霹 靂


 
「元譲殿!」
 二人で連れ立って歩いていると、後ろから張遼が声をかけてきた。さっきまで考え事でもしていたらしく、無表情だった夏侯惇がそのままの顔で振り返る。
「あぁ文遠殿、どうした?」
「いや、先日某の部隊が馬を走らせるときは声をかけてくれとおっしゃったので」
 張遼は隣にいる夏侯淵に礼をすると、夏侯惇に再び向き直った。
「三日後から二日間、元譲殿のご都合はいかがですか?」
「三日後か。後で主公に伺ってから正式に返事を差し上げるが、多分大丈夫だろう。どれほど連れて行かれるのだ?」
「うちは精鋭の五十を連れて行きますので、元譲殿も五十ほど連れてきて下さるとありがたいです」
「了解した」
 頷いてから、夏侯惇は口元をほころばせた。
「久しぶりに思う存分馬を駆けさせられるな。今から三日後が楽しみだ。文遠殿、お手柔らかに頼むぞ」
「それはこちらの台詞です。それでは、某はこれにて。妙才殿、お話し中お邪魔してしまい、申し訳ありませんでした」
 頭を下げてから足早に去っていく張遼の後ろ姿を見送りながら、夏侯淵は険しい顔をした。
「……元譲」
「ん?」
「……なんで文遠と、遠出?」
「何でって……」
 夏侯惇は内心「またか」と独りごちた。ここのところずっと、妙才はこの調子だ。調練中に新兵共が、夏侯惇が曹操の枕席に侍っているとか何とか言いだした、あの時からだ。夏侯淵がそれをうっかり信じ込み、満座の席で夏侯惇にどやされたのは、もうずいぶん前の話になる。あの時は、それは根も葉もないただの妄想だと分かったはずなのだが……。
「我が軍において、もっとも精鋭の騎馬隊を誇る文遠殿の調練に加えてもらって、色々と教授を願おうと思ってな。それに最近忙しくて、俺だけじゃなく馬も兵もなまっている。ここらでガツンと引き締めなければと思い、頼んでいたんだ」
 何でこんな分かり切ったことをと思いながら、夏侯惇は出来るだけそれを顔に出さぬようにして言った。
「俺に声かければ良いじゃん。うちだって用兵の速さには定評があるぞ」
「お前とは近すぎる。馴れ合ってるようじゃ意味がないだろう」
「調練なら馴れ合ったりしないぞ」
 ムキになってくってかかる夏侯淵に、今度こそ夏侯惇は苛立った声を聞かせた。
「そういう感情のありようが、馴れ合いだと言うんだ。大体確かにお前の部隊はよく走り込まれていて用兵も速いが、精鋭の騎馬隊といえば誰だって文遠殿を思い浮かべるさ。お前だってそれに否はないだろう?」
「だけど!」
 まだ言いつのろうとする夏侯淵を遮るように、夏侯惇は怒鳴り声を上げた。
「いい加減にしろ!」
 夏侯淵が、びくりと顔を震わせる。
「女の悋気じゃあるまいし、俺が俺の考えで調練をするのに、お前が口を出す権利があるのか!?」
「……元譲……」
 小さくなった夏侯淵を振り捨てるように、夏侯惇は踵を返して彼を置き去りにした。
「元譲、どこ行くんだよ!」
「主公に調練のご許可をいただきに行くのだ。分かり切ったことを訊くな!」
 夏侯惇はそのまま後ろを見ないで、足早にその場を離れた。
 後に残った夏侯淵の姿を、意識の外に押し出すように。



 曹操の執務室の前には、いつも通り護衛兵が二人立っていた。夏侯惇が二人に目を向けると、緊張でもしたのだろうか、二人は伸ばしている背を更に伸ばした。
「閣下は今お一人か?」
「はっ。先ほどまで参謀の方々がおいででしたが、今帰られたところです」
「では、入室してもよろしいか?」
「もちろんでありますっ」
 軽く頷くと、夏侯惇は扉の前で名乗りを上げた。
「夏侯惇です。お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「あぁ、入れ」
「はっ。失礼いたします」
 護衛兵が扉を開けると、夏侯惇は礼をしてから曹操の執務室に足を入れた。
「何だ、何かあったか?」
 うずたかく積まれた竹巻の間から、曹操が顔を上げる。
「何です?その竹巻の山は」
「民政の報告書だ。読むか?」
「某は、民政の方ではお役には立てませんので」
 困ったように辞退すると、「まぁそう言うな、ちょっと付き合え」と、曹操は半ば本気で夏侯惇を卓の前に座らせた。
「すいません、主公。今日は調練のご許可をいただきたく、まかり越したのですが」
「調練?」
 何でお前が調練位の事でわざわざ許可を?という顔をしている。夏侯惇は「はっ」と礼をしてから、先を続けた。
