◎小説家への道


伊吹秀明 【公式ホームページへゆく】←経歴その他はこちらにてご覧ください。


 僕が伊吹さんと初めて会ったのは、僕がデビューする数年前のことだった。場所は宇宙塵の例会である。すでに僕はPARADOXの会員になっていたので、会話が進み、次の編集作業を家でするので手伝いに来いと言われた。それから本に埋もれた部屋で数回、同人誌の版下作業を手伝い、同人誌即売会で売り子を幾度となく手伝った。
 現在はマックで版下を作ってくれる方があらわれたので、版下作業からは解放されている。売り子はしてるけど。
 ちなみに伊吹氏は学生のころより、PARADOXに関与している。

 本格デビューはトクマノベルスの「氷山空母を撃沈せよ!」である。いわゆる架空戦記であるが、タイトルから想像できるようにSF的な巨大空母が暴れる話である。
 あっと言う間に再版を重ねるというたいへん好調な出だしで、架空戦記を出そうとしていた各出版社から注目を集めた。架空戦記作家として活躍する一方「スターパニック」からスペースオペラを手掛けるようなり「エンジェル・リンクス」は、原作者(複雑な事情があるが)として4冊を書き、人気を得た。
 昨年は「猫耳戦車隊」「第二次宇宙戦争」「帝国戦記」を上梓し、各所で話題となっている。

 なんにしろ今回のインタビューはオフレコが多くて、事情を知っている僕としては「王様の耳はロバの耳」状態で苦労しました。オフレコ以外の部分の各作品に関しては、オフィシャル・ホームページ(本人ではなく、公認ファンクラブのアインホルンが運営)の方が詳しいので、そちらにリンクしてお茶を濁そう。

岡本「小説を書かれるきっかけはなんだったんでしょうか?」

伊吹「小説の前にマンガを描いてまして」

「マンガですか?」

「小学校のころにサイボーグ009、伊賀の影丸、ウルトラシリーズ等の特撮等にはまりまして、マンガを描くようになってたんですよ。だから、自分の中で核となっているのは『サイボーグ・忍者・怪獣』です。あとになって『戦艦・巨乳』がプラスされました(笑)」

「マンガはいくつくらいまで、やられてたんですか?」

「高校生の時に、どうしても自分の理想とする絵が描けなくてやめました。あと、自分の考えるアイデア部分は絵よりも文章で表現するほうが向いていることに気づきましたので。マンガだとネームがやたらと長くなってしまうんですよ」

「昔の絵は残ってないんですか?」

「すべて処分しました」

「でも(・・・・・・・・・オフレコ・・・・・・)じゃありませんか?」

「ひーっ、やめてくれー。そんなことが知れたら……。見たやつは、みな殺しだー!」

「はいはいわかりました。で、小説を書きはじめたのはマンガをやめてからですね?」

「大学に入ってからですね。ノートに20本くらい書きました。習作以前のアイデアのスケッチ程度ですけど。短編が多くて、長くても100枚程度……。そのノートも全部処分しましたよ」

「でも、その頃すでにパ・・・・・・・・・・・・じゃありませんか?」

「うがーっ! ひとり残らず、ぶち殺し!」

「はいはい、わかりました。で、その頃にいくつかの同人誌に関与したと」

「同時に学生時代はやはりいちばん多く本を読みましたね。SFはハードSFから幻想的なやつまで、ミステリは本格から変格、ハードボイルド物。その他諸々」

本「卒業後はどのような?」

「マ・・・・・で1年ほど修羅場を経験したあと、スタジオ・ハードに7年ほど勤めました」

「編集プロダクションですね。どういういきさつで勤めるようになったんですか?」

「ハードの名は、86年にルパン三世のゲームブックなどの編著で知りまして、普通の編集プロダクションとは少しちがう、企画物や創作に近い仕事ができる、そう思って入社試験をうけたわけです。試験は、面接とアニメのシナリオを読んでから、それを短くまとめて紹介文を書くものでした。それに合格して1年ほど編集の仕事をしてから、ライターとして6年ほど、ゲームブックやノベライズやイベント企画の設定・考証などの仕事をしました」

「なんのノベライズかはオフレコですね? ペンネームもちがいますし」

「無論だ! まあ最後にやったノベライズのシリーズの途中までが会社の仕事なわけだし、なんにしろフリーになるきっかけになったわけですが」

「どうしてフリーになる決意をしたんですか?」

「最初から小説家志望ということは、ハードの入社時に明言していました。そういう人間に対しても、理解があった会社だったのも幸運でした。当時、社員やフリーとして直接・間接的にハードに関わっていた人たちには、吉岡平、見田竜介、山口宏、近藤ゆたか、日高トモキチ、樋口明雄といった現在各方面で活躍中の名前が並びます(敬称略)。けっこうクリエーター指向の人が多かったんですね。ハードは居心地が良かったんですが、作家になるために本腰を入れてやっていくには、背水の陣をしこうと考えたんです」

「伊吹秀明として本格デビューする経緯を教えてくだい」

「当時バンダイからBクラブという雑誌が出てまして、1992年に「架空戦記特集」というのを組んだんです。そこに自分は『鉄人28号』と『紺碧の艦隊』の紹介原稿を面白おかしく書いたところ、徳間書店の方の目に留まりまして、連絡が来たんです。そして荒巻義雄さんのインタビューをやってくれとなり(このインタビューは英訳されて日本作家を紹介するアンソロジーに収録される予定です)、御自分でも何か書いてみませんか、といわれ、あれよあれよと話が進みまして……。さっそく案を2本ほど出し、そのうちの1本がデビュー作となったわけです。ちなみに、その時のもうひとつの案も中央公論のCノベルスで作品にしてますけど」

