リチャード様に頂いた小説

「Stimulation-2」


前回までのあらすじ

 関東一の規模を誇る漢曹会。その会長曹操は全国制覇を目論んでいた。その動きを察知した関西連合孫一家が動きだし、国内では息のかかった暴力団同士で小さな抗争が続いていた。
 そんな中、曹操の妾腹、曹丕は大学に通いながら組の中枢からは距離を置き、時には組の代打ちをしながら気ままな雀ゴロ生活を送っている。ある日、暇つぶしでしていたご祝儀つき麻雀で、お目付け役の司馬懿に負けた曹丕は、彼に告白されてしまう。キスされた勢いで、動揺を隠し切れないまま、次の勝負で自分自身を賭けてしまった曹丕。どうなることやら・・・(笑)



 携帯のメールには、あらかじめ取ったホテルの名前とルームナンバーが送信されていた。もっといろいろ書けばいいのに、送信者は常に簡潔にしかメールを書かない。
 司馬懿の干渉を無視して、その帰る姿を見届けると、曹丕はホテルのエレベーターへと急いだ。
 何を言えばいいのか、いつも分からない。第一声を考えているうちに、部屋の前についてしまった。曹丕は携帯のメールで「部屋の前についた」とメールを送った。自分のバカさ加減に少し呆れていると、ドアが静かに開いた。
「どうしてチャイムを使わないんですか?」
「押したくないからに決まってるだろ」
 その変な一言に苦笑を滲ませて、彼ー張遼ーは曹丕を出迎えた。きっちりと三つ揃えのスーツを着たままだ。
 滑り込むように中に入る曹丕を、張遼は部屋へ促した。
「呼び出しといて待たせるなんて、サイテーだよなぁ、俺。ゴメンな」
「私も仕事で飛び回っていましたから、お互い様です」
「俺は好き勝手やってるだけだから、お互い様じゃないと思うけど」
 曹丕は苦笑しながらポケットから財布を出し、無造作に掴んだ一万円札の束を、張遼に押し付けるように渡す。
「それから、これ、忘れる前に返しとく」
 ちょっとだけ首を捻ってから、今度は張遼が苦笑した。一ヶ月前にマンションで会った時に、持っていかれた十数万円だ。
「忘れてました。それに少し多いみたいですよ」
 財布にしまうと、明らかに倍になっているのが分かった。
「上げチンのお前のお陰か、あれからは方々で勝ちっぱなしで、かなり稼いでさ。テキトーに利息つけた」
「やっぱりコレ、ですね?」
 張遼は両手の親指と人差し指を同時に軽く動かした。競馬もやるが、麻雀のあがりの方がいいのだ。一人でも平気で高レートの賭場に出入りして打っているので、話を聞くたびに冷や冷やしているのだが、そんな張遼の気持ちはお構いなしだ。
 曹丕は冷蔵庫からビールを取り出して開けながら頷いた。
「今日、ケチ付いたけどな。それも身内にやられた〜!ってカンジ。事務所で仲達と子丹と季重で暇潰しで始めたんだ。面子が面子だから、お前と美味いもの食う金を作れるはずだったのに、勝負は長引くわ、最後の最後で仲達にやられるわ、サイアク」
「何度か見たことがありますが、強いですね、彼は。卓上でも駆け引きが上手い人ですよ」
「場に2枚切れてる三索。俺の手元には二枚あって、一枚浮いたんだ。こっちは安牌だから切ったのにさ。あいつ、河から待ち牌すり替えやがった。三索単騎待ち。俺が切った瞬間、大当たり。まぁ、跳満以上に御祝儀がつく賭けになってたから、必死だったのかなぁと思うんだけど」
 曹丕は階段のところで交わしたキスを思い出して、気まずくなってビールを一気に流し込んだ。
「テラ取り麻雀でもあるまいし、司馬さん、サマ使って御祝儀のためだけに勝ちにいく人でしたか?」
「…計算高い嫌なヤツだからさ、いろいろ考えてるんじゃないの?」
 考えてみれば、だ。自分に近付く理由は組内部での権力の構図を考えれば分からなくもないのだ。主流派から少し離れた位置から伸し上がるには、跡目を継ぐ気のない自分につく方が被害が少ない。
「仮に、だぞ。オヤジが跡目を子に譲るとしたら、兄さんが最有力候補だろ?万が一兄さんに何かあれば、俺か植だ。まぁ、雀ゴロみたいな大学生と、皿回しの高校生じゃ、有り難味のない候補だけどさ。で、幹部の誰かに譲るとしても、誰か一人に絞って取り入ると、そいつがダメになったとき、出世コースから外れる。とりあえず静観しながら、人脈を広げるのに、俺は便利な存在ってわけさ」