「張将軍から、三日後から二日間、城外で騎馬の調練をすると報告があったと思いますが、某の部隊も合同で行いたいと思っております。よろしいでしょうか」
「三日後か……」
 曹操はやっと頷きながら、少しだけ腕を組んで考え込んだ。頭の中で色々な予定を組み立てているのだろう。今次の戦に向けて色々と段取りをつけているところで、正直忙しいのだ。夏侯惇がすぐに掴まらないのはちょっと辛い。
「……二日間だけか?」
「その予定です」
「どこまで走らせるつもりだ?」
「まだ詳しい話を詰めていないのですが、まぁ二日で戻ってこれる辺りです」
「……お前らの二日は儂の想像の範囲を超えてることがあるからな……。文遠とだろう?」
「御意」
「う〜ん。伝令に捕まえられるのか、それ……」
「それならば、伝令にも良い訓練ですな」
 夏侯惇が笑ってみせると、曹操は憤慨したように鼻を鳴らした。曹操がこういう風に分かりやすく憤慨しているときは、諾と言っているのと同じ事だ。
「まぁ良い、行ってこい。少し羽を伸ばしてくればいいさ」
「ありがとうございます」
 口元にまだ笑顔を貼り付けている夏侯惇の顔を、曹操は少しの間まじまじと見つめた。
「主公?」
「……お主、本当に疲れた顔をしてるな。大丈夫か?」
「そうですか?いや、主公に心配していただくようなことは……」
「いや、疲れてる」
 きっぱりと言い切る曹操に、夏侯惇はどういう顔をした物が少し悩んでから、この主に隠し事はできないと、諦めたように白状した。
「ご心配をおかけしてすいません。ですが私事ですので……」
「妙才か」
「……」
「妙才だろう。端で見ててもアレはないわ」
「……」
 うんうんと曹操が頷く。それでも何も言わない夏侯惇の背中を、曹操はバンバンと叩いた。
「構わんぞ、別に。言いたくなきゃ言わんでも。儂とお前の仲だ。言わんでも分かるわ」
 その親しみのこもった声に、思わず夏侯惇はぽろりとこぼした。
「……も、正直妙才がうざいです……」
 泣きそうな声である。曹操が思わず夏侯惇を二度見した。
「びっくりした!お前の愚痴聞くの、初めてかも!」
「恐れながら、言わせたのは主公です……」
 夏侯惇は額を抑えて溜息をつく。物心ついた時からのつきあいである従弟の、こんな姿を見るのは初めてだ。ほんの子供の頃から、夏侯惇は必要以上に老成していた。時々かっとなると手のつけられないところがあるが、それは曹操や夏侯淵の前で振るわれることはまずなく、曹操が目にする夏侯惇はいつだって穏やかに落ち着いて、自分や夏侯淵の暴走をたしなめる男だったはずだ。その夏侯惇が……!!
 曹操は心底面喰らった。取りあえず夏侯惇を元気づけなければと思うと、なんだか馴れない展開に汗がにじむ。
「いや、でもそれはお前、お前も人間なんだからしょうがないと思うぞ!?」
「……いえ、すいませんでした」
 額から手を外すと、夏侯惇は頭を下げた。
「主公から重席を賜りながら、他の部将の陰口を叩くような真似を……」
「あぁもうそういうのは良いから!陰口も減ったくれもないわ。妙才がうざいのは本当のことだ。大体、他の武将だの主公から重席だの、そういう風に話をややこしくするな。席の上下を取っ払えば、お前らも儂も同じ血の流れる従兄弟同士だろうが!ったく何年付き合ってると思ってるんだ!」
 部屋に入ってきたときよりもぐったりしている夏侯惇に、とりあえず茶を勧める。先ほど手づから淹れていた茶の道具がまだ出したままになっているし、火にかけられた鉄瓶もしゅんしゅんと沸いている。急いで淹れて茶碗を差し出すと、夏侯惇は一礼してからその茶を一気に飲み干し、熱そうに口を歪めた。
「……酒じゃないんだから……」
「……すいません……」
 小さく口元をぬぐう夏侯惇に、もう一度、今度はゆっくりと茶を淹れる。取りあえず、お互いに落ち着くことが大切だ。
 曹操は優雅な所作で茶を淹れて、今度は夏侯惇の膝の前にそっと差し出した。夏侯惇も再び一礼し、今度はゆっくりと茶を舌に転がす。茶碗をまた足下に戻すと、二人はどちらからともなく小さな溜息をついた。
「……訊きづらいことを訊くが、許せよ」
「はっ」
 曹操は自分のためにも茶を淹れながら、少しだけ言いあぐねたように言葉を切った。だがそれでも重そうに口を開く。
「前に、妙才がお前を得ようとするならば、お前は最後には妙才を拒めまいと言ったことを覚えているか?」
「……主公、それは……」
「良いから聞け。お前はあの時誤魔化したが、もう誤魔化しようのないところに来ているのではないのか?」
