読書メモ

・「日本よ、「戦略力」を高めよ
(櫻井 よしこ:編、文藝春秋 \1,048) : 2011.01.17

内容と感想:
 
編者の櫻井氏が理事長を務める国家基本問題研究所の一行が2009年4月に訪米し、米政府関係者やシンクタンクらと話し合ったという。 本書はその一行に加わった櫻井氏を初め、田久保忠衛氏、島田洋一氏、冨山泰氏らによる訪米記である。
 「はじめに」で既に結論は書かれているが、「日本がなすべきことは、日米同盟関係をより強固にする」一方で、外交・安全保障において「自力を強めること」だという。 そう言うのも、「おわりに」にもあるように、外交・防衛問題に関して政権交代後の「民主党には方向性が感じられない」という危機感が、本書の執筆陣にはあるからだ。 最近の尖閣諸島問題や北方領土問題に対する民主党政権の対応を見ていて、不安を感じている国民も多いのではないだろうか。 編者らは今後、日本が、関係を強める「米中関係の陰に埋没していく」ことを懸念している。 今後、日本はどういう外交・防衛戦略をもって乗り切るべきかを本書は検証している。
 田久保氏は「米中両大国の狭間で、日本は常におどおどして両国の顔色を見ながら生存の術を考える情けない立場」になりかねない、と述べ、 日本の選択肢は限られているとする。 日米同盟を双務的な関係に転換するか、日中同盟か、自主防衛かだ、と。 その上で田久保氏は、民主党には日中同盟を指向している者が多いのではないかと見ており、 政権の「米国離れと中国接近」を懸念する。
 島田氏は政権交代後の民主党幹部の安保・外交に対する「無気力な姿勢に失望」し、 「今後の日米関係や日朝関係は、肝心の「日本の意思」が希薄なまま漂流しかねない」と同様な警告を発している。 そうした分析の上で各氏の提言が述べられている。

○印象的な言葉
・国際社会の変化の要因の大部は中国。中国の抱える矛盾と不条理
・中国は1980年代初頭からイスラム、社会主義諸国に核・ミサイル技術を広げた
・人間の根源的自由の価値観を否定する中国
・日本の軍事力には法的、物理的空洞が目立つ
・日本は国際社会に「義と仁」を実践する国家の姿を示し得る国。自信、誇り、名誉に無縁の気概なき国家。思考停止、精神の空洞
・弱い見方は、強い敵より恐ろしい
・集団的自衛権を行使せず、共に行動すべき味方(国)を守ろうとしないのか、と日本は問われている
・自衛隊は武器使用基準、交戦規程がなく、警察法によって行動しなければならない。海賊からの攻撃には正当防衛もしくは緊急避難の適用で対処しなければいけない
・米国では建国の父・ジョージ・ワシントンは、英国では「植民地の反乱軍の首領」だった
・米国のアジアでの目標は、欧州と同じく、一つの国にその地域を支配させないこと
・世界は条約や法を順守しなければならないと考えている国ばかりではない
・歴史において間違いを犯したのは日本だけではない。いつも過去を利用する国がある
・米国を目指す北朝鮮のミサイルを日本は撃ち落とせない。集団的自衛権の行使に抵触するため
・中国は北朝鮮の現状維持と安定を求めている(⇒その先はどうなると見ているのか)
・宥和政策ゆえに北朝鮮問題はここまで悪化した。厳しい状況を作り出し、見返りを要求する北朝鮮。自作自演の危機ゲーム。 米国に必要なのは軍事力の行使をも辞さないという断固とした対処。米国は中国に頼ることで北朝鮮問題を放置してきた
・国連安保理事国である米中が対立するとき、日米同盟と国連至上主義は両立しえない★
・オバマ大統領の最大の関心は国内経済の建て直し
・信用ゼロの北朝鮮に諸国がものを売るのは中国銀行の裏書があるから
・米国の軍事的優位性は、地球全体を覆う通信網が支柱
・中国の海洋大国への道は単に国防のためではなく、アジアのリーダーとしての地位の確立のため。2015年までに中国海軍は西大西洋における米軍の優位を打ち消す。この海域は中立化する
・日本は防衛装備の自力開発を目指さねばならない
・核廃絶も軍縮も、相手方を廃絶や軍縮に向かわせるだけの力を持つことなしには動かない
・冷戦後の国際政治の焦点は太平洋、インド洋に移行。主権国家同士の戦いはアジア地域で展開される(キッシンジャー)
・国際秩序の維持には軍事力の均衡が不可欠
・歴史の中で中国人は自分の国が弱ければ虐められるとの教訓を得た
・日本は国際紛争を解決する手段として軍事力を行使するはずがないと足元を見られている
・外務省には軍事恐怖症患者がいる
・中国を国際社会のあらゆるところに関与させるという米国のエンゲージメント政策
・政界渡り鳥生活を続ける政治家たち
・専守防衛の原則に基づき、我が国の平和と安全を直接的に脅かす急迫不正の侵害を受けた場合に限り、自衛権を行使
・オバマ政権の対北朝鮮外交は模様眺め
・通常兵器で勝るタイに対抗するため、ビルマ政府が北朝鮮の協力で秘密核開発を進めている。ビルマの軍事政権の後ろ盾は中国共産党
・北朝鮮に対する締め付けで最も効果があったのは金融制裁
・韓国では朝鮮半島の「自由統一論」(韓国による吸収統一促進)が力を得ている。保守知識層、キリスト教会、軍ら。 (⇒中国は南による統一は望まないだろう。メリットがない。できれば北を自分の植民地にしたいだろう。生かさず殺さずを続けるだろう)
・誤った歴史認識には反論する。国家や父祖への名誉毀損に対する当然の反応
・中国は欧米のシンクタンクや大学に研究資金を提供し、影響力を行使しようとしている
・中国は既にワシントンやNYを含む米全土を射程内に収める大陸間弾道ミサイルを配備
・中国はミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンなどに港湾施設を造っている。インド洋に軍事的に進出する戦略
・中国は領土紛争や海底資源争いを軍事力で解決することも想定している。日本は最悪のケースを想定して対応を準備する必要がある
・市場原理の先頭に立って日本は稼いだ
・国力をつけた国が続々登場し、世界のプレーヤーが主権国家のほかに、国際機関、武装勢力、大企業、大報道機関、NGOなどが増えてきた。相対的に米国の存在感が下がった

-目次-
はじめに ―日本衰退の潮流を逆転させよう
日米両国民に訴える ―ソフトパワーの限界
民主党・小沢安保路線は「亡国」への道
オバマ大統領は北朝鮮と戦えない
中国は2050年、唯一の超大国となるか
おわりに ―「危機の十年」が始まった