読書メモ

・「ネット帝国主義と日本の敗北 〜搾取されるカネと文化
(岸博幸:著、幻冬舎新書 \760) : 2011.04.09

内容と感想:
 
米ネット企業のサービスを無邪気に礼賛するのではなく、ジャーナリズムや文化、国益から考えよう、という書。 Google検索を初めとして、ネット上のサービスの多くは米国企業により提供されている。 本書ではネットにおける米国支配、米国依存の進展を警告している。 著者はそれを米国ネット企業による「帝国主義」と捉えている。 マクロの観点、国益の観点からネットの現状を批判的に考えてみようとしている。
 「タダほど高いものはない」というように、ニュースなどのコンテンツがネットで無料で入手できる。 それが当たり前になってしまっていることで、コンテンツ提供側としては一方的なコスト負担により苦境に立たされている。 それにより最終的には我々は「ジャーナリズムや文化の衰退という形で中長期的に大きな対価を負担させられることになる」と言う。 こうした状況を放置せず、何らかの形でコストを負担し、収益を分配する仕組みを構築することが必要なようである。
 また、海外のネット企業とも競争力のある同様のサービスや手段を国内に持つことは、安全保障の観点からも重要だと説いている。 今、流行のクラウド・コンピューティングについても注意が必要だとしている。 グーグル、アマゾン、アップルなど米企業のビジネスに我々日本人もうまく乗せられている。この過度な依存状況は果たしていつまで続くのか?

○印象的な言葉
・コンテンツ産業の収益は年々悪化。全ての人が無料のメリットを得ることはできず、誰かがその対価を払わなくてはいけない。それをマスメディアやコンテンツ産業が負担。
・マスメディアの崩壊がジャーナリズムの衰退を招く。コンテンツ産業の崩壊が文化の衰退を招く
・最も儲かっているのはプラットフォーム。流通独占
・情報支配の怖さ。ネット上での米国による世界制覇
・プラットフォームと端末の融合
・ネットメディアに登場する人はネット擁護派ばかり。(→悪く言えばオタク、新し物好き。原理主義的。過激。極端に走るべきではない)
・ジャーナリズムは民主主義を支えるインフラ
・音楽系のアーティストやコンテンツ制作は頑張っても報われない商売になった。(→コンサートやライブなどリアルで稼ぐ。グッズで稼ぐ)
・その後の姿を示さないような議論は無意味
・米国ネット企業のサービスに乗っかって儲けようとする人たち(→ある意味、ただ乗り)
・コンテンツはタダ、という認識がユーザに広がった(→課金しにくくなった)
・環境問題における環境に与えるダメージの対価を「社会的なコスト」と捉えると、コンテンツが直面する問題も同じ構造。ユーザにとって安価でも、社会全体としてダメージがある
・現代人は忙しい。ゆっくり新聞を読んだり、テレビを見たりする人は少ない
・米国では紙の新聞の発行を止め、ウェブサイトでニュースを提供する新聞社もある。地元のブロガーに無給で協力してもらっている
・検索連動広告は少数の検索サービス企業が独占し、広告の単価は高い水準で安定
・新聞記事を検索結果に表示しながら、検索連動広告の収入は新聞側に配分していない
・音楽コンテンツのデータ量は大きくない
・ネットによる、レコード会社の流通独占の崩壊(→レンタル会社の影響もあるのでは?コピーが容易)
・マスメディアやコンテンツ産業における市場価値だけでは測りにくい社会的な役割の衰退
・米国の地方都市では地元新聞が廃刊となり投票率が下がった。立候補者数も減った。民主主義のクオリティの低下
・ジャーナリズムの2つの役割:事実報道と調査報道(新しい視点を提起)
・市民ジャーナリズムだけではジャーナリズムの機能は果たしえない(→調査報道ができるように育成すればいい)
・日本のポップカルチャーも総崩れになりかねない。アニメ産業、マンガ産業も崩壊寸前
・ネットによりインディーズのアーティストが世に出るチャンスが広がった。映像制作会社も直接作品を発表できる
・契約上の「守秘義務」。それを文字どおり信じてしまうのはナイーブすぎる(→見られていることを証明することは難しい)
・米国企業のサーバに預けている情報は決して安全ではないと考えるべき(→米国には愛国者法がある)
・広告のネットシフトは広告費が米国企業に流出すること
・ネット上にも国境ができている。米国のテレビネットワークの番組は米国内だけはネットで視聴可能
・米国の集団訴訟(クラス・アクション)。(→ある意味、効率的)
・グーグル・ブック検索訴訟の和解案の問題点:権利者はイヤなら意思表示をしろといっているに等しい。騙まし討ちに近い
・米国に設立される版権レジストリという組織が他国の作者の著作権まで管理しようとしている
・日本で最も書籍が集積されている国立国会図書館のようなところが国益の観点から最適な形で行動を始めるべき
・容量の大きなコンテンツのやりとりが増え、通信網の混雑が激しくなった。帯域幅を大量に占有するネット企業がインフラにただ乗りしている。インフラ事業者が犠牲になっている
・ニューズ・コーポレーションはMSの検索サービス「Bing」の検索結果に対価の支払いをお前提に新聞記事の掲載を許諾するという交渉を進めている
・金融など特定の分野のニュースで抜群の評価と信頼を得ているところならネットで有料化できる
・米国では草の根レベルでのジャーナリズムが盛ん。基金も多い。新聞社をNPOに変えられるようにし、税負担を軽減する
・商業利用で音楽を流す場合に権利者の許諾と対価の支払いが必要なのと同じ事を、ネットでも適用する。新聞記事にも
・ジャーナリズムや文化を補助金や保護策で何とかしようとしてもロクなことがない。競争と切磋琢磨を通じて進化してこそ価値がある
・ネット企業との間で適正な収益の配分を追及

