箱崎 

日時:2003.11.29(sat) 14:30 - NHK教育放送
収録:2003.8.10 福岡市・筥崎宮
作:世阿弥。復曲能。永らく上演が途絶えていた。約450年ぶりの上演。
出演者:
里の女(前シテ)、神功皇后(後シテ):観世清和
壬生忠岑(ワキ):森常好
里の女(シテツレ):鷹尾維教
所の者(アイ):山本泰太郎
その他:
 従者(ワキツレ)2名
笛、小鼓、大鼓、太鼓:各1
地謡:8名


あらすじ:
 季節は秋。舞台中央には松が一本載った台(箱)が置かれている。正面奥に囃子方が控える形。その奥が本殿らしい。

前場:
 壬生忠岑(ワキ)が従者二名(ワキツレ)と登場。ワキとワキツレは松を挟むように両側に立つ。ワキが箱崎を初めて訪れると語る。彼は従者を連れて九州旅行にやってきたのだ。筥崎宮に参詣しようと言い、三名は(向かって)右手に一列に座る。
(しばし囃子方の演奏)
 里の女が2名、箒を肩に担ぐようにして登場。シテツレ(青い前掛け?)が先、前シテ(白い前掛け)がそれに続く。双方、女面。ワキらとは反対側に一列に立つ。月夜に女2人が松陰を掃き清めようとしているのを見たワキが不審に思って、彼女らに話しかける。その松に何か謂われがあるのだと直感したのだ。松の謂われを語って聞かせるシテ。(シテツレは右手に少し下がって座る)
 松の根元には「戒・定(じょう)・恵(え)」の”三学の妙文(お経)”が収められた箱が埋められている、と言う。話し終えるとバタリと箒を落とし、懐から扇を取り出して舞い始める。
 シテはワキに「法の箱をみたくないか」と妙なことを言う。「見たいことは見たいが、そんなことが出来るのか?一体あなたは何者なのか?」と聞くワキ。シテは「長年あなたは信心を重ねてきたから、奇特を見せよう。半時待て」と不思議なことを言って退場(シテツレもそれに続く)。

後場:
 主人の命令で所の者(アイ)を呼び寄せる従者。アイは松の謂われを同じように語って聞かせる。”三学の妙文”または”胞衣”が収められた箱が埋められている、と。それを聞いて、ワキらは奇特が見られるのを待ち遠しくなってくる。
 後シテ登場(頭上に日輪を象った王冠?髪型、髪飾り、首輪などが古代人っぽい)。面じゃ女面。手に剣。その剣を胸前に突き出すようにして掲げ、囃子に合わせて舞い始める。
 シテは松陰から金色の玉手箱を取り出すと、それをワキの前に置く。彼女こそ、神功皇后の霊であった。箱の蓋を開けるワキ。
 シテは箱の中から巻物を取り出して、ワキに渡す。それを広げて読み始めるワキ。彼がそれを読んでいる間、シテは唐団扇を手に舞う(天女の舞い)。これを3つのお経の分だけ繰り返す。囃子の演奏も徐々に急に(激しく)なっていく。読み終えた巻物を巻き戻して、丁寧に箱に戻すワキ。箱をシテに返すと、シテは箱を松の根元に埋め直して去っていく。

感想:
 筥崎宮(はこざきぐう)には戦の神・八幡神、即ち応神天皇とその母・神功皇后が祀られている。その地には筥松と呼ばれる松があり、その松の根元に応神天皇の胞衣(えな、胎盤)が入った箱が埋められているとも、お経の入った箱が埋められているとも言われている。その筥崎宮に奉納する能として復活した曲が上演された。神功皇后が主人公で、その舞いが”天女の舞”と呼ばれている。
 壬生忠岑とは如何なる人物かは私は知らないが、信心深さが認められ、神功皇后の霊から”三学の妙文”に目を通す機会を与えられる。有難いお経を目にし、更に徳が加わったわけだ。戦の神の母らしく、剣を手にした後シテの舞は、初めは天女のように優雅であったが、次第に激しく荒々しくなっていく。

参考資料:
「能楽ハンドブック」 戸井田道三・監修、小林保治・編(\1,500 三省堂)

更新日: 03/12/13