと、 すぐに棟方板画美術館が見えてきます。

ここは、版画家の棟方志功のアトリエの地に建てられた美術館です。収蔵作品は、棟方夫妻が、手元にある作品を寄付したものです。

私たちが行ったとき(2009年6月)には、”棟方志功と友人たち”というテーマで展示していました。1階には、”富嶽頌”、”道祖土頌”などの、屏風仕立てにした大作がありました。”富嶽頌”は、友人である草野心平の詩に版画をつけたものです。

地下におりると、”志功三楽屏風”、” 志功三友屏風”などの肉筆画がありました。棟方の生活や、友人との交流を描いた絵です。

美術館への道には、あじさいが咲いていました。このあたりは、鎌倉の中でも、特に、人通りの少ない静かなところです。ところで、残念ながら、この美術館は閉館してしまいました。
思い出の美術館119:横須賀美術館(横須賀市、神奈川)

京急線の馬堀海岸駅で降りて、バスに乗って三浦半島の突端の観音崎をめざします。観音崎京急ホテル・横須賀美術館前の停留所で降りるとすぐに、ガラス張りの横須賀美術館が見えます。

ここは、横須賀市の市制100周年を記念して、2007年に作られた、新しい美術館です。日本の近代美術を中心とする、4500点の収蔵品を持っています。主な展示室は、1階と地下にあります。

私たちが行ったとき(2009年6月)には、常設展のみをやっていました。おもな展示作品は、有島生馬”西洋婦人像”、藤島武二”夢想”、岸田劉生”木村荘八像”、藤田嗣治”ルアーブルの港”、佐伯勇三”窓のある建物”、松本竣介”お堀端”などです。”ルアーブルの港”は、フジタにはめずらしい風景画で、アンリ・ルソーを思わせる素朴なタッチです。収蔵品の中で見たいと思っていた、中村つねの”少女”は、残念ながら今回は、出ていませんでした。

付属の谷内六郎館では、彼の、週刊新潮表紙の原画が展示されています。こちらには、子供連れの人たちがたくさん来ていました。

1階のレストラン、アクアマーレからは、東京湾の海が見渡せます。しかし、メニューの値段が高かったので、今回はパスしました。ここから十数分歩いて行くと、観音崎灯台があります。
思い出の美術館120:アルテピアッツァ美唄(美唄、北海道)

札幌の北東、旭川へ行く途中に、美唄市はあります。かつての炭坑の町です。美唄駅からかわいらしいバスに乗って、東にむかって山道を20、30分進むと、昔の小学校のグランドが見えてきます。ここが、彫刻家、安田侃の作品を展示する アルテピアッツァ美唄です。

ここは、廃校になった旧栄小学校を利用した施設です。校舎の一角は、幼稚園として利用されています。広い校庭を持っていて、体育館もあります。校舎の裏は、なだらかな小山になっています。

安田侃は、美唄市生まれで、東京芸術大学彫刻科を卒業後、イタリアに渡り、北イタリアにアトリエを構えました。大理石やブロンズによる、精神性の高い抽象彫刻で、国際的に知られています。札幌市民にとっては、札幌駅にあるアーチ状の彫刻、”妙夢”でおなじみです。

校庭に入ると、まず、豆の芽生えのような彫刻、”帰門”に迎えられます。木造のなつかしいような校舎に入ると、小規模な彫刻、”妙夢”、”風”、”めばえ”などがあります。古い校舎と現代彫刻が不思議とマッチしています。体育館にも彫刻が有り、また、ここではときどきコンサートが行われているようです。

校舎の後ろには、地形を利用した、水の流れる彫刻、”天聖”があります。池では、子供達が遊んでいました。背後の山の中にも、多くの彫刻があって、山道を歩いてまわることができます。

山を下りると、ちょっとおしゃれなカフェ、”カフェ・アルテ”があります。コーヒーと「ぽこぽこパン」をいただきました。カフェと同じ建物にはアトリエがあって、人々が彫刻を作っていました。年に何回かは、安田氏がここを訪れて、指導するそうです。

ここには桜の木もたくさんあって、春には夢の国のような景色です。

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