読書メモ
・「世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか」
(野口 悠紀雄:著、ダイヤモンド社 \1,500) : 2011.03.06
内容と感想:
2009年4月から一年間、「週刊ダイヤモンド」とダイヤモンド・オンラインに掲載された連載をまとめた本。
金融危機後の世界経済の回復に向けた現状と、それに乗り遅れた日本の姿を多くのデータをもとに分析。
日本経済の課題と今なすべき戦略について書かれている。
米国のバブル期に日本の輸出産業は古い体質のまま設備・雇用を拡大。それが経済危機で一転、反動が来るとその傷は深かった。
過剰な設備・雇用をどうするかが大きな課題である。従来の製造業主体の産業構造からの転換が必要とし、介護分野をそれに期待する。
しかし、第8章では「介護のすべてを国家で行なうという福祉国家的な思想は、見直す必要がある。
介護保険の枠内で行なうのは、最低限のサービスの確保としてとらえるべきだ。そのうえで、市場を通じるサービス供給の拡大を考えることが重要である」
といっているように、公的なサービスには限界があるため、民間による供給の必要性を説いている。
国内製造業の過剰な施設と人員を介護分野に転用することも提案している。それを国が補助するのもよいと言っている。
民間施設利用者の税控除の拡大や、介護控除を設けることも検討すべきとしている。
だが、それは金がある人しか介護を受けられないことになりはしないか。今の国家財政状況では最低限のサービスすら危ういのではなかろうか。
○印象的な言葉
・かつての円安は再現できない
・更に失われる15年
・(円安バブル時の)生産拡張の後遺症が残る、古い産業構造を温存してしまった。雇用調整だけでは利益を回復できない
・雇用調整助成金が失業顕在化を抑えている。膨大な企業内失業。潜在的失業率は14%。助成金の分だけ収益が嵩上げされている
・政府支援に依存してソ連化する製造業。2009年の緊急経済政策で製造業につき込まれた額は製造業の利益の半分を超える
・日本はJALと同じ問題を抱えている。JALは従業員の権利が強すぎた。経営を圧迫したのは企業年金
・ドルの価値は金融危機前後で不変
・日本の輸出のうちアジア向けは半分
・外需を直接コントロールすることはできない。海外の状況に振り回される
・特定産業をいつまでも血税で支援し続けられない。自動車関連
・この15年間の大変動:中国の工業化、ITの進展、グローバリゼーションの進展
・新興国の安価な工業製品との競争により国内賃金が新興国賃金にサヤ寄せされて下落
・ブームの後始末は金融業では簡単。事業拡張のときも物的な投資が必要とされないため、縮小するときも雇用調整だけですむ。損失を償却してしまえば急回復する。IT産業も同様
・産業構造を転換し、新たな雇用を創造していくべき。労働力の再訓練、再教育
・企業の最大の負担は社会保険料
・経済政策として設備廃棄支援が必要。工場跡地の再利用。介護施設への転換、農地への転換
・製造業が全体として赤字になる事態はこれまでなかった
・自動車が水平分業に移行できないのは部品の標準化が進んでいないため。古い体質
・トヨタのリコール問題:急激な生産拡大に品質管理が追いつかなかった。特に現地調達の部品。コストカットの面でも無理をした
・米国はある意味では厳しい階級社会
・2009年末までに世界の銀行全体の損失の65%が処理された。米国は金融危機克服の見通しはついた
・今回の経済危機は自動車危機であり、日本車の危機だった
・中国は現在、世界で最も住宅価格の高い場所
・人口13億人の中国経済の正しいデータを集めるのは至難の業。8%成長できないと政府の指導力に疑問を呈されるため、データを偽造している
・2010年度予算に明瞭に現れた「日本の死相」。税収が歳出の4割しかないのは普通の国ではありえない
・米国でコンピュータ関連の仕事に就いても、インド人並の給料しか得られない。大学のコンピュータサイエンス学科に学生が集まらない
・高度知識産業の育成
・介護分野は例外的に有効求人倍率が一を超える。離職率は21%
・日本の巨額の対外純資産225兆円(2008年末)。そこからの所得収支は2009年は1.25兆円の黒字。自動車輸出額の2倍
・経済的・原理的には解決可能でありながら、政治的なリーダーシップがないため立ち往生
・政策決定能力が低下。官僚機構の弱体化、劣化
-目次-
第1章 奈落のあとは停滞
第2章 日本が回復できない理由
第3章 激減した企業利益
第4章 問題山積の自動車産業
第5章 回復するアメリカ経済
第6章 中国とどうつきあうか
第7章 経済対策を検証・評価する
第8章 日本が進むべき道は何か
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