読書メモ
・「日本経済「常識」の非常識 〜デフレ時代に知っておくべきこと」
(上野 泰也:著、PHP研究所 \1,200) : 2011.02.06
内容と感想:
「Voice」誌に連載された経済がテーマのコラム(2009年1月〜2010年3月)に加筆、書き下ろしを含めてまとめた本。
経済状況の変化や時代の流れとともに「常識」の内容は変化していくもの。
そうした中で、マスコミが画一的に報じる経済問題の「常識」は本当に正しいのか、「非常識」ではないのか、と疑った目線で論じている。
雑誌連載時から本書執筆中までに起きたことを、「その後に起こったこと」として加筆してフォローしているため、
単なる記事の寄せ集めに終わっておらず、出来るだけ新鮮な情報の提示、分析に努めている。
サブタイトルにもあるように日本経済の足元の最大の課題はデフレ。デフレが日本経済を蝕んでいる。
第7章でも吐露しているように著者は「中長期悲観の日本経済シナリオを抱いている」。
それでも第9章では国内需要を伸ばすためとして「滞在人口増加策」を提言している。
少子化対策の格段の強化、観光客誘致策強化、移民受け入れ、外国企業の誘致促進を四本柱に挙げている。
いずれも政府が音頭をとって推進すべき問題だが、地方自治体や企業にもできることはありそうだ。
国に任せれば何とかなるというのは「非常識」になっている。
○印象的な言葉
・2009年度一般会計予算、税収が国債発行額を下回る、1946年度以来のこと。「第二の敗戦」。危機的な「悪い金利上昇」が将来起きる可能性
・女性が買い物をやめるとき:女性の支出絞込みのステップ。光り物を買うのをやめる→ファッションにかけるお金を減らす→デパ地下の惣菜などちょっとした贅沢を手控える
→茶店で休憩をやめる→化粧品の費用を絞り込む
・米国の金融政策はアートに近い(→サイエンスに対する対義語)。「勘と経験」に頼った金融政策運営
・金融立国は幻想。個々の銀行のありようこそが大事。個々のニーズへの柔軟な対応が重要
・リスク分散が行き過ぎると、分散しすぎて把握できなくなる
・「証券化」は新たな価値を生み出さない
・今回のバブル崩壊後も市場メカニズム重視の米国流の考え方の優位性は基本的に変わらず、部分的な修正にとどまる
・ユーロにはドルに取って代わる実力はまだ備わっていない
・地方圏で周辺部から中核都市へと需要が集中する現象。東北地方では仙台が州都の様相を呈している
・地銀の状況:地方経済の沈滞、企業などの資金需要が乏しい。預金より貸出金の規模が小さく、余資は国債などで運用。高齢化の進行で預金額は減少していく。
地元企業向け貸出、住宅ローンも減少が避けられない。経営統合や合併を通じた生き残り策。
・言葉で注意してもダメな場合の先生による「強権発動」、最後の非常手段
・幼児期の子供には「秩序の敏感期」がある。秩序への強いこだわり、欲求がある
・円の変動幅は他の主要通貨に比べて非常に大きい
・2000年のゼロ金利政策解除は失敗
・「円をどうするか」ではなく、「日本の国内需要をどう上向かせるか」が問題
・生活維持に欠かせない基本的支出、懐具合に余裕があるときに増える選択的支出
・支出の絞込みより、少しでも収入の上積みを図るための努力や工夫をすべき
・価格決定権が川下にシフトしている。消費者と対面している小売業者の段階で価格が決まっている
・生産年齢人口の減少トレンドは慢性的な危機。高齢化が進むと食や衣には一人当たりの消費額が落ちてくる
・エコカー、エコポイントなどの購入促進策の効果は限界や時限性がある。需要は有限
・日銀が市場への資金供給を増やせばデフレ脱却できる、というほど世の中は単純にはできていない(門間・日銀調査統計局長)
・個別企業にとってのベストの選択は必ずしも日本の国内経済にとってベストの道筋にはならない。とかく企業サイドからの視点で物事が語られがち
・社債などの信用格付けでBBB(トリプルB)に満たないもの、債務不履行になるリスクが相対的に高いものを「投機的」と呼ぶ
・銀行の為替ディーラーによるポジション解消、利益確定は「投機」にあたる。値ざや稼ぎの売買は金融市場に十分な取引の厚み(流動性)を確保する「必要悪」
・中国は社会保障制度整備が不十分。将来不安が強く、貯蓄率は高止まり。個人消費が経済成長のメインエンジンになってこない
・財政による人為的な経済成長の嵩上げの余力は、中国には残されていない
・中国の地方政府や一部企業が設備投資で暴走。過剰生産能力が表面化。デフレ輸出につながる
・新基軸通貨とは中長期のスパンで議論すべきテーマ。基軸通貨に相応しいと市場が判断し、貿易取引の決済通貨や、原油など商品取引の建値通貨、外貨準備の保有通貨として
選好されるようになることを通じて、徐々に固まっていくもの。
・米国の景気を牽引する主役は見当たらない。GDPの7割を占める個人消費は、過剰消費が崩壊。しばらくは癒しの時間帯
・オーストラリアでは移民を中心とする人口増加が強み
・消費に必要な要素の一つが購買行動に充てることのできる「時間」。高齢者にとって加齢、体力低下により「時間」のコストは大きい。宅配サービスが有効
・高齢化により日本社会からスピード感が徐々に失われていく
・身体で問題を感じる。そういうときは問題を深く理解している。大量の知識と価値観により問題を捉えている
-目次-
「米国の金融覇権」は続く
高級車ブームにご用心
地銀の危機と道州制
ミステリーのなかの大恐慌
数字で読む「クルマ離れ」
教壇廃止が社員を弱くする
なぜ円だけが乱高下するか
ここまで深刻「食のデフレ」
個人消費を伸ばす「滞在人口増加策」
投機は市場の「必要悪」
「サイボーグ経済」崩壊の始まり
“ドル”は中国の不良債権
「不均衡是正論」の本当の狙い
オーストラリア絶好調の理由
消費にかかる「時間」というコスト
「バブル崩壊」は予防できるか
金融政策はアートかサイエンスか
黒子役に徹し、活気づく銀行
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