読書メモ

・「もうアメリカ人になろうとするな 〜脱アメリカ 21世紀型日本主義のすすめ
(柴田治呂:著、ディスカヴァー携書 \1,000) : 2011.02.18

内容と感想:
 
戦後、日本は米国の真似をしてきた。そんな姿が本書のタイトルにつながっている。 日米は個人意識、社会の両方のレベルで相違が大きいと指摘している。日米比較論を展開した上で、日本的価値観を大切にする日本主義を提唱する。 第2章:アメリカの現実の姿を紹介。 第3章:日米の社会構造の違いを分析し、 第4章:「日本主義」を提示。 日米の価値観の違いは二者択一なものではなく、「優先度の置き方」の違いである。差異を強調して異質論を述べようとするものではない。
 今回の金融危機の結果、米国は自らまいた種で世界を混乱に陥れたことで自信を失っている。 日本的な考え方を世界に認知させるよいチャンスだと著者は言う。本書も一連の欧米流の市場原理主義への追随へ反省を促し、 新たな方向性を探ろうとした本のひとつである。
 「米国型システムは普通の人間の非力、無知に乗じて、資本が富の横取りを図ろう」とするもの、という指摘は手厳しい。 その上で、「助け合う社会のほうが、戦い合う社会より住みよい」というのは日本人には受け入れやすい考え方であろう。 目先の利益だけを追いかけるのではなく、より長期的な視点で、社会への影響も考えるのが日本的経営のよいところ。

○印象的な言葉
・日本の文化、伝統を無視した外国制度の移植への反省。必要なものは守っていく
・自由―裏を返せば勝手気まま。他人に迷惑がかかる
・実力主義―盛りのひとときの夢
・個人主義―独善へ通ず
・国立大学の独立行政法人化:補助金は毎年減額。大学とは採算に合う事業ではない。理工系では施設、設備が重要。国の支援がなければ教育・研究水準を維持向上できない。 私立大学との間に歴然と差が出てきた。大学に期待されているのは民間ではできないリスクの高い、長期的に新しい研究の芽の育成
・医療行為は特許の対象ではない。最新の技を誰でも施せるよう公表される。見返りとして名誉と尊敬を受ける
・医療の質の低下が問題。日進月歩の医療技術を医者が十分に咀嚼できないでいる。医師の研修制度の義務化、免許の更新制度が課題
・医師に必要なのは何の病気だと的確に判断する能力。総合的な能力が欠けているため誤診が多い
・行政部内の出世競争と改革のための改革。新しい政策を無理して作ろうとする。中央官庁の幹部職は2年程度で異動。中途半端な政策が作り続けられる
(⇒非効率。能力の、無駄遣い。国民のほうを向いていない)
・金融教育よりも子供にはまず働くことの尊さを教えること
・明確で客観的な人事評価など実現不可能。3段階に分けるくらいが精一杯
・欧州の伝統社会で自由な活動が縛られ、一旗揚げようと移住して作った国が米国
・自由の本質:自分の自由を求めれば、その分、不自由になる他人が存在する
・米国のご都合主義:自分が強く都合のよいときだけ、自由と自由貿易を主張
・資本の暴力行為:アジア通貨危機など。資本の自由な活動が社会を混乱に陥れる。道義的には悪いこと
・クローン人間:自然界の多様性の原則が崩れる
・カルロス・ゴーンの日産の改革:膨大な負債を子会社や系列会社に肩代わりさせるなどの経理的操作により利益を出した。短期的錬金術
・個人主義:自己の責任において毅然たる行動をとり、結果を自分で受け止める。潔さ
・何かといえば金の話をするのが米国人
・米国では金は努力と能力と信仰に比例して得られるもの。金持ちになることにやましさはなく、社会も敬意を抱く
・フェア(公正)という価値基準は米国社会の基層にある重要なもの
・日本人の集団主義と従順性は付和雷同と紙一重。権威を尊重。いたわり、思いやりが道徳の基本。気高い心・行為、徳を重んじる。損して得せよ。団結力・チーム力が強み。 理屈より人間関係を重視。情に左右されやすい(縁故社会、コネ社会)。恥の文化(他人の評価を気にする)。安定重視(社会が固定化する)。堅実性・着実な進歩を重視。
・米国のリスク許容文化。ダイナミックな社会をつくる。やり直しのきく社会。忍耐力に乏しく、我慢できない米国人
・米国人は刹那的。その場しのぎの考え方
・米国人は自分の会社を興し、自由にやって儲けたい。必死に勉強し、技術開発に没頭
・日本のベンチャーは小売、サービス、金融が中心。ちょっとしたアイデアを利用したり、米国の真似が多い。手っ取り早く、あり合わせやその改良で儲けようとする
・社会現象を基本的な価値観によって解明
・誇りの源泉である価値観に自信をもつ。自分の判断基準、行動基準を堂々と主張
・「徳が第一」こそ本来、人間としてあるべき姿。世界のどの民族にも当てはまる判断基準の原点。世界標準にすべき
・日本人は全員敗者となっても最後までしがみついて、とことんやってしまう。結局、全員が不幸になる。そうなっても忍耐強い日本人は我慢し続けてしまう。社会的にも不合理性が増大する
・法律は基本的なことしか決めていない。後手に回ることが多い。脱法行為はずるいやり方。それを社会は甘く受け入れているのが問題。悪いことは道徳規準に基づいて行なわないもの。 法律に触れなくても、善悪を判断する道義的見方は独立して存在する
・社会の正義を犠牲にするような報道は、公共的使命に対する裏切り行為
・人を切る重み。解雇は労働者の命を奪うに等しい。首切りより大幅な給料カットこそ選択すべき
・生産のやり方を改善するプロセス・イノベーションだけではやっていけない。研究者の質こそが決定的に重要。一個人の能力ではなく一群の研究者の総合力。
・新しいものは専門分野が重なり合った境界領域から生まれる。常識を覆すものは普通の人間には「変なこと」にしか見えず、相手にされない。上に立つ者が理解できず、潰してしまう。
・社長・幹部直属の研究開発チーム。庇護のもとに仕事に没頭できる。少人数で十分。異質な人間が集まること。個性をぶつけ合い、協力する
・できもしない経営目標を立てるから無理がたたる
・米国型システムは普通の人間の非力、無知に乗じて、資本が富の横取りを図ろうとする
・助け合う社会のほうが、戦い合う社会(常に緊張しながら生きる。殺伐とした社会)より住みよい
・日本の製造業の横並びの過酷な開発競争。相手を徹底的には叩きのめさない美徳。良きライバル関係を維持しよう。「武士の情け」
・日本では不正をたたく市民の力が弱く、悪者が野放しにされやすい

<その他>
・ベンチャー精神:日米の短期・長期での視点の違い

-目次-
第1章 動揺する日本社会
第2章 アメリカ社会の表と裏
第3章 日米社会の基本構造の違い
第4章 新しい日本主義のすすめ
第5章 21世紀の日本社会の繁栄のために何ができるか
第6章 21世紀型日本主義、展開への提案