「……」
 夏侯惇は伏せた右目で、今床に置いた茶碗を眺めている。しばらくそうして曹操から視線を外していた。ずいぶん長いようにも、短いようにも思われたが、夏侯惇は微動だにせず、目を伏せたまま小さい声で「ただの好奇心ですよ」と告げた。
「某が主公の枕席に侍っているなどと下卑た噂を真に受けて……。下らない。我が従弟ながら、呆れた奴ですよ」
「違うだろう、元譲」
 思いの外きつい目でたしなめられ、夏侯惇は唇を噛んだ。
「妙才の、お前に対する気持ちは確かに幼い。だがそれだけ純粋なのだ。あいつにとってお前は、ずっと神殿に納められた存在だった。だが儂との噂を聞いて、お前がただの男だと気づいてしまったのだろう。……手を伸ばしさえすれば、抱くことだって不可能ではないということに」
「やめてください!」 
 勢いよく立ち上がろうとした夏侯惇の腕を掴んで、曹操はそれを許さなかった。
「何故妙才だけは許せないのだ?」
「誰であろうと、そんなことを許せるはずがないでしょう!?某を侮辱するつもりですか!?」
 しばらくの間、曹操と夏侯惇は黙って睨みあった。そうしていきなり曹操は外の護衛兵を呼びつけた。
「お前達を含め、当分の間誰もこの部屋に近づいてはならぬ。良いな」
「かしこまりました」
「あぁ待て。その前に、誰ぞに言って酒をここに運ばせてくれ」
「はっ」
 護衛兵が礼をして外に出て行く様子を呆気にとられて見ていた夏侯惇は、その姿が見えなくなると、やっと曹操に視線を戻した。
「主公?」
 訝しげに自分を見る夏侯惇の前で、曹操はどっかりと座り直す。
「今日はとことん話し合うぞ」
「主公!いくら主君であっても、こんな事にまで主公が口を出されるというのは」
「うるさい!いいか?儂がこれから口にするのは、主君が部将に言うようなことではないし、従兄弟同士で口にするようなことでもない。だからここにいるのは漢の司空などではなく、城下でも札付きの不良と言われた孟徳だ。そしてお前も伏波将軍などではなく、その不良の尻ぬぐいに奔走していたただの元譲だ。良いな?ここで儂を主公などと呼んだらぶん殴るぞっ」
 そのあまりの勢いに、思わず夏侯惇は「分かった…」と、何十年ぶりか分からないほどの、ため口をきいた。



 侍女が数人で、酒や肴の乗った盆を捧げ持ちながら入ってきた。その時だけは一応その場を繕って、二人とも鷹揚に頷いてみせ、「この後は呼ぶまで誰も入らぬように。良いな」と念を押す。侍女達が舞うような仕草でお辞儀をして去っていくと、曹操はさっさと自分の杯に酒をつぎ、一気に飲み干した。
「お前も手酌でやれ。酔ってからじゃないと出来ない話だ。ほら、さっさと飲め」
「……二人とも酔ってから、ですか。足りますか?」
 投げやりそうに言う夏侯惇に、曹操は鼻を鳴らしてみせた。
「うるさい。いいから飲め」
 それからしばらく、二人は黙って酒を口に運んだ。昼の日中から、執務時間内に酒を飲みながら、主君を相手にため口で男の話をしろというのだ。そんなのどう考えでも酔えるわけがない。それでも言われたとおり黙々と酒を口に運んでいると、曹操が口の端についた酒をぬぐいながら、もう一度「こんな事は正気の沙汰で言うことではないから、この場限りの話とするが」と言い訳のように前置きした。
「……お前、さっき誰が相手でも許せないとか言ったが、あれ、本心ではないだろう?」
「本心でなければ何だろ言うのですか。主公だって同じ事を言われたらどう思うか考えてみてください」
「主公って言ったら殴るって言わなかったか?」
「……口が裂けても主公を昔のように字では呼べません」
「裂くぞ」
「言いません」
「強情者が!さっき分かったと言ったではないか!」
「何と言われても言えないものは言えません!」
 穏やかそうな顔をして、夏侯惇が魏陣営でも一、二を争う強情者であることを思い出し、ここで足踏みをしたら永久に話など出来ないと悟って、曹操は取りあえずこれに関しては折れることにした。
「……分かった。では儂を主公というのは我慢してやる。その代わり、この話で嘘をつく事は許さん」
「……嘘など」
「では言うが。お前、その身を男に任せたことがないとは言わさぬぞ」
「……何を根拠にそんな」
 夏侯惇の目がすっと伏せるように泳いだ。その顔を眺めながら、曹操は更にたたみ掛ける。
「では、これならどうだ。お前は逃亡生活を送っていた間、宿泊料代わりだか口止め料代わりだかで、匿ってくれた者に身を任せていただろう」
