読書メモ

・「日本を破滅から救うための経済学 〜再活性化に向けて、いまなすべきこと
(野口 悠紀雄:著、ダイヤモンド社 \1,600) : 2011.01.08

○印象的な言葉
・無駄の排除は必要だが、それだけで財政再建ができるというのは幻想
・国民はバラマキ政策でだまされ続けるほど程度は低くない。政治に真剣さを求めている。問題の根源的な解決を求めている。参院選でタレント候補は伸びなかった
・受給者の増加、保険料支払い者の減少により厚生年金は2033年頃に積立金はゼロになる
・成長を実現するのは民間企業の努力であり、政府の計画ではない。政府がやるべきは成長のための基本条件を整備すること。人材(高度な専門家)の育成が重要。 将来の生産性を上げるために最も重要な手段が教育
・2007年以降の円高の動きはそれまでの異常な円安を是正する過程
・日本は流動性トラップに落ち込んでいる。金利が著しく低いため金融政策が利かない。金融緩和をしても需要は拡大しない。15年に渡る金融緩和策も効果がなかった
・金融政策はデフレには無効。金融政策は過熱経済の引き締めはできても、停滞経済を押し上げる力をもたない
・インフレは税と同じ。拒否できないという意味で過酷。低所得者にも襲い掛かる
・国債は負担感を希薄化させる
・財政赤字が拡大するのは、納税者意識がないから
・年金を財政赤字にカウントすべき。厚生年金は不足が生じている。広義の財政赤字と考えられる。企業年金では年金債務としてカウントしている。その赤字額は国の長期債務残高と同額
・消費税増税で名目金利が上昇。国の金利負担が重くなる。既発債の時価が下落し、それを保有する金融機関に損失が生じる
・デフレの原因は供給サイドで生じている
・賃金も製品価格も新興国との競争のため下落している。価格の下落が賃金の下落より激しいため製造業の利益が減少する
・企業はビジネスモデルを転換し、新興国とは直接競合しない分野に進出することが必要。アップル社のように製品企画の段階に集中すべき。 IBMのように工業製品を作るのをやめ、サービスを売るビジネスに転換すべき
・日本は新興国工業化以前のビジネスから脱却できていないから利益率が低下する
・デフレとはすべての物価が一様に下落する現象。実際には一様ではなく、厳密にいえばデフレというのは正しくない
・デフレ下で名目金利が低下する中、当初の借入契約を見直さないことは愚かな行動。そのままでは実質的な負担は増加する
・日本は円高をプラスにする産業構造を構築すべき。長期的な成長の基盤はこれによってしか確立できない
・原油価格と金価格はほぼ連動
・デフレに対する議論は体系的なものでない。感覚的なものが多い。誤った認識と誤った政策を導く危険が大きい。15年間それを続けてきた
・自動車や家電などへの購入支援策。特定の産業への支援策を長期に渡って続けるのは大きな問題
・世界金融危機のあおりで企業が負った巨大な損失のせいで、製造業は今後、長期間、法人税を払わない
・日本の税体系は製造業が基幹的な産業という前提で組み立てられている。戦後、農業は産業というより農家の生活を保障する仕組みに変質した。税収面で寄与することはほとんどなかった。
「社会の安定化」が目的の政府からの多額の補助で寄生産業になってしまった。
・日本のような財政状況では普通は円安が進みインフレになる。現実には円高とデフレが続いているが、いつまでも続く保証はない
・歴史上、コントロールできないほど膨れ上がった財政赤字は、インフレによって処理されてきた。戦後の日本が典型。戦時国債はインフレで消滅した
・国債が海外消化に頼るようになれば資本逃避が起き、円安になる。インフレを加速させる。実質為替レートは円安にはならず、輸出企業の競争力は高まらない
・国内投資が行なわれないため将来の生産性は低下する。日本の体力は確実に衰退しつつある
・通貨減価という選択肢を奪われることは政策の自由度減少という意味で、共通通貨制度の本質的欠陥
・納税の痛み、脱税への怒り、国の無駄遣いへの恐怖がない限り、国家は破綻する
・年金制度は経済成長し、物価や賃金は上昇するものとして設計されてきた。今後の年金財政を左右するのは賃金動向
・年金制度改革は遅れれば遅れるほど負担が後世代にしわ寄せされ、世代間の不公平が拡大する。重要なのは賃金が上昇すること
・自分で運用するより不利になるにもかかわらず、なぜ強制加入の公的年金が必要なのかという疑問
・過去に徴収した保険料を国民に全額返却するだけの積立金が存在しないため、制度を廃止できない。清算もできない。止めようにも止められないから続けている。
・被用者年金(厚生年金と共済年金)が国民年金を財政的に補助している
・企業の年金保険料負担は重い。コストを高め、国際競争力を下げている。非正規雇用や海外移転が進んだのもその負担を回避するため。年金の税方式への変更を主張しているのも企業
・賦課方式は人口が減少する社会では破綻する
・日本の消費税は欧州には見られる「インボイス」が不在の欠陥税
・福祉目的税化の本当の目的は自動増税を可能にすること。自動増税は議会の役割を放棄すること
・これまでの保険料方式の制度を変更するには極めて複雑で長期にわたる経過措置が必要。連続性が確保されなければならない
・年金を税で賄うことは不適切。保険料などで受益者が負担すべき。税投入が許されるのは教育、防衛費など社会全体が利益を得るようなもの
・年金は民間の経済活動に任せるべき。公的年金の存在理由は極めて薄弱
・税方式の年金の背景に「保険料を徴収できない」ことがあるなら、それは国家の無能ぶりを認めただけで、税方式を正当化する理由にはならない
・円キャリー取引の大部分はタックスヘイブンを経由して行なわれる
・海外の金利が上がらない限り、円安を期待できない。為替を動かす要因は金利差。米国10年債の金利が3.2%台では大規模は資金流出は起こらない。円安にはならない
・「貯蓄から投資」は無責任なアドバイス。重要なのは金融投資でリスクを取ることではなく、事業でリスクを取ること
・金融、教育、専門的職業などサービス業において、大組織化することのメリットは大きくない。ITの進展により加速化される
・為替市場が適切に機能していれば、金利差を目当てに海外投資をしても、為替レートが変動して、金利差収入を打ち消すはず
・教育投資は最も収益率が高い投資。最も重要な成長戦略は教育。大学院授業料が年間150万円として、450億円の財源があれば3万人に補助できる。 日本はアメリカのプロフェッショナル・スクール(専門的職業に対する)のレベルの教育を充実すべき
・英国の「ウィンブルドン現象」とは「場貸し」のこと。日本も「場」としては悪くない。入国管理法を緩和し、ビザや就労制約などを緩和すればいい

-目次-
第1章 「デフレが停滞の原因」という邪教から目覚めよう
第2章 いまこそ必要なデフレの経済学
第3章 破滅への道を突き進む日本の財政
第4章 厚生年金は破綻する
第5章 消費税増税による財政再建は可能か
第6章 為替レートは何によって変動するか
第7章 日本が進むべきは高度知識産業