 一気に考えを喋ってしまうと、曹丕はビールを飲み干し、空き缶をごみ箱に投げ入れた。
 張遼は傷付くだろうか。話してしまいたかったが、唇は言葉を紡げなかった。
「覚えめでたく、なーんてさ。そんなに俺の懐広くないってね。今度のオヤジの代打ちでも、コンビ組まされるんだぜ。お目付けで側にくっつかれているだけでもウザいのに、ムカつくよ」
 曹丕はもう一度冷蔵庫からビールを出した。それを張遼に手渡し、ソファに深く腰をおろした。
 張遼もビールを受け取ると、隣に座った。
 テレビがついていないせいか、音が無く、沈黙がいつもより重く感じられる。
「…そっちは今、何してるんだよ。連絡ねーし」
「倒産処理のチームにいます。おかげで二週間家に帰っていませんでしたけど、昨日カタが付きました。万が一があるので、今回は電源を切っておくわけにはいかないのですが……すみません」
「それくらい、イイよ。シノギの邪魔はしねーから。でもまぁ、稼いでるんだ」
「そうでもないですよ。新法の影響で楽じゃないですし。……聞きたいですか?」
「んー。やめとく。お前の口から、父親はマグロ漁船に売っただの、娘はソープに沈めただの、聞きたくねーよ」
 張遼は缶ビールを開けて一口飲んだ。イメージで喋っているのだろうが、不幸の度合いは大差ないのが怖いところだ。
 曹丕は煙草をくわえて火を付けた。弁解しないので本当にそんなことをしているのかと気になったが、後悔したくなくて話題を変えた。
「で、一応は…ゆっくりできるんだろ?」
「ええ。言われた通り二日もらいました。ここも偽名で押さえてあります。三日後はボスの麻雀接待のお供ですから、結局三日間、一緒ですね」
「そーいうこと。明日は午後からショッピングに付き合えよ」
「荷物ならいくらでも持ちますけど。あまり街中で一緒だと、目立つでしょう」
「極道ってカッコしてるわけじゃないし、俺は楽しいけど……迷惑だったか?オヤジがうるさいからなぁ」
「いいえ。私でよければお供いたします」
 真摯に、張遼は言った。
 天井を見上げて煙を吐き出し、その深く穏やかな響きを楽しんでから、曹丕は頷いた。
「都心でリゾート気分満喫!二日間のんびりしようぜ」
 張遼の頬にキスをして曹丕は立ち上がった。くわえ煙草のまま浴室に向かって歩き出す。
「シャワー浴びてくる。テレビでも見ながら、テキトーに寛いで待ってて」
 ワンランク上の(それでもここでは中ランクだ)スウィートはさすがに広い。トイレやアメニティーグッズなどを眺め回し、一泊およそ10万の居心地のよさを確認して、洗面台に置いてある灰皿に煙草を押し付けた。張遼の携帯が鳴っているのが遠くで聞こえた。仕事用なのか、シンプルなベル音だ。
 その場に服を脱ぎ捨ててバスルームに入ると、曹丕は頭からシャワーを浴びた。水がだんだんと温もりを増していくにつれ、アルコールが回っていくようだった。麻雀の最中も飲んでいたので既に5,6缶のビールを空けている。軽い酩酊感のまま、手早く髪と体を洗ってバスルームを出た。
 曹丕が軽く頭を振って、バスタオルを取ったその時、そこに張遼が入ってきた。
 まだあがっていないと思っていたので、張遼はその裸体に動揺した。脱ぎ捨ててあるであろう曹丕の服を、ハンガーにかけようと拾いにきただけだった。見なければ抑えられたかもしれないが、ここで抱きたいと思ってしまった。瞬間、ごく自然に、曹丕の手を引き寄せ、抱きしめてしまっていた。
 曹丕は突然の抱擁にタオルを落としてしまった。洗面台の大きな鏡に映りこんだ姿が、妙に恥ずかしかった。張遼の大きな手が、腕から離れ、背から腰へと動きながら抱きこんでいく。
「スーツが……濡れるぞ」
 髪の滴が首筋を滑り落ちて、張遼の服に染み込んでいくのが分かる。曹丕はやんわりと身を捩って逃れようとしたが、意外にも張遼は放してくれなかった。その分後ろから抱きしめられる形になって、視線を上げると鏡越しに見詰め合っていた。
「ここで……したいわけ?」
「して、みましょうか」
 張遼は、曹丕を煽るように耳元に唇を寄せた。耳殻に軽く歯を立てて舌で探った。
