読書メモ
・「クオリア立国論」
(茂木 健一郎:著、ウェッジ \1,400) : 2011.01.22
内容と感想:
脳科学の分野では質感のことを「クオリア」と呼ぶ。
「序」で著者は、日本のナショナル・アイデンティティの危機に対して、
「日本人の生き方として、クオリアに対する伝統的感性を生かすこと」を提唱している。
第1章にも出てくる「クオリア消費」というのが、これからの日本の成長産業として期待されるとしている。
「経済が成熟するほど、人々はより繊細で高度なクオリアを求めます」と言うのは、
「高付加価値の商品、サービス」に置き換えてもいい。
それは海外のブランド製品を求める日本人女性に例えれば分かりやすい。
日本には「島国の四季の移ろいの中で培われたクオリアに対する感性の伝統」があるとし、それが強みになり、それを生かすことでタイトルにもある「クオリア立国」になる、
というのが本書の主張である。例えば、日本料理や旅館の「おもてなし」といったものが活かせる。
従来の製品輸出に代わる外貨獲得手段として観光産業を挙げる人も多い。日本のよさをアピールして、海外観光客をどんどん呼び寄せようというのだ。
その「クオリア立国」には二つの意味があるという。
それは「日本のなかに存在する魅力的なクオリアを、世界中に知らしめていくこと」と「日本発の新しい原理のようなものを発見していくこと」だと。
そうした日本の素晴らしさ、美しさを海外に伝えていくためにも、言葉にして、「見える化」を図っていく必要があるとも述べている。
また、第4章では日本の「ものづくり」文化に触れている。世界金融危機後、「ものづくり」回帰が広がっているが、
新興国の追い上げで国内の空洞化が進む製造業は苦しんでいる。
「これからの時代は「ものづくり」をソフトウエアとして捉える必要」があると著者は考える。
単に製品を輸出するだけでなく、「「ものづくり」に対する姿勢や具体的な手法を輸出していく」のだという。
それは具体的には「kaizen」を含めトヨタ生産方式(TPS)に見られるようなことを指す。
ノウハウを活かしたコンサルタントや技術指導などが考えられる。それは広義の日本文化の発信や国際貢献の一環と捉えることもできるだろう。
○印象的な言葉
・和と「曖昧」が強みになる。臨機応変の対応。きっちりと仕事の領域を分けすぎない
・意味を扱えないのがコンピュータの最大の長所と短所
・記号的消費は長続きするものではない
・上質な経験
・和歌を詠むこと。優れた感性を持ち合わせている証拠。「もののあはれ」が分かる。権威づけ。正当性の保証
・蛍のような昆虫にも日本では、そこにまつわる物語が存在している。情感を伴った風景がそこに感じられる
・日本人であるからこそ気がつくものがある
・京都、奈良も各寺院は素晴らしくても、それら点と点を結ぶ線が非常に雑多な感じて美しくない。連続するクオリアが破綻しない観光地
・旅館のインルーム・ダイニングの文化。ルームサービスに通じる
・客が望んでいるであろうことを想像し、先回りしてサービスを提供する日本独特の「おまかせ」文化、「おもてなし」の美学。
先回りするとは押し付けることではない。相手の気配を聞く。真に要望していることを探る
・自信を表には出さない。分かる人には分かるというスタンス
・千利休が死を賜った理由:権力者の側に控えていた茶人は重要な機密事項を知り得た。知りすぎることは命をも奪うことになる
・禅問答とは答えを見出したり、問題を解決するためにあるものではない。自分自身を見つめる契機にするもの。答えは自分の内にある
(⇒禅問答を精神修養や精神疾患の治療に役立てる)
・禅の修業で一番大切なのは掃除
・コンビニというシステムも、商品とノウハウをセットにして輸出できる
・どんな人間にも創造性が備わっている(トヨタの改善の思想)
・一部の天才がすべてを創造するというのはフィクション。衆知を集めて独創性を生み出していく
・企業ブランドの確立。何かを成し遂げようという熱意。才能を信じ、全社員が本気になって信じるものをつくっていく
・日本には古くから社会的に恵まれない階層が文化をつくってきた。能楽や歌舞伎など
・里山では自然と人間が調和している。観光資源として魅力的。里山に小さな宿泊施設をつくる。文化的田舎暮らし
(⇒過疎の村の古い空き家を再生し、民宿・別荘群にする)
・日本の田舎に欠けているのは面白い文化の基盤。多種多様の文化があれば活性化されるはず。魅力的な人間、文化や芸術に携わる人間を集める。
その町に行けば誰々に会える、という町づくり。
・英国の文化的田舎暮らしを支えるパブは社交場。ビール片手に店内を自由に動きまわれる
・新しい文化は情熱と自由な発想、白熱した議論から芽吹く
・学問という欲望を満たすために研究に熱中する。自分の立場や処遇には関心がない
・欲望のレベルが下がっている日本人(⇒デフレのせいか?美的感覚も低下?)
・日本の風土や成り立ちが日本人のクオリアの感受性をつくった。または日本人の精神が根本になって、それが日本の景観を生み出してきた。両方の見方があっていい
・英国のギャップ・イヤー:高校卒業後の一年間を自由に過ごす。自由意志によって何でも出来る期間、創造のために使う時間(⇒就職浪人期間もギャップ・イヤーと捉えてみる)
・自分の内なるクオリアに寄り添う生き方は、自分の可能性を引き出す生き方
-目次-
第1章 クオリア消費時代がはじまる 〜美意識が消費財になる時代
第2章 文化力を発信する
おもてなしの心をみがく
最高の瞬間を逆算する日本人 ―“御用聞き”がウケる
第3章 ビジネスとクオリアの交差点
衆知を集めて独創を生む
日本ブランドはもっと高められる
第4章 クオリア立国のために
日本文化が強さに変わるとき
日本の「見える化」を目指せ
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