読書メモ

・「世界不況を生き抜く新・企業戦略
(門倉 貴史:著、朝日新書 \780) : 2011.03.07

内容と感想:
 
2009年7月に出た本。世界不況でみなが元気をなくしていた時期だ。 日本の輸出産業の大のお得意様の米国のバブル崩壊でコケたせいで、外需依存の日本経済は他国よりも大きな影響を受けた。 外需頼みを見直すべきだという声もあるが、著者はそれはあくまで「対米偏重」が過ぎたせいだと指摘する。 目覚しく経済成長する新興国も多い近年。グローバル化の進展もあり、日本はそうやすやすと貿易立国の看板を捨てるわけにはいかない。 著者は有力な新興国市場を狙った海外展開こそ日本の生き残り策だと提言している。
 第2章では進出先として有望な国を紹介している。しかしそれは「長期的に有望なのであって、短期的に世界同時不況の救世主にはなり得ない」と 冷静に見ている。 第5章ではグローバル戦略で日本企業の先をいく韓国企業の事例を紹介し、それに学ぶべきだと述べている。
 また、第1章では農業保護がFTA、EPA交渉の障害になっていることを挙げ、今後、海外から「資源・エネルギーを安定的に供給してもらうためには、 農業分野の大幅な解放が必要」と述べている。日本は「自由貿易体制の維持・拡大が実現できるかどうかで国全体の経済が左右される」ことを忘れてはならない。 農産物の輸出促進にも触れている。「活路を見出せるようになるまで政府が直接農家に補助金を出す」という手もありだろう。「農地の効率的な利用」も求められている。 新興国には政治体制が不安定なところもあり、進出のリスクではあるが、いかにリスクを抑えながら、リスクを取れるかが課題である。

○印象的な言葉
・それぞれの国や社会の意思を尊重したうえでのグローバリゼーション
・成熟した(欧米などの)「中心」ではなく、これから成長する「周辺」に目を向ける
・アジア全体として共存共栄を図る戦略(⇒新たな大東亜共栄圏?)
・加工組み立ての拠点は海外シフトしても、研究開発機能は国内に残す。部品は日本から調達
・グローバリゼーションの進展は「国境」を無意味なものにする
・為替レートの安定化こそ政策当局の役目。為替の急激な変動こそ事業環境を不安定にする
・トルコは中東最大の消費市場。イランは隠れた有望市場。中産階級が多く、教育水準も高い
・マグレブ諸国:北西アフリカの国々
・何かを為したいと思う者は、まず何よりも先に、準備に専念することが必要(マキャベリ)
・2008年の米国の消費市場規模は10兆ドル。世界最大
・米国の人口増加は移民の流入によりもたらされてきた。それは「強いドル」によって実現されていた
・「流動性の罠」により7〜8年は米国経済の停滞が続く(クルーグマン)
・海外生産を進める川下産業のニーズに対応して、川上産業も現地生産に切り替え始めている。現地生産は途上国の雇用創出に貢献
・新興アジアでは若年人口の増加が続き、市場自体が拡大していく
・農業保護がFTA、EPA交渉の障害になっている
・TPPは農業立国の米国、豪州、ニュージーランドの発言権が強い
・中国で売られる日本米は現地の米の20倍の価格
・保護された産業の国際競争力は衰退し、取り返しがつかなくなる
・GDPは豊かさを正確に表わさなくなった。GNPやGNIのほうが国の経済活動の実態をより適切にとらえられる。GDPとGNP・GNIとの乖離はグローバリゼーションが原因。 乖離は2008年にはGDPの3.3%にも相当。
・有望な消費市場を見極める基準:人口規模、人口増加、1人当たりGDP(千ドル)、中産階級の台頭、メディアの発達
・中国の金融機関はリスクの高い金融商品には手を出していなかった。金融システム不安には至らない
・中国の中産階級は2006年に3500万人。2017年には1億人。2013年には中国の消費市場は日本を上回る
・ウォルマート、テスコ、カルフール、メトロが進出した国では消費市場が高い成長を続けている
・インドネシアの人口は世界4位。中産階級は華人を中心に人口の1割、1800万人。2011年には2700万人になる
・インドは小売業の海外への市場開放を躊躇。小売業界の労働者が多いため
・ブラジルは低所得世帯に家族手当を支給し所得格差是正に注力してきた
・ブラジルで高いシェアをもつフレックス燃料車。サトウキビ原料のエタノールとガソリンの混合燃料。エタノールはガソリンより安く安定、環境負荷も少ない
・アルゼンチンの中産階級や富裕層は2001年の経済危機で没落したが、復活しつつある
・高速鉄道建設は好不況にかかわらず長い期間にわたり巨額の資金が動く。経済波及効果が非常に大きい。環境対策、景気対策、雇用創出の効果もある
・日本からロシアのサンクトペテルブルクまで部品を海上輸送すると45日かかる
・仏TGVが開発した新型列車AGV。時速350キロ。動力分散方式。列車の編成を自在に変えられる
・地震に強い日本の新幹線
・超伝導型リニアモーターカー:浮上高さ10センチ。開発しているのは日本とドイツだけ
・青函トンネルは世界最長の海底トンネル
・アフリカ経済の飛躍のきっかけは農産物や資源など一次産品の価格高騰。アフリカ南部はレアメタルの宝庫。資金や技術力不足で開発が遅れている。電力などインフラも未整備
・PBMR:安全性の高い次世代の小型原子炉。建設コストが低い
・韓国の輸出のGDP比は2008年に53%.BRICs向け輸出は1/4を占める
・韓国政府は民間企業の商談を後押し
・韓国企業の新興国市場のターゲットにぶつからない戦略。アッパーミドル以上に絞る。高品質・高価格戦略
・市場シェアの確保:低価格攻勢でシェアを確保し、その後、採算やブランド重視戦略に変更
・水ビジネスで海外の大型案件を受注するには総合商社の役割が重要。総合力では海外メジャーに見劣り
・地デジ放送:日本式(移動しながらの受信に強い)、米国式、欧州式。
・真の不確実性:「リスク」のように確率的に推測できない。地震や新型インフルエンザなど
・進出先を地理的に分散することでリスク分散
・アニマルスピリッツ:確率に左右されない積極的な意思決定(ケインズ)

-目次-
はじめに 自国の内需拡大にこだわると日本経済は衰退する
第1章 「新グローバル戦略」の必要性
第2章 攻め込む消費マーケットとして、どこが有望か
第3章 高速鉄道ルネサンスで世界制覇
第4章 レアメタルの宝庫、アフリカ諸国を狙え
第5章 韓国企業の「成功」に学ぼう
第6章 日本企業がリードできる新分野は何か
おわりに 「アニマルスピリッツ」を発揮して、新・グローバル戦略を強化せよ