 鏡に映ったその口元が、曹丕には意地悪く笑んでいるように見えた。それでも、珍しく積極的に体を合わせてくる張遼に、乗せられた。右腕を首に回して、顔を引き寄せてキスする。薄く乾いた唇を舌で湿らすと、深く貪るように口付けられた。突然の抱擁に焦っていた気持ちが、より一層の刺激を求めてうごめいた。敢えてそのリードに身を委ねていると、これからもたらされる快楽への期待で肌が泡立った。
「腕を、前について」
 その指示に大人しく曹丕は洗面台に両腕をついた。
 張遼は体をぴたりと寄せ、背中の水滴を舐め取るように唇を這わせ、一方では指で曹丕の蕾を揉みほぐした。中指を挿入しつつ、背骨の小さな窪みにわざと音を立ててキスする。唇を離す瞬間に皮膚を舌先で舐めると、曹丕は小さく体を震わせた。
「今日のお前……変だ」
「あなたとの距離を保つことが……難しくなってきました。シノギで命を失うこと以上に、あなたを失うことを恐れてしまう。執着ほど、恐ろしいことはない」
 ぞくっとする低く落ち着いた声。感情の起伏は感じられない。淡々と話しながらも律儀すぎる愛撫の手は緩まなかった。二本目の指が腔内を掻き回すように動いている。甘い告白やムードとは無縁な男なのだと改めて実感した。
「先程、司馬さんから電話が入りました。『当日まで子桓様をよろしく。何か必要あれば遠慮なく連絡を』と」
「…何でも知ってんだなぁ。盗聴器でもどっかにつけてんのか?」
 投げ遣りに呟いて苦笑する。今日の司馬懿の露骨なまでの子供っぽさは何なのだろう。その行動に惑わされている張遼も、珍しく大人げない。
「気にするなよ。アイツとは何でもないし」
「そうおっしゃるなら、あまり気安くご自身を賭けないことです」
「マジ?キツイなぁ……あることないこと言いやがって」
 そんなことまで喋るな、あのバカ。曹丕は小さな溜息をついた。
 その緩みの合間に、張遼は指を引き抜き、代わりに自分のものを押し当て腰を進めた。指よりも数倍強烈な圧迫感。その、いつもより性急な挿入に、痛みを感じて引けてしまう曹丕の腰を、張遼は左手だけで押さえ込んでしまった。
「あのお前がジェラシーなんてさ……笑える」
 苦痛と、内部を埋め尽くされる快感に息を乱して、曹丕は薄く笑った。
 張遼はゆっくりと、だが徐々に深く、内部を犯した。組内での噂も、司馬懿のご執心も、自分の立場すらどうでも良くなってしまう。今、抱いていることだけが重要だった。愛と単純に言い切れない何かで、体を求めてしまうことを、どう口にしていいのかが分からない。
 苦痛を訴える曹丕の息遣いに、甘い余韻が生まれた。
「俺のこと……離すなよ、占有屋」
 喘ぎ声に混ざった呟きに、張遼は口元で笑んだ。
「子桓様のことは、随分いろんな方が抑えているようですが…私は抵当権すら設定していませんよ」
「他の抵当、全部外せよ。なんなら……拉致してでも……長期貸借契約するんだな。お手の物だろう?」
「束縛は嫌いだと、あれほど……」
「お前のそれは、違うんだよ」
 張遼の言葉を切って、曹丕は左手を自分の腰を掴む大きな手に添えた。髪から落ちる水滴と、官能の波に視界が霞んだ。オレンジ色のライトが、白く色を変えようとしている。
 張遼の手の甲に、曹丕が爪を立てる。追い立てるように腰を使い、右親指で尖った乳首を弄んだ。曹丕はすらりとした背をしならせて顔を上げた。きつい締め上げに達しないように自制しながら、突き上げる。きつく閉ざされた目蓋が、時折うっすらと開いた。その時の官能的に潤んで、焦点を失った双眸がきれいで、見惚れた。
「も、い……い。……遼、イキそ……」
 曹丕は揺れる風景の中に、鏡に映る二人の姿を見て、卑猥さに目がくらんだ。服を着たまま自分を抱く張遼を見ているだけで、いってしまいそうだった。ペニスにも触れられないままなのに、どうしようもなく感じていた。粘膜が擦れあう音や自分の嬌声、羞恥心を含む正常な思考が、次々に歪んで飛んでいく。
「すご、い……っ、いい!は……、ん……っ!」
「いって……」
 熱い息を耳朶に感じた。この男のもたらす『快』になら殺されてもいいと体中が叫んでいた。鏡の中の張遼に愛しさを含んだ視線を絡ませて、曹丕は精を吐き出した。



