読書メモ

・「マスコミは、もはや政治を語れない 〜徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論壇」
(佐々木 俊尚:著、講談社 \1,500) : 2011.01.31

内容と感想:
 
政権交代をめぐるブログ、ツイッターでの議論を追いかけ、まとめた本。 ネット論壇が語る、「その論考・分析能力の素晴らしさ」を披露しようとしている。
 「政権交代後」に対して、第二章ではあるブログのこんな言葉を引用している。 「国民の側にも具体的な見通しを欠いていた」と期待先行で、そのあとがっかりさせられている現状を暗示していたかのようだ。 民主党は「試行錯誤は避けられない。君子豹変もありうるだろう」と現実的な意見もある。 国民は「国任せ」にし、「安上がり」に済ませてきた、と書いたブロガーもいた。結局、高くついたことを今になって国民は思い知らされている。
 興味深いのは第六章の新たな投票システムの提案。鈴木健氏によるものだが、 ネットにより投票にかかるコストは小さくできることから、選挙や政策決定などに票の分割、譲り渡しという概念を持ち込んでいるのが面白い。
 また、「ソーシャルメディアが進化していけば、いずれば輿論や一般意志をそこから抽出していけるのではないか」とネット論壇に期待感する著者。 「政権交代をめぐる報道をみてきた限りでは」と断った上での結論として、「人々が違う意見を述べ合って、違う事実が出てくる、というような装置としての役割は、 もう新聞・テレビからは失われた」としている。その役割を著者はネット言論、ネットメディアに期待している。
 私の限られた時間では、著者の「マスコミ叩き」が果たして正当なものかどうかは判断しかねる。 全てのテレビや新聞に目を通しているわけではないから。 マスコミを擁護するわけではないが、マスコミの完全否定ではなく、改善要望、また国民への積極的な政治参加への期待として受け取ることにしたい。

○印象的な言葉
・ブログの言論の双方向性。オープンな圏域
・論考・分析は情報を読み込む能力さえあれば、誰にでもできる
・「保守vs.リベラル」という戦後幻想
・情緒的なマスコミ。予断に満ちたマスコミ報道
・官僚に操られるマスコミ。官僚が煽るデマ
・新聞各紙のステレオタイプな論調。疑問な人選の談話。ワイドショーのコメンテーターレベル
・政治性を極端に薄めた労組
・自民党の上場企業ばかりが得をする政策
・55年体制:国会での対決は演出。事前に談合してした。幻想の対立軸。真実を知るマスコミはそれを隠してきた
・選挙のたびに浮動票が一斉になびき政権交代が続けば、重要な政策が遂行できず日本は取り返しがつかない下り坂に入る(ジェラルド・カーティス)
・世論の雰囲気に影響されにくい中選挙区
・中庸な政策を支持する人は非常に多く、二大政党は真ん中に位置する有権者の票を求めて、中央に寄ってくる。両端にいる有権者は見捨てられやすい
・創造のための破壊。展望のない破壊は虚無感、不安感を引き起こす
・つまらぬ本を読まされれば金も時間も失う
・マスコミの政権批判は非難ばかりで、対案がない
・ジャーナリズムは権力監視だけではいびつ。客観的かつ分析的、わかりやすく伝えること。民主主義のインフラ
・マスメディアは自らの既得権益に関わる点には見て見ぬ振りをする
・マスメディアのパワーの一つはアジェンダ設定。みんなが関心を持つ議題
・元々、既存メディアへの信頼感が強くない韓国。ネット世論が国内世論と直結。政府もマスコミもネットを無視できない。瞬時に全国民に広まる、フィルターなしの世論形成装置
・政権がネットを使って世論を代表し、リードする可能性。民意をすいとり働きかける。政権がアジェンダ設定をコントロールする
・脊髄反射的なツイッターのようなライブなメディア。ツイッターには「構造がない」。単なるノイズの集合体。
・事業仕分けの意義は「すべてが公開される」ことのみ。国民参加型
・公共事業の中で治水事業は道路整備に次ぐ位置を占める
・責任は連帯する
・国民の政治への関心が高まれば、政治がコンテンツとして成立する。シンクタンクの活躍の場も増える
・亀井静香はチェ・ゲバラを尊敬する危険な社会主義者
・特定のグループを「ワルモノ」と決め付けるような思考様式の危険性に敏感になる。断罪は社会の分断を深めるだけで、衆愚的なファシズムを招く
・インテリは警鐘を鳴らすばかり。「かっちょいい絶望の仕方」の見本市
・ネットは「声の大きい者が勝つ」世界。なんとなく多数派に見えてくる
・政治家の仕事はいろんな人をつなぐことだった。つなぐだけならネットでもできる。
・討議民主主義。徹底した議論というプロセスを重視。議論による民主主義と経済効率性は両立しにくい
・新しい政治では政治家が軸になるのではなく、政策やアイデアが軸となる
・内田樹は新たな中間共同体の復興を訴え、宮台真司は社会の包摂性の回復を求めている
・検察の世論誘導の手法。情報をリークして世間や永田町の反応をうかがう。「世論が後押ししている」と強制捜査に乗り出す
・2004年の小沢一郎からの借入金4億円の、「収支報告書への記載がない」が誤報
・有罪が確定するまでは無罪。被疑者を悪人であるというような世論を作らんがためのリークを検察がするのは間違い。人権問題になりかねない

-目次-
はじめに
第一章 政権交代が起きた深層
第二章 民意は民主党を選んだのか
第三章 記者クラブ開放をめぐる攻防
第四章 マスコミが決して語らない論点 ――八ッ場ダム、脱官僚、亀井徳政令
第五章 先鋭化するネット右翼 ―外国人参政権への抗議デモ
第六章 電子民主主義の未来
終章 「小沢vs.検察」報道にみるマスコミの限界