読書メモ

・「信長の夢「安土城」発掘
(NHKスペシャル「安土城」プロジェクト:著、 \1,500、NHK出版) : 2003.11.22

内容と感想:
 
本書は2001年2月27日にNHKスペシャルで「信長の夢・安土城発掘」としてTV放送された番組が基になっている。残念ながら私はこの放送を目にしていない。
 安土城は言わずと知れた、織田信長が築かせた伝説の城である。現存しないのが実に残念な建造物の一つである。完成の後、たった3年でこの幻の城は焼失してしまっている。信長が本能寺の変で倒れるのとほぼ同時期に。
 安土城の発掘調査はこのNHKスペシャルがきっかけではない(NHKがスポンサーでもない)。発掘はかつて昭和14〜16年にも行われている。ただし当時の時代背景もあって、この調査も規模としては限定的なものであったらしい。本書のきっかけとなったのは平成12〜13年に行われた大規模かつ本格的な調査である(滋賀県教育委員会による)。
 本書の巻頭口絵は色鮮やかなCGで甦る安土城の姿が、調査の結果を踏まえた想像図として飾られていて、それだけでも楽しめる。
 本書では「安土城」そのものが信長の夢であったと言っているわけではなく、「安土城」が信長が目指していた「この国のあり方」がイコール彼の”夢”であり、その夢や思想を表現したものが「安土城」なのである。この平成の大調査により、昭和のそれよりも新たな発見があり、大きな成果が得られたようである。本書ではその最大の成果は本丸御殿があったとされる場所に京都御所の清涼殿風の建物があったらしい、という発見であるとしている。本来、本丸は城主が住居するものであるが、信長は天主(通常の城では”天守”と書く)に住んだ。どうやら本丸御殿には天皇を迎えるためのもので、城の南側に幅広の直線道路・大手道も天皇を迎えるためだけのものであったらしい。あくまで推定であるが、これだけでも信長が天皇という存在をどう捉えていたか想像できる。

第1章 幻の城
第2章 迷宮の発掘
第3章 本丸御殿の主
第4章 天主の謎
第5章 信長の夢

 本書では安土城がいかに独創的な城であったか、それを作らせた信長の思想や哲学、城に込めた思いとはどういうものであったかを教えてくれる。安土城はそれまでの単なる軍事施設ではなかった。「一種の政治的文化的施設」とも言っている。また宗教をいかに扱っていくかについても信長なりの考えがあったようである。天主の構造や内装からは、天下統一を目前にして、泰平の世が訪れた後の治世のあり方にまで信長の熟慮があったとも想像できるのだ。
 この発掘が「信長に対するこれまでの認識、ひいては日本史の解釈までをもくつがえす可能性をもつ重要な事業だった」と締めくくっている。

更新日: 03/11/24