さの様に差し上げた小説

「花を摘んでいこう」

 花を摘んでいこう。

 暖かくて気持ちの良い日だから、花を摘んでいこう。

 大好きな阿寧に会いに行くから、花を摘んでいこう。

 紅い花や紫の花はやめて、阿寧のような色の花だけ摘んでいこう。

 薄桃色や水色の、柔らかい色の花。誰もそうは思わないけど、本当は寂しがり屋で甘ったれの、阿寧によく似た色の花だけを摘んでいこう。

 花を摘んでいこう。きっと阿寧は照れくさがって嫌がるだろう。それでもいいや。だって今日はこんなに暖かくて、こんなに気持ちが良いのだから。



「はい、興覇。これ」
 花を差し出した呂蒙を、甘寧は怪訝そうに見つめた。
「何だ、これ?」
「花だよ」
「見りゃ分かる。……なんで花なんか持ってきたんだ?」
「可愛かったからだよ」
 甘寧は呂蒙の想像通り嫌そうな顔をした。あんまり自分の思い通りの顔をしてくれるから、呂蒙は思わず笑みを漏らした。
「何笑ってんだよ」
「だって興覇、嫌そうなんだもん」
「俺が嫌だと楽しいか……?」
「違うよ。興覇には花より酒の方が良かったかなぁと思ってさ」
「当たり前だ」
 呂蒙が適当に水瓶に挿した花を、甘寧は指先でつついた。少しふくれっ面をしている。

 呂蒙はどうしても甘寧を可愛く思ってしまうが、甘寧はそれが気にくわない。
 甘寧なんて意地悪でつれなくて賊上がりで未だに賊じみていて細い体は人を殺すためだけにできているし目なんて糸みたいだし愛想は無いし、全く自分でもどうしてこんなに甘寧が可愛いのか分からないが、それでもやっぱり呂蒙には甘寧が可愛らしくて堪らない。
「俺が可愛い訳ないだろう」と甘寧が怒れば怒るほどよけいに甘寧が可愛く思えてきて、今やその可愛さは世界でも1、2を争うまでに膨れあがっている。

「しかしずいぶん柔らかい色の花ばっかり採ってきたな」
「うん、まぁね」
 興覇に似た色だからと言えば、甘寧は絶対に怒り出すだろう。怒らせてみたいような気がするのはどうしてだろうか?

 甘寧が薄桃色の花を指で撫でる。空色の花。クリームの花。愛らしい色の花。

「まぁいいか。せっかく摘んできてくれたんだし」
「うん。飾ざっといてよ」
 満足そうな呂蒙を見て、甘寧はにやりと笑った。
「お前みたいな色の花ばっかりだな。何考えて採ってきたのか、たいがい分かるぜ」

「……え?」
「ん?」

 ほんの少しだけ楽しそうに、甘寧が空色の花を指で弾いた。



 花を摘んでいこう。

 暖かくて気持ちの良い日だから、花を摘んでいこう。

 今日という日のために、花を摘んでいこう。

 花を摘んでいこう。

 花を摘んでいこう。

 大好きなあなたのために、花を摘んでいこう。




さの様がHPを立ち上げるというので、「おめでとうの気持ち」をこめて書いた物です。



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