「なん……っ!」
 慌てて口を手で覆ってももう遅い。何でそれを、と危うく言いそうになったのを、見逃す曹操ではないのだ。
「ほら見ろ、図星だろう」
「……主公っ」
 顔に朱を上らせて自分を睨む夏侯惇を、こいつなら、この年でだってまだまだいけるだろうと本気で思った。
「そんなの言われなくたって分かるわ。お前、あの頃一番綺麗な年だったしな」
「綺麗ってなんですか!気でも狂われましたか?」
 憤慨する夏侯惇に、「お前らだって子桓や子建のことを綺麗な方だとか言うじゃないか。あれと同じ事だろうが。大体お前の若い頃って、子桓と印象大分かぶるぞ」と混ぜ返す。
「髪型だけです!酔ってますね、主公!」
「だから、酔わないと出来ない話をすると言っただろう。良いか?あの頃のお前が行き先を無くし、窮鳥のように自分の懐に飛び込んできてみろ。そこらの女とお前とどっちか選べて言われたら、絶対お前を選ぶぞ」
「選びません!」
「でも関係を迫られて、身を任せたんだろう?」
「っ」
 返す言葉に詰まって、夏侯惇は口をつぐんだ。
 ……その通りだから、口をつぐまざるを得ないのだ。
 あの時、己の剣の師匠を侮辱され、後先を考えずにその者を切り捨てた夏侯惇は、曹操が檄を挙げるまで流浪の生活を送った。もちろん義侠心のある若者よと好意で匿ってくれた者もいたが、中には曹操の言うように、役所に突き出されたくなければと、関係を迫る者もいた。また好意で置いてくれた者の中には自分に入れあげるあまり、断金の契りだとか金蘭の契りだとか言って、忍んでくる者もいた。
 正直を言えば、どうでも良かった。生きて国に帰れさえすれば、それで良かったのだ。
 突き出されたくなければ、と言われれば、なんの見返りも求めずに罪人を匿うようなお人好しもいないだろう、この体くらいで済むのなら、それで生き延びることが出来るなら安いものだと思った。断金がどうの金蘭がどうのと言われれば、まぁこの位で気が済むのなら構うものかと思った。物好きな、とは思ったが、それと同時に憐れにも思った。
 とにかく、生きて国に帰るためなら何でもやったのだ。
 自分の氏素性を隠してはいたが、その身のこなしから名のある家の者だとはすぐ分かるのだろう。たいていは食客のように扱われたが、世の中はそれほど甘くはない。盗賊共の用心棒のようなことだってやったし、富農の家で農奴の暮らしをしたこともある。腹が減って行き倒れたときに一杯の粥を恵んでくれるのなら、その見返りに差し出せるのはこの体だけだった。
 そうだ。
 男に身を任せることなど、あの当時は何とも思っていなかった。
 だが、今は違う。
「……あの流浪の日々を、今の尺度で見返すことは出来ません。あの頃平気だったことが、今平気だとは限らない。某はあの時、人の欲や毒というものをいやと言うほど味わいました。もう二度と、あのような目に遭いたいとは思いません」
 目を伏せて淡々と語る夏侯惇に、曹操は首を振った。
「お前の傷跡を抉るようなことばかり言ってすまないが、お前は今だって、例えば酒の席や戦の興奮に任せて、誰か気のおけない同僚と寝てしまおうと思えば寝れるだろう。なんなら、酔った勢いで儂と寝てみるか?」
「ご冗談を。お断りします」
「そうだ。そうやって、お前は他の奴なら誰でも綺麗に流して無かったことにする。全て冗談にして、例え体を交えたとしても、翌朝にはなかったことにできるだろう。だが元譲、お前は妙才だけは許せないのだ。妙才が自分をその様な目で見ることが、お前には許せないのだ。……何故だ?」
 曹操の顔が、自分の目と鼻の先にある。曹操の目は真剣で、自分をからかうようにも、挑発するようにも見えなかった。
 何故、妙才だけは許せないのか。
 その答えなら知っている。
 ……だが。
「何故だとお訊きになりますか。そんなの決まっています。あいつとは襁褓の頃からの付き合いですよ?ガキの頃から何かと言えば俺たちは同じものだと言い続けて、聞かされる身にもなって下さい。某がどれだけあいつの面倒を見てやったと思ってるのですが。それを図々しくどの面下げて……!あいつの好奇心や独占欲を、何で某が満足させてやらねばならないのですか!あいつが某を得たとして、それであいつは満足でしょうよ。男同士というのはこういうものかと納得して、今某を独占しているのは自分だけだという気になって、それであいつは気が済むでしょうよ。でもそんな理由で傷口を抉られて、某に黙っていろと言うのですか!?一度でも寝れば、某は妙才との関係を、今と同じには保てません。でも奴は、まるでなかった事のようにして、今まで通り付き合えると信じている。バカバカしい。そこまであいつのオモチャにはされませんよ。某との関係が粉々に壊れても良いというなら勝手にすれば良い!」
