読書メモ

・「池上彰の「世界が変わる!」 〜金融危機と国際ニュースの「なぜ」を読み解く
(池上彰:著、小学館 \1,500) : 2011.02.20

内容と感想:
 
2006年4月から「週刊ポスト」で連載されたコラムに、書き下ろしを加え、再構成した「世界の見方」の本。 著者の現地レポートも含めた、広範な国際情勢の解説が分かりやすくなされている。 リーマンショック直後の翌2009年1月に出た本で、2年もたった現在では状況も大きく変わっているものもある。 それは仕方がない。日々、世界は動き、変わっていくのだから。
 グローバル化、IT化が進む今、ある国の出来事が一瞬で世界に伝わり、影響を与えることがある。 現在、民主化運動が広がる北アフリカ・中東地域だが、これほどに勢いを増すとは私も予想できなかった。 facebookやTwitterなど、ネットを駆使してデモ参加者を動員していると聞く。 それほど現地でもネットが普及していたことに驚かされた。 本書ではそのような動きの前兆となるものはないが、地中海沿岸諸国が観光収入や石油や天然ガスの産出で急激に豊かになりつつあったことが書かれている。 これが背景にあったと、今となれば見ることができる。 民主化が遅れているイスラム世界だが、運動の広がりは中国や北朝鮮にも広がりつつある。世界は変わる。国際ニュースが見逃せない。

○印象的な言葉
・ビンラディンの居場所は判明しても手が出せない。パキスタン、アフガニスタン国境は地域の部族の力が強く政府が手出しできない
・軍事政権のミャンマーへの援助を続ける日本。大規模ガス田が発見され、それが目当ての日本
・中国には政府公認以外の市民団体が存在しない。消費者運動が存在しない。食品や薬の安全性についての報道にも政府の許可がいる
・パレスチナ自治区のパレスチナ人同士の武力衝突。分裂を引き起こした。自治区はいずれ国家として独立することになっている
・カナダの年金制度は二階建て。基礎年金と所得比例年金からなる。基礎年金は国が負担。財源は税収
・ニュージーランドの年金は全て税で賄う。所得に関係なく全員が同額を受け取る
・マードックの経営手法:買収したメディアの内容を大衆的・扇情的な内容に切り替えて人気をとる
・「金になる」情報しか流れないというメディア空間が広がる未来?
・エジプトが核開発に乗り出す。ペルシャ湾岸6カ国も核の共同開発に乗り出す
・米国の弾道ミサイル防衛システムのチェコとポーランドへの配備。イランのミサイルを想定
・イラク戦争以降、イラクの高額所得者の多くがヨルダンに逃げ込んだ。度重なる中東戦争で既に多数のパレスチナ難民がヨルダンにいる
・米国の陪審裁判の理念:国家権力によって裁かれたくない。人民の代表によって判断してもらいたい
・パレスチナ自治区を分離する「安全フェンス」
・隣国アフガニスタンを操作するために過激思想の若者たち(タリバン)を育成して送り込んだら、それが逆流して国内が混乱したパキスタン
・2007年、イスラエルはシリアの核関連施設を攻撃。シリアは北朝鮮の技術支援を得ていた
・戦前、独立を目指すビルマの若者たちに軍事訓練を施した日本軍。ビルマ独立義勇軍の指導者、建国の父がアウン・サン
・ミャンマーは名字がなく名前だけ
・中国のアニメは教育的な内容ばかりで、子供っぽい。神話や昔話が題材
・イラク戦争後のクルド人自治区は海外からの投資で活気にあふれる。それを見たトルコ国内のクルド人過激派が武装闘争を再開。クルド人は国家を持たない最大の民族。2500万人。 イラク戦争ではクルド人は米軍に協力。
・米国の民間軍事会社。米軍予算の削減が進む中、後方支援業務を委託。米軍を除隊しても就職口がない元兵士たちが再就職
・2007年、日本とオーストラリアは「安保共同宣言」に調印
・チベット自治区の周辺、青海省、甘粛省、四川省も元はチベットだった。ダライ・ラマは観音菩薩の化身とされる
・ベネズエラとエクアドルは、かつて独立した際、「大コロンビア」の一部だった
・リヒテンシュタインは人口3万人。非武装中立。軍隊はない。スイスの保護下にある。立憲君主制。金融業が一大産業。タックスヘイブン。
・「中国の経済的植民地になる」というアフリカの危機感
・南アフリカのアパルトヘイト撤廃後、白人技術者たちは黒人支配を嫌い、国外へ脱出。電力会社への影響が深刻。大都市に黒人たちが殺到し、治安が悪化
・2005年に国連常任理事国入りを目指した日本は、アフリカ諸国の協力を得られなかった
・同性婚を認める「パートナー法」。異性も同性もパートナーという平等な立場にする発想
・アイスランドはNATOに加盟しているが、正規軍がない
・昭和30年代、日本の殺人件数は人口比では今の倍もあった
・世界平和度ランキング:企業やヘッジファンドが投資を検討する際、投資対象国がどれだけ平和か知りたい
・ウラン濃度を5〜8%に留めておけば原発用燃料棒になる。90%まで濃縮すると原爆が製造できる
・現在、イラクの制空権をもつのは米軍。イスラエルがイランを空爆するにはアメリカの承認が必要
・地中海地域での大国の地位確保をめざすフランス。中東和平も実現しようという野望
・地中海沿岸諸国は観光収入や欧州への出稼ぎ者からの仕送り、石油や天然ガスの産出で急激に豊かになりつつある。豊かになれば欧州へ不法移民を輸出することもなくなる
・世界のコンテナ輸送の1/3は地中海を通る
・グルジア紛争はロシアの筋書き。グルジアを追い込んで、転覆させようとした
・イラク戦争でイラクの多数派のシーア派が実権を握る。隣国イランもシーア派の国。反米イランの影響力を拡大させた
・核拡散防止条約に加盟しないインドへの米国の核技術供与。中国への牽制

-目次-
各国事情・中国産混入物は人もペットも殺す!米を襲った自由なき国からの災厄
民族・エストニア暴動の背景にソ連とナチス・ドイツに翻弄された小国ゆえの軛あり
民族・イスラエルによるガザ全面攻撃も!ついに分裂、パレスチナが自滅の危機
各国事情・予想通知で安心の米・独、「財源は税」でシンプルなカナダほか各国年金事情
経済・ロイター買収で勃発!今度はマードックがダウに触手 ―金融メディア戦争の行方
緊迫・ペルシャ湾岸6か国が「核開発」着手で風雲急!中東の火薬庫が臨界へ向かう
緊迫・「欧州の脅威」であり続けたいロシアVSミサイル防衛拡大狙う米国の“新・冷戦”
現地レポート・イラク内戦で「戦争特需」に沸く隣国ヨルダンに「難民生活」の苦渋を見た
各国事情・「陪審裁判」ほか『市民年鑑』で知るアメリカ人「8つの権利」と「9つの義務」
経済・「債権を債券にする」米国のリスク転嫁システムが“世界恐慌”を引き起こした〔ほか〕