読書メモ

・「阪神・淡路大震災10年 〜新しい市民社会のために
(柳田 邦男:編、岩波新書 \700) : 2011.03.22

内容と感想:
 
阪神・淡路大震災から10年を迎えるにあたって、 「震災10年 市民検証研究会」が行なった総括的な検証作業の成果を、一般向けの報告書としてまとめ、2004年に出された本。 阪神・淡路大震災が遺した教訓は何であったのか、その後の10年間で各地で起きた災害でどこまで活かされたのかを検証している。 活かされたものもあり、まだ対応が不十分なものもあったことが述べられている。
 そして今回の東日本大震災。地震と同時に、大津波、原発事故が重なった。 やはり阪神・淡路の教訓が活かされたものもあるようだが、同じ問題を抱えているようにも見える。厳密な検証はこれからなされることになる。 第2章でも「すぐ近い将来に巨大地震が列島を襲う確率が年々高まっている」と書かれているように、当時から既に、巨大地震への警告は一般的に語られていた。 我々に油断はなかっただろうか。我々は忘れっぽくないだろうか。所詮、他人事と思っていないだろうか。目の前の生活に追われすぎているのか。
 「震災後、ひとはみんなやさしくなった」と言われたと第2章にある。大災害は国民の結束力を高める。今回もそんなことを感じる。悲劇の中にも見出せる希望だ。 その力を今後の復旧・復興、防災対策に今度こそ活かさねばならない。地震など自然災害が多い国に住んでいるという現実から目をそむけてはいけない。

○印象的な言葉
・被災地とそれ以外の地域との温度差
・体験の風化
・災害は人生や存在までをも壊す
・仮説住宅地のアメニティ環境の欠落
・災害はその社会がかかえている様々なひずみを一気に表面化する
・生きる支えの喪失、仮説住宅での孤独な日々
・防災は身体に染み付かせるくらいの態勢を整えておく
・農山村では自治体の対応力が財政と職員数の両面で弱すぎる
・ハザードマップが住民の危機意識、防災対策、避難行動に活かされるまでになっていない
・災害弱者の情報力、行動力の弱さ
・よりよい避難スペース。避難所生活を長引かせない。顔見知り同士がばらばらにならないようにする
・災害救援にはときには空振りがあってもよい。要請なしでの自衛隊の救援隊出動
・村が孤立していることさえ分からないことがある
・ボランティア団体:社会的信頼を得やすい有識者などで理事会を構成。会員の会費を資金に。企業の寄付
・仕事の確保、コミュニティーの再生、次の災害への備え
・「生活の復興」が置き去りにされる「ハード優先復興」
・コレクティブ住宅、協同居住方式、下町長屋のコンセプト
・居住福祉:福祉と住まいを融合
・防災に重要な人々の絆と豊かな人間関係
・一人暮しのお年寄りの見守り活動、集会所、食事会
・減災:被害を最小限にする
・最低限度の文化的生活を営んでいくためには「住居は人権である」
・一番苦しんでいる人は、悲しみのあまり感情さえ表せない
・粘り強い交渉により、行政が押されて譲歩したり、制度の枠を緩めたりする。勉強会や学習会、講座、シンポジウムによりじっくりと合意形成を図る。提言活動につなげる。 濃密な議論。あらゆる可能性を捨てない
・高齢者だからこそ気が付く必要な情報がある
・福祉事業:掃除、料理、買い物、見守り、話し相手、庭仕事、力仕事、修理、お使い代行、食事介助、外出介助、子守。福祉会計の負担軽減のための経理事務指導や決算代行
・生活便利マップ、生活情報かわら版
・コミュニティは日常時は福祉活動に重点を置き、災害時は防災
・励ましの家庭訪問
・復興の道筋も多様であってよい
・人の暮らしは住宅にあるのではなく地域にある
・個を確立した上で互いに認め合い、支え合う
・金がある人は金を出し、力のある人は力を出し、知恵のある人は知恵をしぼる
・被災地の内発性を育む

-目次-
第1章 災害弱者の視点から
第2章 検証・復興の10年
 十年後のKOBE ―復興はどこまで進んだか
 もうひとつの生き方と新しい仕組みづくり
第3章 生きる場はよみがえったか
 コミュニティービジネス
 二十一世紀型を模索する福祉コミュニティー
 「障害者市民」が登場
 新しい住まい方
第4章 “内”に気付く、“外”とつながる
 外国人は「非承認」市民?
 海外災害救援