 一気にまくし立てると、じっとこちらを見ている曹操と目が合った。その時初めて夏侯惇は相手が曹操であることを思い出したように、苦々しげに酒に手を伸ばした。
「……」
 曹操は、その様子をただ見つめていた。夏侯惇が酒をあおり、口元をぬぐってから目を閉じて、自分を落ち着ける為にゆっくりと息を吐き出す様子を、まるで頭の中に叩き入れているかのように。
「……すいませんでした。少し酔っているようです」
「酔わないと出来ない話を始めたのは儂だ。……だが元譲、お前の気持ちは大体分かった。今日は言いづらい話をさせて悪かった。許せ」
「……一つお訊きしてもよろしいでしょうか」
 夏侯惇が、怒っているようにも、皮肉っているようにも見える顔をした。
「なんだ」
「……こんな事を聞いて、どうなさるおつもりなのですか?」
 そう訊かれて、曹操は少し目を泳がせた。こちらは何と言った物か考えあぐねているような、言い訳を探す子供のような、そんな顔だ。
「まぁ、要するにあれだ。儂は基本的に、お前にはあんまり要らんことで傷ついてもらいたくないのだ」
「……恐れ入ります」
「かといってお前らの色恋はややこしくて、一歩間違ったら双方傷だらけって事になりそうだから、ちょっと現状を正確に把握しておきたいと思ってな」
「……なんですか、お前らの色恋ってのは」
 夏侯惇が睨みつけると、曹操は大袈裟に溜息をついた。
「まぁ良い。どうせお前はそうやって言い続けるしかないのだ」
「主公、何をどう理解したつもりになっているのですか?勝手に誤解するのはやめてください」
「誤解?儂のお前に対する認識は、今の話を聞いても全然変わらなかったぞ?まぁ、お前はそうだろうさ。問題は妙才だ。一度あいつも呼び出すかな……」
「主公!!勝手に人を肴に遊ぶのはやめてください!」
 切羽詰まったように曹操の前に乗り出した夏侯惇に、曹操は表情を変えて、怖いほどのまなざしを向けた。
「儂は本気で言っているのだ」
 その目の強さに、思わず夏侯惇は体を引いた。
「……何を……」
 夏侯惇にとって、曹操はこの世の覇者である。心から臣従している主である。その曹操が、たかが自分と夏侯淵の話に、何を本気になると言うのか。
 その考えは顔に出ているのだろう。曹操は苛ただしげに夏侯惇の肩を掴んだ。
「何を言っているのか分からない、とでも言いたげだな。そりゃあお前にとっては儂なんかただの君主だろうよ。だが儂にとったらお前はただの臣下でも従弟でもないのだ。もう周り中敵か臣下しかいない儂にとって、朋友と呼べる奴はお前しかいないのだぞ。その儂がお前の身を案じて何が悪いのだ」
「主公……」
「分かっとる。お前はただ儂に臣従してるだけだ。はなからお前には妙才がいて、他にも友ならたくさんいるだろうさ。だがお前だって公に見れば儂の右腕という皆より抜きん出た地位にいて、お前より上の席次の奴は儂しかいない。妙才をうざいと愚痴すら言うことの出来ない立場のお前なら、儂の気持ちも少しは分かってくれ!」
 雷に打たれたような気分になった。
 王者の孤独とはこういうものか。
 曹操を孤独に追い立てているのは自分なのか。
 だが、幼少の頃から曹操の補佐役に徹してきた夏侯惇には、今更曹操に朋友と言われても、どうすることも出来ないのだ。
 そんな夏侯惇のとまどいが伝わって、曹操は余計に傷ついた顔をした。
「……すまない。儂も酔っているのだ。詮無いことを言った。お前を困らせたいわけではないのだ」
「主公……」
「分かってるが、それでも儂にとってはやっぱりお前は朋友だし、朋友のお前をどうしたって心配してしまうし、友達面して口を突っ込んだりしたくなるんだ。それぐらいは、また儂の我が儘だと思ってお前も知らん顔して付き合ってくれ。今までだって儂を甘やかしてきたんだから、今度も儂に心配をさせてくれ」
 頼むと頭を下げようとする曹操を、慌てて止める。平気でこういうマネをするから、夏侯惇はいつだって曹操にかなわないのだ。
「分かりました!分かりましたからやめてください!」
 その台詞に、曹操がしめたとばかりに顔を上げる。
