◎SF小説家への道


森岡浩之 【経歴を見る】


 小雨降る吉祥寺の焼鳥屋で「星界の戦旗U」のゲラを昨日終えたばかりの森岡さんにインタビューしました。
 
岡本「アニメ『星界の紋章』の進行ぐあいや出来の方はどんなものでしょう?」
森岡「全13話のうちの8話までのシナリオと9話のプロットまで見せてもらいましが、原作どおりというわけでもなく、かといってかけ離れているわけでもなく、なかなかいいできだと思いますよ。ただ、出来あがっている分までみると全体の半分までしか来てないので、あと4話でどう展開するかちょっと不安だったりします」
「放送はWOWOWで1月からですね。ブレンパワードのあと番組なんですか?」
「いえ、ブレンパワードのあと番組ではないのは確かです。来年一月からというだけで、放送時間はまだ決まってません」
「楽しみですね。アニメが公開されればさらに原作も売れることでしょうし、うらやましい限りです。では小説を書きはじめた頃の話から聞かせてください。投稿とかは、いつぐらいからはじめたんですか? まさか一発で入選したわけじゃ……」
「いえいえ、投稿は中学3年の頃からです。その頃は、マガジンのコンテストの一次にさえ残らなくて……、とくに数えてませんが二十近くはあっちこっち落ちましたね。唯一、ショートショートとも言えないような冗談話みたいのが採用されただけなので、大学の半ばで投稿をやめました」
「計算からゆくと、投稿を再開したのは二十代後半からですね? もう一度はじめるきっかけはなんだったんですか?」
「ワープロを買ったんです。することがないので、まあ小説でも書こうかなと」
「おもしろいですね。で、そのときはなんのお仕事をしてたんですか?」
「その日ぐらしでした。最初は関西の出版社の営業に入社して東京へ転勤したんです。営業と言っても書店まわりとかじゃなくて、看護婦さんに本のセットを売るセールスマンのような仕事でした。そこを半年でやめて、次は編集プロダクション。まあおもしろかったんですが、そこも半年でやめました。自分はサラリーマンにむかいないことに気づきまして、それからはその日ぐらしのアルバイト生活です」
「どんなアルバイトだったんですか?」
「いろいろですけど、道路工事のガードマンとか。なかでも宅配便の仕分けが割りがいいバイトでしたね。夜勤の仕事ですが、仕事も楽だし、時給も高いし。マガジンでデビューしてからも、星界の紋章が出る一年くらい前まで働いてましたよ」
「そう言えば、異形コレクションW『決して会うことないきみへ』に、その仕事の描写がありましたね。なるほど実体験だったんですね。ワープロを買って投稿を再開したという裏には二十代後半になっての焦りもあったんじゃないんですか?」
「ええ、小説が書けて本当によかった、と思ってます」
「投稿の成果はどうでしたか?」
「「森下一仁のショート・ノベル塾」2回入選「リーダーズ・ストーリー」へ1回入選。それからマガジンのコンテスト、第二席に入選しました」
「デビュー作となる『夢の樹が接げたなら』ですね。それが92年の3月に掲載されて、マガジンからの依頼が来るようになると……」
「いえいえ、依頼されてません。あそこは原則として持ち込みです。依頼されて書くようになったのは、96年の『普通の子ども』以降です。星界のヒットもあって、原稿料がいきなり倍になりましたし」
「倍ですか? それはすごいですね。ちなみにおいくらなんですか?」
「400字一枚2500円です」
「え? それじゃその前は……」
「一枚1200円でした。20枚から50枚ほどの短篇ですからいくらにもなりません。道楽で書いて煙草代を稼いでいたようなもんです」
「『星界の紋章』はいつ頃から書きはじめたんですか?」
「『スパイス』を書いたあとです。もっと地味な近未来を舞台にした長編(『夜明けのテロリスト』の原型)を書いているあいだに、我慢できなくて、書きはじめたのです。およそ9ヶ月で、1250枚を書きました。書き終えてその1250枚の原稿を2日かけてワープロで印字中に、マガジンから電話があったんです「『スパイス』が読者賞に選ばれた」と、でその著者写真を撮りに行くついでに、原稿を担当に渡したというわけです」
「読者賞って賞金とかあるんですか?」
「なんにもありません。コメントを求められ、一枚分の原稿料をもらっただけです。写真を撮りに行った労力や電車代とか考えると、赤字。こんなんならもらわない方がよかった、と本気で……」
「あれ? スパイスの読者賞って94年の初めじゃないですか。『星界の紋章の発売』と、なんか計算があわないような気がするんですが?」
「ええ、実はですね・・・・・・・・(残念ながらオフレコ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いやー、大変だったんですね。でも、発売されたら大ヒット」
「はい、貯金もなくなりかけていたので、本当に助かりました。増刷を知らせる伝票が毎月の束できて、アニメ化の話も4社からあったりして、それはもう世界が変わったように……」
「売れてからの話は、いまいましいので増長日記の方を参照して頂くとして、計算が少し合わないところがあるんですが?」
「はあ、なんでしょう?」
「最初方で、アルバイトを辞めたのが星界の紋章が発売される一年前とおっしゃってますが、その間の生活費とかどうしてたんですか?」
「いや、それはその……」
「インターネットとかSFファンの間で、F書院のN文庫で書かれている荒神伊火流という作家が森岡さんじゃないかという噂があるんですが? それで生活費を稼いでいたんじゃないんですか?」
「え? さあ、いったいなんのことやら……」
「とぼけちゃ困りますね。大学の時代にその手の賞を取ったことがあるという噂も……」
「わ、話題をかえましょう! そういえば、JUNEという耽美雑誌に岡本賢一と作家が書いてましたね」
「う! さあ、いったいなんのことやら……」
「ご自分のことを忘れちゃ困りますよ。近々、小説すばるの官能特集にも掲載されるという噂も……」
「す、すみません。話題をかえましょう! 今後のお仕事の予定はどうなってるんでしょう?」
「ええとまず、KSSの宇宙物のアンソロジーを50枚書きます」
「その〆切はいつですか?」
「……5月末でした(今はもう7月終わりである)。その後は、カドカワのスニーカーブックスにファンタジーものを書きます。年内に出せるといいなーと思ってます。その後は、星界の外伝3をアニメあわせで、1月にマガジンに掲載予定です」
「それじゃ、戦旗の3は早くてもその後、来年の春か夏頃となりそうですね」
「地道に仕事をこなして、年4本は出したいと思ってるんですけど……」

 星界の紋章が売れて、広い3LDKに引っ越した森岡さんであるが、すでに部屋が本で一杯であるという。
「最近やっと、週刊のマンガ雑誌が捨てられるようになった」と、言うぐらいの強者。間違って購入したマンガ本のダブり、4巻めが2冊あったり、7巻めが3冊あったりしても捨てらなれいという。本に押しつぶされるのは時間の問題かもしれない。
「いつでも閲覧できるSF図書館ができれば、本を処分できるのになーっ」
 という悲痛な叫びは、全SF読書家の心からの願いかもしれない。アーメン。



★増長日記を読む
《森岡さんの「増長日記」は谷甲州FC・青年人外協のページの中にあります。》