読書メモ
・「「民」富論 〜誰もが豊かになれる経済学」
(堂免 信義:著、朝日新書 \720) : 2011.03.21
内容と感想:
元エンジニアの著者が退職後、経済学を研究し、たどりついた新たな解。
日本では国民一人当たりの所得が年々減少し、貧しくなっている。このまま日本は静かに沈んでいくのか。
本書は「皆で豊かに暮らすことは可能であり、その方法があること」を示そうとしている。
第4章では次のような、重要な経済の基本を述べている。
@社会全体では節約してもカネは残らない(カネの節約はできない)
A消費を増やすと所得も増えるので、社会全体では贅沢ができる
B意図的な貯蓄は、社会全体の貯蓄を増やさないが、GDP(所得)を減らす
しかし個別の合理的と思われる行動が、社会全体としては逆の結果につながることが知られている。
そのため国民、皆で豊かになるには協力体制が必要であり、国民の合意が必要になる。
第8章で提案する「生存協同組合」というのも国内でカネを回す仕掛けだ。地産池消を推進するための組織としている。
国内生産、国内に雇用を提供する企業を国民全体で支援していくそうだ。
その企業が提供する製品やサービスは必ずしも国際競争力がなくてもよいとする。かといって競争を否定するものでもなく、
「競争も協力も大切」としている。
震災後、今や日本中で自粛ムードが広がり、経済活動が縮小しつつある。これは国民全体にとってもゆゆしき事態である。
「カネは天下の回りもの」という言葉がある。カネが回ればGDPも増え、生活も豊かになる。本書の主張のベースにもこの考え方がある。
花見での馬鹿騒ぎは自粛すべきだが、行き過ぎた消費の抑制は日本経済にも被災地の復興にもマイナスでしかない。
短期的には震災による被害は大きいが、中長期的には復興に伴う新たな需要発生のプラス面も見なければいけない。
今回の震災でも多額の義捐金が寄せられているようだ。国内外に協力の輪が広がっている。
非常事態なのだから復興活動のために国内企業や製品を優先的に扱うなど、多少コスト高でも、ある程度の談合を許容してのよいかも知れない。
一日も早く、全ての国民が元の穏やかな生活を取り戻せるよう、皆で協力し頑張っていくことが大切だ。
○印象的な言葉
・各人の貯蓄は社会の貯蓄を増やさず、社会の所得を減らす。貯蓄は経済を縮小させる。消費を減らすのでGDPを減らす
・競争原理は人間能力の限界により行き詰まっている。競争も協力も大切
・貧しさを先取りしている若い世代
・消費税率上げには昇給が必要
・談合という分配機能。全業種が談合を行なえば「お互い様」。共倒れ防止策としての「必要悪の談合」。ワークシェアは公的な談合
・国の借金は2000年以降の5年間では個人に渡らず企業に残った。国からの贈与で増えた企業利益が配当金として海外に流れている
・グローバル化の影響は構造的。影響は時間とともに拡大
・科学、経済の発達は敗者の犠牲の上に築かれている
・EUという「協力の仕掛け」。協力の欠如がグローバル化で人を貧しくしている
・江戸庶民の暮らしは世界的に見て上位にあった
・生活水準向上は@新商品開発A生産性向上B地産池消C分配性向上で実現可能
・皆で辛抱すると皆で貧乏になる
・企業家が利益を得るには消費者と労働者の支援、協力が必要
・産業人の使命は楽土の建設(松下幸之助)
・カネはその価値が信用され、インフレを起こさない限りいくらでも発行できる
・GDP(付加価値)の行き先は人件費、退職金他の積み立て、各種保険、賃貸料、金利、配当金、税金など多岐に渡る
・住宅や公共施設など社会資本が完全に備わった社会では、それらの保守だけで済むためGDPも所得も減る。所得のほとんどを消費に回せるため暮らしは豊か。
日本の住宅の寿命は短く、暮らしは貧しいのに造っては壊している
・他人と同じことは一切やらないという個性派ばかりの社会では文明は維持できない。人々は群れの大きさに依存し、貢献する
・消費税は貧しい層から豊かな層へ所得を移転させる。貧しい世帯は一層貧しくなる
・失業は分配性低下の結果
・談合風土は江戸時代の互助精神が受け継がれたのもの。「@参入を拒まないA利益をむさぼらないB他業種の談合を拒まない」談合であれば、互助になる
・個別には可能な貯蓄が社会全体では不可能
・輸出可能な資本財を生産できる企業は技術的にも設備的にも進んだ企業。大企業か先端技術を持つ中企業
・社会の安定回復には所得再分配か、社会事態の変化と進歩を図るしかない
・企業の海外脱出は国内市場を対象とする企業には自殺行為。国内購買力が減り、削減したコスト以上の国内市場を失う
・日本が世界経済の三極を30年に渡り維持したことは世界史上の奇跡。それがいつまでも続くと考えるのはあまりに楽観的
・価格競争は「貧窮化への競争」
・相互協調が維持できない状況では利己的行動に暴走する
・日本の住宅が短寿命なのは中古住宅の流通機構不備、新築好み
・製薬会社と官庁の不適切な関係
・子供と親にかかる費用を低所得層の現役世代に依存することは極めて困難
・災害用非常食が今も乾パン、缶詰という発想の貧困
・儲けた金を死蔵することは無意味な上に、他人に犠牲を強いること(⇒企業の利益留保も)
・科学技術は進歩しているのに暮らしの質は低下している。許しがたい不合理、理解しがたい不条理
・消費税率変更を自動的に実施:新販売端末、電子値札の開発
<その他>
・ひな人形や鯉のぼりは庶民のものだったのか。上級層だけのものではなかったか
・かつて訪日した外国人が描く日本人像は侍か商人など限られた付き合いの人なのでは?
・互助→生活安定→治安向上→展望良化
・日本は過去に積み上げた貿易黒字を大事に蓄えている
-目次-
序章 財政赤字は国民への贈与になる
第1章 景気拡大と同時進行した不況
第2章 社会全体では「節約はできないが贅沢はできる」
第3章 全員は儲からない(金持ちが儲けるのは貧乏人のおかげ)
第4章 国内総生産は多ければ良いというものではない
第5章 企業利益の一部は公のカネである
第6章 高い国産品の代わりに安い輸入品を買うと国民の収入が減る
第7章 グローバル化による生産性向上が格差を広げる
第8章 グローバル化にどう対応するか
終章 経済学というミステリー
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