読書メモ

・「幸福への原点回帰
(鍵山 秀三郎、塚越 寛:著、文屋 \1,400) : 2011.01.23

内容と感想:
 
イエローハット創業者と伊那食品の会長の対談集。転換期にある日本に必要な幸福論、人生論。 巻頭を両氏の好々爺ぶり(失礼か)が滲む笑顔の写真が飾る。それが本書の主張を体現している。
 両氏がトップを務めた二つの会社の共通項の筆頭は「掃除」。 鍵山氏は掃除は雑事ではないと言う。「雑にやるから雑事になる」のだと。 また、塚越氏は「トイレ掃除って大変だな、と実感した日から、人はトイレを汚さなくなる」と語る。 禅宗の修行で最も大切なものが掃除だと何かで読んだことがある。 お二人が直接、禅の影響を受けているかは不明だが、「掃除をつうじて心を磨かせていただく」というのは、まさに禅に通じる。
 リーマン・ショック後、世界経済を恐慌に陥れたのが市場原理主義だとされ、日本でも「ものづくり」などの原点回帰が論じられるようになったが、 本書は世界金融危機以前に出た本であり、ショック以前の風潮を否定するようなブームに乗って出された本とは違う。 それ以前から両氏は「真の改革」(原点回帰)の必要性を説いていた。 本書は何も掃除だけがテーマではない。あくまでそれは生き方の基本。本書は真の幸福とは何かを見つめ直し、幸福な生き方を問うている。

○印象的な言葉
・真理は平凡の中にある
・社員の幸福を会社の一番の目的とする
・真の改革とは本来あるべき姿に帰ること、原点回帰。どんな組織も時間がたつにつれ理念や目的から遠のき、迷い始める
・組織が目的を果たし、不要になったと判断されるなら、組織の解消を決断することも必要
・他人を犠牲にした金儲けは搾取。人の幸福を奪いながら存続していくのは会社を潰すよりも罪深い
・義憤を感じるトップであれ
・きれいな職場で朝を迎え、一日を過ごせば、荒れた心も穏やかになっていく
・ずくを出す:手間隙を惜しまず、ものごとに丁寧に向き合う
・予防に力を入れておくと、トラブル発生を未然に防げる。万が一の場合、後処理に費やす時間が不要になる
・掃除は「もの言わぬ営業マン」
・掃除や花植えの波が広がれば、町、地域がきれいになり、国もきれいになっていく
・掃除という基本ができるようになると、業務上の規則や約束事もきちんとできるようになる。お客様も安心し、製品の品質にも信頼を得られる
・きれいな町づくりの気運が定着すれば、福祉や教育などについても必要な施策・改革はよりスムーズに進んでいく
・自分が注いだ一滴は確実にプールに残る
・善を行なわないでいるよりは、偽善(と思われること)も結構
・微差、僅差の追及が大差を生み、やがて絶対差に至る
・いじめのような商売に巻き込まれれば、社員や仕入先に迷惑をかける
・経営者は臆病でよい
・「人命は大事」と言うマスコミが、自分たちの行動が伴っていない。人命を粗末にしている。そうした風潮に多くの企業も流されている
・全社員が会社の理念を理解することで、万一トップが判断を誤ったときに「それは違うのではないか」と言える
・人間を堕落させる三大要素:形式的であること、便宜的であること(この程度でいい)、小市民主義(ちっぽけな問題に捉われる)(小野晋也)
・幸せとは自分の周りを幸せな人が取り巻いている状態。幸せになるためには周りの人たちを幸せにする
・収益を社員に給与として還元し、所得税として納めることは、法人税として納めることと国への貢献度としては変わりはない
・職場や学校、家庭が和合の精神を欠いて、ギスギスした戦場になっている。平和とはいえない。自殺者は「戦争」の犠牲者
・四方よし:「三方よし」に「将来もよし」という時間軸をプラス。子孫の将来を考慮
・不幸せは不足から生ずるものではない。有り余るところから生ずる(トルストイ「戦争と平和」)
・一流とはすべての者の至りえる所なり(毛涯章平)
・掃除という約束も保証もないことへの取り組みが精神的な強さや深さ、知恵や創意を養う
・学ぶ目的:それぞれの職業や役割・立場において、本来の姿を発見すること
・ニュージーランドでは個人宅の庭でガーデニング・コンテストを行なう。それが観光客を呼んでいる。観光用施設など造らなくても。
・地方で一隅を照らしている個性のある会社

-目次-
第1章 凡事の重み ―日々の掃除が会社を変えた
 心おだやかに
 「きれい」=「先進性」 ほか
第2章 いい会社 ―企業経営の目的と手段
 周りをよくすれば会社もよくなる
 一人でも多くの人を幸せに ほか
第3章 義憤を抱け ―現代社会・企業への提言
 ものづくり大国からさらに成熟の段階へ
 謙虚さを取り戻すには ほか
第4章 個を磨く ―親の教え、師からの学び
 疎開先で培った忍耐心
 苦労する親の背中 ほか
第5章 美しい生 ―一〇〇年後への種をまく
 信用をつくるもの
 本来あるべき姿 ほか