読書メモ
・「任天堂 Wiiのすごい発想 〜技術競争を捨てて −新しい市場開拓に成功」
(溝上 幸伸:著、ぱる出版 \1,400) : 2011.02.27
内容と感想:
2008年に出た、任天堂のWiiやDSのヒットの秘密に迫った本。
任天堂の強さの一つとして、第6章では「既存最先端技術のコーディネート力」を挙げている。
これはiPadやiPhoneなど、アップル社の戦略にも共通する。自社では最先端技術の開発はせず、既存技術の組み合わせで売れる商品、サービスを創造する。
第1章の「プラットフォームを押さえて、その上で事業を展開している」というのも強みだ。ゲーム機本体がプラットフォームになっている。
ここには携帯電話ビジネスとの共通性が見られる。
そうした任天堂のビジネスの発想を「トータルな発想」とも言っている。
超優良企業として就職先の人気ランキングも高い同社だが、ずっと好調だったわけではない。
第4章ではソニーのプレーステーション(PS)との「10年戦争」について触れている。
それを10年続く「任天堂凋落の時代」と書いている。
かつてソフト販売の参入ハードルの低いPS陣営に、サードパーティがごっそり抜けていった苦い経験があった。そこから任天堂は学んだ。
また、2002年に社長に就任した岩田氏を、開発体制の「まとめ役」として優れていると評価している。
岩田社長の能力の高さがWiiやDSのヒットを生んだといっていい。
意外だったのは、任天堂は企業理念というものを持たないという記述。
山内前社長が「常に流動する経営環境の中で企業理念という固定したものにすがるということの愚を知り尽くしていたのだろう」と、述べている。
さて、任天堂に死角はないのか。
第7章では「初心者は一度そのゲームをやった時点でもう初心者ではなくなっている」、「次の段階の面白さを求めるようになる」というように、
次の段階のニーズにどうこたえていくかが課題であろう。
先日、「3DS」が発売されたばかり。ケータイゲームやスマートフォンが競合に加わった近年。ゲーム市場を取り巻く環境は大きく変わっている。
○印象的な言葉
・任天堂の成功の秘密:ハードとソフトを有機的に融合。相乗効果
・新しい層(中高年層、女性層)の掘り起こし、健康志向、体感型、教育ソフト、説明書なしで始められる。シンプルでわかりやすお
・徹底したアウトソーシング、在庫を持たない。金型や試作品の工場はもつ。
部品供給は日本IBM、ミツミ電機、田淵電機、ホシデン、メガチップス、NECエレクトロニクス、三洋電機、サムスン電機、アナログデバイセズから
・ファブレスは寡占業界であることが前提。価格支配力が強い。外注先にも高い利益率を約束できる
・画期的なコントローラー、ワイヤレス、スピーカー付き。ネット接続、省エネ設計、ローテクの域を出ない
・社員全員参加型のボトムアップ式で開発。一人の天才より、10人の秀才。知恵を寄せ合う。
・ソフト開発力のレベルの高さ。ソフトの売上は任天堂の売上の1/3。プラットフォームとしてのゲーム機。低価格で普及を促進
・利益率の高さ。ソフトメーカーからのライセンス収入、ソフトの生産委託料
・ハードの高性能化で高いレベルのゲームソフトは開発側の負担が大きい。複雑なコントローラー操作ではマニアのものになっていく
・メーカーの「性能を上げることが全て」という本能。性能を高めないのは「悪」
・切り捨てることを知っている
・みんなでわいわい言いながらやるゲーム、対話が増える。笑顔創造企業。ライフスタイルの提案
・ソフトのネットからのダウンロード方式なら新作の宣伝やデモ画像、サンプルの提供も可能
・茶の間の中心、テレビの横で眠らないマシンを目指すWii。ニュース、天気情報などリアルタイムに取得
・ゲームではない新しいソフトを使うための機械としての「DS」。マイク付き。情報端末としての使い方。通信機能で対戦。
・ソフト開発のコストが低く、中小ソフト会社が参入しやすい。任天堂が開発支援ツール(サンプル、ライブラリ等)を提供。アイデア次第。ネットソフトにはロイヤリティを課さない
・カートリッジ方式は耐衝撃性が強く、小型化が可能
・ポケモンはメディアミックス型で認知度を高めた。雑誌、ゲームソフト、カードゲーム、TVアニメ、映画で展開
・PSに押されながらもポケモンのヒットとゲームボーイが任天堂を支えた
・イメージを言葉で伝えられる。イメージを要素に分類できる分析力、構成力、表現力、説得力。プレゼン能力、コミュニケーション能力
・人を驚かせ、面白がらせるのができるのは少数の特別な感性をもつ人だけ。個の力が大きい。商品化にはトラブルを一つ一つ潰す地味な仕事も重要。
優れた個人の才能に敬意を持ち、組織として全力で支援する。個人プレーだけでは何もできない
・わからないものはわかっている人に聞けばいい。現場の情報を聞く。取引先もアイデアを出す
・ヒットの果実は存分に享受し、蓄えて次の時代に備える。ブームは人智ではコントロールできない。いつ終わるかわからない
・柔軟だが中心には全くぶれない芯がある企業。何でも屋だと個性や良さが失われる。とがっているから強い
・最先端技術を開発することはしない。できないことはやらない。個別部品のハイテク化は部品メーカーにお任せ
・必要な技術をもつメーカーを世界中から探してくるのが任天堂の仕事
・子供たちの口コミの恐ろしさ
・困ったときのキャラクター。キャラクターソフトの安心感、シリーズ展開できる強み
・ゲームをやりながら、徐々にルールがわかっていく仕組み
・汎用性のない別売りの高額な付属機器
・野球場でのDS向け情報提供サービス。他のユーザとのチャット、動画中継
-目次-
第1章 任天堂狂騒曲
第2章 Wii開発の秘密
第3章 なぜDSは空前のヒットになったのか
第4章 10年戦争 任天堂VSソニー
第5章 任天堂の変わる社風と変わらない社風
第6章 任天堂というシステム
第7章 Wii & DS 今後の課題
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