<その他>
・新聞社はネットワーク化しないと生き残れないのでは?業界再編、ネットメディアとの連携
・ネットには価値の低いコンテンツも増えている。質の低下。似たようなものばかり。昔も芸術だけでは生活できなかったはず
・プロのレベルの技術をネットで共有。質の高いコンテンツを低コストで提供
・CGMでビジネスが成り立つプラットフォーム提供側もユーザにコンテンツの提供をボイコットされれば終わり。共存していくしかない。
プラットフォーム側がコンテンツ提供側に利益を還元させていく必要がある
・ネット広告の効果はきちんと検証されているのか。
・新聞もメディアの一つでしかない。ジャーナリズムとして将来がどうあるべきか考える必要がある
・CDショップにはヒットチャート上位や有名アーティストのCDのみ。書籍もそうなる。
・従来のメディアビジネスの規模は適切だったのか。無駄も多かったのではないか。コストに対して適正な価値を提供してきたのか
・ジャーナリズムにおける真のプロはどれくらいいるのか?みな大本営発表なのでは?
・媒体の数が減るならジャーナリストも淘汰される。優秀な人は生き残るはず
・ネット企業に搾取されにくい(コピーされにくい。デジタル化できない))コンテンツを育てる
・グーグルに何らかの形でジャーナリズムの役割を果たすよう義務付けては?
・メディア業界が結束すれば検索結果に出さないよう、対抗しようと思えばできるはず
・垂直統合ビジネスを進める上でアマゾンは有料モデルを進め、一方でグーグルは無料モデルを進めている

-目次-
第1章 ネット上で進む一人勝ち
 ネットがもたらしたプラスとマイナス
 ネット・バブルの歴史
 ネット上のサービスの構造
第2章 ジャーナリズムと文化の衰退
 新聞の崩壊
 音楽の崩壊
 社会にとってのマイナス
第3章 ネット上で進む帝国主義
 米国の帝国主義を助長するエコシステム
 プラットフォームの米国支配の問題点
第4章 米国の思惑と日本が進むべき道
 グーグル・ブック検索
 米国の戦略と野望
 ネット上のパラダイムシフトの始まり
第5章 日本は大丈夫か
 プラットフォームを巡る競争の激化
 ジャーナリズムと文化をどう守るか
 日本はどうすべきか