読書メモ
・「経済成長って何で必要なんだろう?」
(芹沢 一也、荻上 チキ:編、光文社 \1,000) : 2011.02.17
内容と感想:
「経済成長が必要である」が本書の第一のメッセージ。
生活を向上させ、不安をとりのぞいてくれた原動力は経済成長だった。
通常時、2%の実質成長(巡航速度)が達成できれば多くの問題を解決できる。
○印象的な言葉
・経済学思考の決定的な不足。社会問題を経済的地平に正しく開く
・現場での解決の積み重ねは望ましい社会への道に通じているか
・専門領域に閉じこもった言説を開かれた場所に解放し、つなぎ合わせていく
・景気が悪い中での改革はうまくいかない
・カイシャ主義
・日本ではマルクス経済学の力が強い。ごく真っ当な経済学的な知が流通する環境が弱い
・新古典派:景気を動かす最大のショックは、生産効率の変化。生産技術や労働者の能力の変化。生産性の低い企業の退場やイノベーションの必要条件となる環境整備を求める
・ケイジアン:市場のもつ力を信じ、手を加えて、うまく回してやろう
・金融政策が直接的に左右できるのはトレンドからのずれだけ
・景気が安定しないと企業は長期的な投資に尻込みする
・経済学者はサイテンティストよりもエンジニアでなければいけない
・平成大停滞に対して、経済学が何もできないのなら、経済学などやめたほうがいい
・全共闘運動は国民的反響は呼べなかった。インテリ大学生の自意識の問題に過ぎなかった。運動後はシラケながら成熟しない主体が残った。ただ文化や趣味と戯れる
・高度な専門知識をもったエリートが主導して高度成長が起こったというのは幻想
・自由な生き方:プロフェッショナルが渡り歩くようなイメージ。知識や技術のあるフリーランス
・非正規労働がこれほど多くなると正社員も生きづらくなる。対立を無意味化する必要性
・若者を見殺しにする国:戦力化して経済成長の助けにしようという動きが見られない
・引退世代のほうを向いた政治が支持される。デフレが好まれる
・生涯所得を決める一番の要因は生まれ年。大学卒業時の景気のよしあしで決まる
・かつての英国のように、表面上は社会が回っているように見える時期が続くが、あるときいきなり急速に悪くなる。「溜め」でしのいでいた状態に限界がくる
・退職金への所得材は大幅に優遇されている
・新自由主義:無駄を徹底的に排除。余裕がなくなっていき、追い詰められていく。結局、非効率だった。人間の生存コストを見積もらず、企業の合理性だけを考えていた
・「無為に過ごしてはいけない」という強迫観念
・公共事業がなければ成り立たない経済というのは厳しい
・所得税の累進課税強化が有効。今は先進国中トップクラスのフラット税制
・有権者の平均年齢は50代半ば
・労働市場の質を保つためにもセーフティネットは必要
・米国経済の浮上が日本の税制改革のラストチャンス
・ミドルクラス以上の「後ろめたさ」
・豊かだったから文芸の言葉で遊んでこられた
・経済には慣性があるため、10年くらいは何となく勢いでもってしまう
・チャレンジを促せるのは、選択肢の厚みがある場合
・社会評論でやれること:想定問答の反復、モデルケースの蓄積、言説モードのチューニング、情報戦の実践
・新自由主義批判は浅薄なコミュニティへの回帰に流れ勝ち。それは個人をコミュニティに束縛する、コミュニティの価値観を押し付けること
・競争的な社会は効率的
・闘う相手は日本思想の岩盤、底流。方法論も目指す方向も違う
・論壇の悪い癖:相手の穴を見つけて叩くことを好む。不足点をどう補うかに向かわない
・公共事業が社会保障を代替してきた
-目次-
序章 議論の前に(飯田泰之×芹沢一也)
1章 高度成長とは何だったのか ―戦後日本経済思想の源流と足枷(岡田靖×飯田泰之)
2章 戦争よりバブル、希望はインフレ(赤木智弘×飯田泰之(司会・芹沢一也))
3章 何が貧困を救うのか(湯浅誠×飯田泰之(司会・荻上チキ))
終章 議論を終えて(飯田泰之×芹沢一也×荻上キチ)
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