「93年の2月に『氷山空母を撃沈せよ!』がノベルスで発売。すぐに再版がかかってだいぶ売れたようですね。他社からの引き合いもあって「軍事特需」と笑っていたのを覚えてますよ。部数はどのくらいだったんですか?」

「最終的には全3巻で10万部以上まで行きました。公称部数で言うと30万部!(笑)。その後、ノベルスで終わりの架空戦記では当時めずらしく文庫にもなりましたしね。中央公論からの引き合いも、一巻目のすぐあとに来ました。学研から話が来たのはまた別ルートからだったんですが」

「その後の作品経歴は年表とファンクラブのページを見てもらうとして、ターニングポイントとなる作品についてお聞きしたいのですが、まず初の宇宙SFものとなる『スターパニック』から」

「自分は中学くらいから戦史や軍艦に興味があったんです。架空の海戦とかもいろいろと空想していました。だから架空戦記はぜひ書いてみたかった。しかし、自分の関心や興味全体を10とすると、ミリタリー方面は2くらいです。残りの8の部分だってやはり書きたいですからね。そこで機会があるたびに方々の編集者にアピールしていたんです。架空戦記の大ブームのおかげでデビューできて次の注文も得られたのは願ってもないチャンスでしたけど、同時にピンチでもあると認識していましたので」

「ピンチですって?」

「ブームというのは必ず終わるものです。そのときになって「ハイ、さようなら」ということは充分にありえることでした。だからそうなる前にいろいろとトライしておきたかった。そういう意味では『スターパニック』と、去年『第二次宇宙戦争』を出していただいたKKベストセラーズさんには大変感謝しています」

「『エンジェル・リンクス』はどういう経緯で?」

「漫画家の伊東岳彦さんから『星方武侠アウトロースター』と同じ設定の宇宙で、べつのキャラクターを動かしたい、という話を97年の春にいただいたのがきっかけです。何度かアイデアのキャッチボールをしながら設定をつくっていきました。ヒロインの李美鳳を巨乳としたのは、もちろん自分の趣味(笑)。 「ブラックホール機雷敷設艦」や「テレパスに対する心理的ジャミング」といったSF的ガジェットを出したり、ストーリーとかも自由にやらせていただけましたので、楽しい仕事でした。ドラゴンマガジンに紹介していただいたのも伊東さんです。それ以前にドラマガの副編集長(現・編集長)が『スターパニック』を読んで下さっていて、この作家ならば、と話が進みました」

「アニメ版ではストーリー原案となっていますが?」

「小説の『誕生編』と『激闘編』がベースになっているので、ああいう表記になっているんです。アニメの企画そのものはサンライズと伊東さんのものですから。自分はシナリオの打ち合わせに呼ばれたり、声優のオーデションで意見を求められたりした程度です。あ、打ち上げにも参加できた。貴重な体験でした。 ああ、でも60万キロ離れた敵との激光(レーザー)砲撃戦で、弾着観測に四秒かかるというシーンは、アニメで見たかったですねぇ……」

「幻冬舎で出したハードカバー『シャーロック・ホームズの決闘』について教えください」

「あれは当初短篇で、徳間書店の「問題小説」の増刊号格闘技特集に載せる予定だったんです。いろいろありまして、担当さんが幻冬舎に移るといっしょに、作品も移籍しまして、連作短篇の形で一冊となったという経緯です」

「ゆくゆくは、このような一般小説も書いていくということですか」

「アレを一般小説といっていいものか……。まあ、いろいろと関心は広く持っていますから、架空戦記やSF、ヤングアダルト物以外のものもいずれ書いていくつもりです。多ジャンルを手がけるのは、とある編集さんに『それはイバラの道だよ』といわれたことがありますけど」

「それはどういうことですか?」

「一作ごとに異なる調べものをやらなくてはならないので、架空戦記などのひとつのジャンルやシリーズ物だけを書いているよりも、生産性が落ちるということです。たとえば『猫耳』のために戦車と猫の種類を調べ、『第二次宇宙戦争』のためにシベリアと20世紀前半の世界史を調べる。ただでさえ筆が遅いのに、よけいに時間をくってしまう。あと、多ジャンルを書くということは、固定読者をあまり得られないということです。『イバラ』の意味はたぶん、そっちのほうでしょう。架空戦記と『エンジェル・リンクス』両方読んでいる人は、それぞれの読者のうち10パーセントもいるかどうか。
 でも、書きたいジャンルやネタがいっぱいあるのは本当のことなので、あと一年から二年は試行錯誤でいいから、どんどん試みたいと思います。その後は、ひとつかふたつのテーマやジャンルに絞って書き、さらにその後はまたいろいろと試みる。そういったサイクルでやっていけたら理想ですね」

「では最後に今後の作品について教えてください」

「猫耳戦車の2作目『猫耳戦車隊、西へ』が1月20日ころにエンターブレインのファミ通文庫から出ます。そのあとは富士見書房や学研の歴史群像新書の新作に着手する予定。学研のものは過去の架空戦記の枠をこえた奇想艦隊物でして、夏の発行を目指しています。ほかにも多様な複数の企画が同時進行中です。徐々にファンサイトに情報を発表していきますので、ぜひご覧ください」

(2001.1.10)