「分かったって事は、儂が口を出しても良いって事だな?」
「あぁもう、主公はどこまでが本気でどこまで遊ばれてるのか、某にはもう分かりませんよっ!」
 最初から、この主に勝てるはずがないのだ。夏侯惇は諦めたように苦笑するしかなかった。
「……主公、でもこれだけは覚えて置いて下さい」
「ん?」
 曹操はまた何を文句を言われるのかと身構えた。
 だが。
「子供の頃の某にとっても、孟徳という男は仲の良い従兄だったし、つるんでいて楽しい悪友でしたよ。ただこの従兄の器がでかすぎて、器の底が某には見えなくなった。この器には、長安や洛陽だけでもまだ足りない。この世界その物を呑み込む器だと気がついたとき、某にとって、あなたは主になったのです」
 しばらく曹操は、夏侯惇の顔を見つめていた。夏侯惇の顔はどこまでも真剣で一点の曇りもなく、それでいて母親のように優しかった。
 そうだ。この従弟は、いつもこの目で自分を見つめているのだ。
 曹操は口元を苦く歪めて、それから小さく「お前は優しいな」と笑った。



 曹操の執務室を出ると、酒を残したまま自分の執務室に行くのも何となく躊躇われて、夏侯惇は執務室の裏手にある小さな中庭で足を止めた。芙蓉の花が盛りである。回廊の手すりに背を預けて、花の白さに目を細めた。
『もう周り中敵か臣下しかいない儂にとって、朋友と呼べる奴はお前しかいないのだぞ』
『お前はあの時誤魔化したが、もう誤魔化しようのないところに来ているのではないのか?』
『それでも儂にとってはやっぱりお前は朋友だし、朋友のお前をどうしたって心配してしまうし、友達面して口を突っ込んだりしたくなるんだ』
『何故妙才だけは許せないんだ?』
 曹操との会話を反芻して、夏侯惇は溜息をついた。考えなければならないことが多すぎて、何から考えればいいのか整理がつかない。
「だが俺の処理能力には限りがあるのだぞ……!」
 頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、それでもまだ足りない気がして、今度は顔を両手でしごいてみた。
 自分の肩を掴んだ曹操の、きつい眼差し。
 苛ただしいだけではなかった。
 切ないような、怒りのような、すがるような、助けを求めるような、そして何より孤独な顔をしていた。
「くそっ。妙才などはもうこの際どうでも良いわ。問題は主公だ。主公にあのような思いをさせていたとは……!あぁ、だが俺はもうさすがに主公を字では呼べんぞ……!!」
 呉の孫策には親友の周喩が常にそばにいた。劉備には関羽・張飛という義兄弟が。だが、曹操の周りにはそんな人物はいなかった。
 いや、袁紹がいたか……。
 夏侯惇が思い出す限り、曹操が親しく付き合っていたのは袁紹ぐらいだった。
 だが、その袁紹は曹操自らが官渡で引導を渡し、すでに鬼籍に入っている。
「……大体主公も、そうならそうと、もっと早くに誰かと義兄弟の契りでも結んでおけば良かったのだ。そこまで行かなくても良いから、詩の仲間とか誰か趣味の合う奴はいないのか。あぁもう、何でも人より抜きん出ていて、自分と同等の者しか認めないのはこういうとき考え物だぞ……!!」
 夏侯惇は大きく溜息をついて、もう一度顔を両手でしごき、そのまま頭を抱えた。
 本当なら、自分で曹操を守りたいと思う。曹操の望むことなら何でも叶えてやりたいと思う。曹操が自分を心配するように、自分も曹操が心配で堪らないのだ。
 だが、人には超えてはならない一線がある。自分は曹操の部将であり、臣下である。もしも自分が曹操の朋友であるなら、もう自分は曹操のために戦うことは出来ないだろう。
 自分は曹操の剣であり、盾でありたかった。曹操の野望を実現するための、一つの駒でありたかった。そうありたいと思っているし、また、それ以外に自分が出来ることはないはずだ。
 ふと土を踏む音がして、夏侯惇は慌てて顔を上げた。あまりにも考えの淵に沈んでいたので、すぐそばに人が来るまで気づかなかったらしい。
 顔を上げると、そこには副官である韓浩の姿があった。
「将軍、こちらにおいででしたか?」
「あぁ、元嗣か。すまない、探したか?」
 気まずいところを見られたのではないかと一瞬焦ったが、韓浩はこちらの様子にお構い無しに用件を切り出した。
「はい。先ほど張将軍の使いの者が書状を持って来られたので、急ぎお見せした方が良いかと思いまして。例の調練の具体要綱のようです」
 韓浩はきびきびとした動作で、捧げ持った書状を夏侯惇に渡した。