「……先程は、すみませんでした」
 一緒に入ると狭く感じるバスに、膝を抱えて、向かい合って浸かっているときに、唐突に言うセリフじゃない。込み上げるバツの悪さを知ってか、曹丕が水面から飛び出た張遼の膝に顎を乗せて、にんまりと笑った。
「なーんで、謝るんだよ。俺だけ先にイっちゃったのに」
「いえ、その…そうじゃなくて…」
 風呂の底に両手をついて伸び上がり、曹丕は張遼にキスした。
「なんかさ、ダメなんだよなぁ。特別っていうか……遼のこと、好きなんだ。嫉妬されたりあんな風に抱かれると、俺のもんだなぁって、思ったりする」
「あまり思い上がらせないで下さい。分はわきまえていたいんです」
 屈託ない素直な発言にうろたえつつ、張遼は曹丕の頬を撫でた。真っ直ぐに見つめかえし、曹丕は挑発的な笑みを浮かべていた。
「思い上がり上等!仲達くらい厚かましくなれないと、出世できないぞ〜。まぁ、とりあえずは……ベッドからスタートしとこうかな?」
 満足げに湯船から出て行く曹丕に苦笑して、張遼もその後を追った。



  相変わらずですね・・・。うちのこの人たち。やるだけだし。
  それに遅くなってしまってすみません(汗)
  張遼の背中に彫り物入ってたらいいなぁと思いながらも、柄思い浮かばなかったのであえて  書かなかったです。希望としては、騎龍観音とか。毘沙門天とか。和物を背中一面って感じ  かなぁ。甘寧はすぐ思い浮かんだのですが(笑)今回出番なしでしたね。



犬吉からのコメント

本当にありがとうございます〜。いや〜ん、もう張遼にメロメロです〜。張遼ったら子桓様の前だとお子さまのようですわ〜〜〜vvv

リチャード様、本当にどうもありがとうございました!!


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