読書メモ

・「ドル漂流
(榊原 英資:著、朝日新聞出版 \1,600) : 2011.02.23

○印象的な言葉
・米国に過剰に依存した世界経済はもう維持できない
・巨大なCDOの保有がシティグループ崩壊の主たる要因
・1995年から2006年までの米国の金融資産100兆ドルの拡大は、バランスシートの資産と負債の両建てで増加することによって可能となった
・今の米国が日本のバブル崩壊と異なるのは、バランスシート問題を抱えているのが企業よりは消費者ということ
・米国の不動産向け貸出は順次、満期が到来。ピークうは2012年以降。不良債権化する可能性
・欧州は失業手当等、社会保障が充実しているため失業率が高位で安定
・今後もリスク回避の局面ではドル回帰が起こる
・ルーズベルト大統領のニューディール政策は理想主義的ポピュリズム。成功しなかった
・西欧の没落は第二次大戦で決定的となった
・ドイツやフランスに残る中央銀行の役割は金融監督のみ。金融政策の権限は失われた
・フランスは所得再分配の結果、最終可処分所得による相対貧困率は6.1%。日本は13.5%と高い
・日本の社会保障は高齢者に大きく傾斜
・東アジアの経済統合は市場主導
・日本のデフレは東アジアの経済統合の結果であり、貨幣的現象ではない。構造的なもの。ゼロ金利政策でも収まらない。これ以上の金融緩和は資産バブルを生む。
・アジアの共通言語は英語になる
・日本の英語教育は翻訳教育。語学の授業は翻訳の専門家によるもの。語学の専門家はほとんどいない
・漢字は真名(まな)。漢字が真で、仮名は仮。
・中国の宋が元に圧迫されるようになり、かなりの僧侶たちが日本に渡ってきた
・室町時代までは広大な中国文化を翻訳しながら吸収していた。日本的文化を確立するのは江戸時代に入ってから
・プラスとマイナスを合わせ持つ日本の美意識。どちらかといえばマイナスを大切にしてきた。侘びの哲学。
・多様と一途が両立してきた日本。多神教的考えから来ている。(⇒個人・個性を尊重することにつながる)
・一神教は農耕牧畜文明から発し、開発のための宗教だった。一神教は人間のためには涙を流したが、動植物のためには涙しなかった。人間による自然制服を神の名で合理化した
・高齢者が命のリスクを負ってまで自動車を運転しなくてもいい安全な社会が求められる。効率とスピード重視から安全とやすらぎへの転換
・米国ではファストフードの蔓延で、低所得層に肥満が拡大
・中国共産党は独裁からは程遠く、整備され、秩序だった官僚システム。権力組織も政策決定メカニズムも透明
・独立以来、1990年まで社会主義国家建設を目指していたインド。中国が改革・開放政策に踏み切ってから13年後、インドも市場経済へ舵を切った
・世界の歴史のほとんどにおいて中国とインドが2大経済大国だった。それが近年、再び戻ってきた。「リオリエント」。西欧列強によりアジアの植民地化がアジアを衰亡させた
・EU加盟国間の格差の拡大は政策の協調を難しくする
・強い円は日本の国益:食糧やエネルギー等の資源が今後不足する。資源小国日本には円高はプラス。輸出企業も間接的に原材料を輸入している
・米国の貧困層に属する人間が最上層にのし上がれる確立は欧州より低い
・ドル安は米国には有利。米国の債務はドル建て。ドル安で債務が増加することはない。基軸通貨のメリット
・東アジアに共通通貨を導入するには、金融資本市場、労働市場の統合が進まなくてはいけない。共通通貨への参加は国家主権の放棄という政治的な決定
・以前の米国はプラグマティックな国で欧州がイデオロギー的だった。それが転倒している。米国のウルトラリベラリズムのイデオロギーの破産
・世界経済の中心地の変更を伴うような変化は、いつも経済危機を伴う
・「文明の衝突」のハンチントンは、各文明を帝国のようなものとして思い描いている。シュペングラーの考えに似通う
・市場の正確な予測などできない。大切なのは間違いを早く認識して行動を修正すること

<その他>
・人口をそこそこのレベルで落ち着かせようとする社会意識。社会をそうさせるのは不安からか?十分満足だからか?
・人為的に一国だけを好況にし(仕向け)、世界経済を牽引させるのはリスクが大きいことが今回分かった。リスク分散、世界的な共助が必要

-目次-
序章 崩壊するドル本位制
第1章 アメリカ金融帝国、覇権の終焉
第2章 変貌するヨーロッパ
第3章 日本は孤立する
第4章 成熟化する先進国経済
第5章 新興国の台頭
第6章 ドル・ユーロ・円・人民元はどこへ行くか
第7章 無極化する為替の世界
第8章 戦争と恐慌----移行期には何が起きるか
あとがき