「さすがに文遠は仕事が早いな。先ほど主公からご許可をいただいた。こちらからも正式に返事を出さねばな。元嗣、俺を除いて五十人連れて行くことになっているから、人選は任せる」
「はっ。将軍、一つ伺ってもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
 韓浩は真面目な顔で夏侯惇に尋ねた。
「某を調練の数に加えていただいても、よろしいでしょうか」
「……アホか。お前が行かないで誰が行くんだ。じゃあお前を除いて四十九人を選んでくれ」
「はっ。かしこまりました」
 いつもならここでくるりと踵を返す韓浩だが、今日はまだそこに立って、物言いたげにしている。何だ、やはり何か見られていたのかと冷や汗をかきながら、それでも表面だけは取り繕って「まだ何かあるのか?」と一応訊いてみる。
「はっ。僭越ながらお訊きいたします。先ほど、丞相閣下が将軍と二人きり、人払いをして話し合っておられると聞いたのですが……。将軍も大分お疲れのように見受けられます。何か無理難題でも仰せつかったのでしょうか?」
「いや、これは……」
 何と言ったものか考えて、夏侯惇はすまなさそうに笑ってみせた。
「すまん、仕事中だというのに、さっきまで主公と酒を飲んでいたのだ」
「なるほど」
 きまじめに頷く韓浩に、ふと夏侯惇は思い立って訊いてみた。
「元嗣、もし俺がお前に、お前のことは友だと思っているから、俺のことを将軍とは呼ばずに字で呼んでみろと言ったら、お前、どうする?」
「何か悪い物を召し上がられましたか?」
 即座に言ってのける韓浩に、夏侯惇はなんだか安心して、笑い出したくなった。
「そうだよな、そう思うのが普通だよな?」
「はっ。失礼を申し上げました」
「いや、良い。お前がいつもそういう奴で安心した。変なことを言ってすまんな。もう行って良いぞ」
「はっ」
「あぁ、後で文遠の所に書状を届けるように、誰か寄越してくれ」
 礼をして立ち去ろうとした後、韓浩は少しだけ言ったものか言わずにおくべきか悩んだような顔をして、意を決したように再び夏侯惇に礼をした。
「将軍」
「なんだ」
「……将軍、考えすぎは体を壊します。この国は広いのですから、将軍が全て背負われる必要はないと愚考いたします」
「……おまえ」
 夏侯惇がその続きを言うより早く、今度こそ韓浩は礼をすると「失礼いたします」と言って踵を返した。
 韓浩が完全に見えなくなるまでその後ろ姿を呆然と見送ると、夏侯惇はずるずるとしゃがみ込んだ。
「……見られた……」
 一人で百面相をしていたところを見られていたのかと思うと恥ずかしさに身悶えしそうだが、奴があれだけに留めてくれたのはやはり親切心だと考えるべきだろう。ふと夏侯惇は昔、自分が呂布軍に捕らえられて人質にされたときのことを思い出した。そういえばあいつは俺を見殺しにして突撃をかけておきながら、もう敵前でみっともないまで泣きっ散らして、俺に謝り倒したっけ……。
 あの時の対応は人質を取られたときの対応として、今では魏軍の法に加えられている。その判断力は曹操の高い評価を得て、武将としてだけではなく、政治的判断を求められることも多い。もちろん武将としての評価も高く、小さな反乱の制圧などでは一軍を任せられる事もある。いい加減独り立ちさせたいと思っているのだが、それでも最初に自分を見出し、自ら出向いて登用した夏侯惇の副官でいることを、韓浩は望んでいた。
 ああ見えて情の厚い男だ……。
 夏侯惇は小さく笑うと、もういい加減仕事に戻らねばと、執務室に戻った。
 卓の上に、先ほど韓浩から渡された書状を広げる。
 良き部下というのは得難い物だ。自分も、曹操にとってそうう存在でありたいと思っていた。
「それがどうだ。主公にあんな目をさせて……。あまつさえこんな下らない事でご心配をおかけするとは……」
 返事を書こうと筆を執っても、思いは先ほどの会話に辿り着く。夏侯惇は、何度目かも分からぬ溜息をついた。
 その時、扉の向こうで近侍の者が誰かと押し問答をしている声が聞こえた。
「ですから、将軍に今お取り次ぎを致しますので、どうぞ直接将軍にお会いになって下さい」
「――――――」
「いえ、それでは拙めが後でお叱りを受けますので」
「――――――」
「いえあの将軍、本当にどうぞ中へ……っ」
 ……相手の声は聞こえないが、こんな事をしやがるのは奴しかいない。あぁ全く腹の立つ!
「妙才!うちの人間をお前の勝手で困らせるな!」
 座ったまま怒鳴りつけると、一瞬扉の向こうが静かになった。それからまた一拍おいて、そっと扉が開く。
「ご…ごめん、元譲……」
 夏侯惇がわざと乱暴に竹巻を捌いてみせると、夏侯淵はその後をどう続けて良いのか分からなくなってただ入り口にへばりついていた。
 少しはそうやって反省していろと、夏侯惇は夏侯淵を無視して墨を摺った。墨の香りが辺りに広がる。墨を摺る手の感触が、夏侯惇は好きだった。その感触が心を落ち着ける。墨が摺り上がる頃には、わざと夏侯淵を無視しているのもバカバカしいような気になって、硯から目を外さずに口を開いた。
「主公が人払いをしてまで俺と密談していた件なら、原因はお前だぞ」
「え?俺?何?」
 何じゃないだろうがと叫びたくなったが、取りあえずそれは呑み込むことにした。
「お前のバカっぷりは主公の耳にまで届き、主公のご心痛は深い。そのうちお前も主公直々に呼び出されると覚悟していろ」
「……バカっぷりって何だよ」
「身に覚えがないとは言わさんぞ」
 夏侯淵はしばらく不満そうに下を向いていたが、そのうち乱暴に卓の前に座ると「心配させときゃ良いんだよ」と嘯いた。
「お前、主公に対してなんだその言い種は!」
「心配させときゃ良いんだって。バカだな、元譲。主公は部下の世話を焼くのが好きなんだよ。特に元譲はお気に入りのくせに隙がないから、余計にお前の心配をしたくて堪らないんだよ。心配かけてやんのも仕事のうちだと思って、心配させてやりゃ良いんだって。じゃないと主公、寂しくて泣くよ?」
 一瞬怒鳴ってやろうかと口を開きかけたが、すぐに言葉が出てこなかった。その空白に、今の台詞が流れ込んでくる。
 心配かけてやんのも仕事のうち?
 じゃないと主公、寂しくて泣く?
 いや、目から鱗と言うべきか。ひどい言い種としか思えないが、だが言われてみればその通りだ。
 曹操が覇者である限り、その孤独を自分が拭うことなど出来ないのだ。自分が曹操の臣下であり続けるためには、夏侯淵のように割り切ることも必要なのか……。
「……お前、意外と主公のこと、よく分かってるんだな……」
「そりゃ俺だって、一応従兄弟だしね。付き合いも長いし。昔からそうじゃん、主公って。元譲は主君とか部将だとか、そういうのを堅く考えすぎなんだよ。曹孟徳っていう人間の中身が変わった訳じゃないんだからさ」
 今度は違う意味で、夏侯惇は額を押さえて溜息をついた。
「……お前にこんな事を言われるとはな……」
 俺が今までこれほど思い煩っていたことをいとも易々と、とは、さすがに口に出せなかった。夏侯淵は困ったように少し笑ってみせた。
「だからさ、元譲には見えないもんが俺にはよく見えるし、俺には見えないもんが元譲にはよく見えるし、そういう風に出来てんだよ、俺たち。……二人で一つなんだから」
「……今それを言いやがると、マジで切れるぞ」
「……と思ったから、本当は言いたくなかったんだけど」
 妙に切なげな声で言われ、夏侯惇は顔を上げた。思ったより近いところに夏侯淵の顔がある。
 そして不意に、夏侯淵の指が頬に触れた。
「……妙才……?」
「……ごめん、元譲がいつもと違うからかな……何かちょっと、我慢できなかった」
 ―――もう誤魔化しようのないところに来ているのではないのか?―――
 夏侯淵はその指を離そうとはしなかった。まるで愛おしい物を包むように、手のひらが頬を包む……。
「……やめろ、妙才……」
 背筋を何かが上ってくる。夏侯惇は夏侯淵を刺激しないように、もう一度小さく「やめなさい」と呟いた。
「……ダメだよ、元譲。俺にそんな顔見せちゃ」
「どんな顔だ!いい加減にしろ!」
 払いのけようとした手は、しかし夏侯淵に掴まれた。
「!」
 それは思いもよらない強さだった。目の前に、今まで見たことのない夏侯淵がいる。しばらくそうして、夏侯淵はその手を掴んだまま、夏侯惇を見つめていた。
 動けなかった。
 動いたら、何か決定的な物が変わってしまうと思った。
 どれだけそうしていただろう。出し抜けに夏侯淵は夏侯惇の腕を放した。
「ごめん。何か主公の所から戻ってきた元譲の様子がいつもと違ってたって聞いたから、心配になって来ただけだったんだ。そういう事なら、分かったから俺もう行くわ。ほんと、びっくりさせてごめん」
 それだけ言うと、夏侯淵は夏侯惇の顔を見ないようにして立ち上がり、足早に部屋を出て行った。
 夏侯淵の姿が見えなくなっても、夏侯惇はその場を動くことが出来なかった。
 あんな妙才は知らない……。
 唇がやけに乾いた。我知らず握った拳が固く、関節が白くなっていることに、夏侯惇は気づかなかった。
 ―――もう誤魔化しようのないところに来ているのではないのか?―――
 何度も何度も、ただその言葉だけが頭の中にこだましていた―――。 


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