読書メモ

・「ガラパゴス化する日本
(吉川尚宏:著、講談社現代新書 \760) : 2011.05.14

内容と感想:
 
自国で独自に進化した携帯電話を「ガラパゴスケータイ」と揶揄するように呼ぶようになったのは、それほど昔のことではない。 そうなってしまったのも端末メーカーが国内でのシェアの奪い合いしか興味がなかったから。それでもメーカーとしては食べていけた時期があったということ。 しかし、それも束の間、国内のケータイ加入者数は飽和し、買い替え需要も伸びず、メーカーの撤退や合併などが進んだ。 ハード的にも、機能やサービスの多さも世界トップのケータイが、否定的に「ガラパゴス化」と呼ばれてしまうのは残念なことだ。
 さて、「ガラパゴス化」現象であるが、実はケータイ業界だけの話ではないらしい。 ICT産業全般、広く日本の産業分野に及んでいる現象だという(医療、教育、会計などでも)。 第4章では、「ガラパゴス化している産業は、国の規制や制度の影響を濃く受けた金融、情報通信、ソフトウエア、教育、医療など、サービス産業が中心」とある。
 なぜ「ガラパゴス化」がよくないのか。グローバル化が進み、人口減少時代に入った現在、国内市場だけを向いていたのでは、ますます日本経済は衰退していくことになる。 海外市場をうまく取り込んでいく必要がある。 また、著者は日本製品だけでなく、日本という国自体と日本人のガラパゴス化が進んでいることも懸念している。
 本書では、日本がいかにすればガラパゴス化現象から脱却できるかの処方箋を提示しようとしている。 第3章では「脱ガラパゴス化」を果たした企業や業界の事例を挙げている キーワードはモジュール化、水平分業、ハイブリッド化、形式知化、出島化、ゲームのルールをつくる(かえる)。 詳細は本を読んでいただくとして、これらのキーワードも正の面だけでなく、負の面もあることに注意する必要がありそうだ。
 第2章にもあるように、本書は「過度の垂直統合ビジネスによるデメリットや閉鎖性を強調しているのであって、希少性、独自性を否定しているわけではない」。 つまり、ガラパゴス諸島のような希少性は差別化要因になるということだ。 日本ブランドを活かせば、まだまだ悲観することはない。進化は止める必要はないし、独自性にどんどん磨きをかけていけばいいはずだ。

  ○印象的な言葉
・ガラパゴス化はICT産業全般、広く日本の産業分野に及んでいる現象(医療、教育、会計などでも)
・日本製品、日本という国、日本人のガラパゴス化
・企業がグローバル化し、外国人社員ばかりが増え、重要な役職を外国人が担うようになる
・技術の国粋主義化
・ガラパゴス化を免れた柔道。ただし日本柔道は地盤沈下気味。脱ガラパゴス化が日本の停滞をもたらす恐れもある。 講道館の役割はノウハウ、知恵を形式知化し、伝道師となるような人材を育成すること
・「出島」都市
・ガラパゴス諸島の大半は草食動物。もし肉食動物ばかりであれば、独自進化することはなく絶滅していた(⇒日本も草食系が先導した?草食動物は共生しやすい)
・ガラパゴス化は日本の厳しい消費者の視線、高度なニーズによって起きた
・海外諸国とは異なるスタンダードが普及(⇒これが問題)
・地上デジタルテレビ放送の日本方式は欧州方式を改良したもの。移動受信が可能で、固定受信と同一システムで携帯受信が可能なのが特長
・ICカードや電子マネーもガラパゴス化(⇒外国人観光客やビジネスマンには不便)
・日本のFAX産業は世界市場をほぼ独占。これが多機能プリンターの日系メーカーの隆盛をもたらした
・デファクトスタンダードを決する国際会議に人を派遣しなかったり、国際的な交渉に長けた人材を十分に育成してこなかった
・ソフト産業では特定顧客向けに過剰にカスタマイズし、パッケージ化に立ち遅れた
・外資系企業誘致には外国人向けのインフラ、教育施設、医療施設、居住施設等が必要
・若者にツケを回すような施策が、人的資本の形成を毀損し、長期的な経済成長に影響を与えかねない。若者層により多くのチャンスを与える必要がある
・モジュール化は新興国の圧倒的な価格優位性をもたらす
・日本の状況は営業キャッシュフローが黒字で、投資キャッシュフローはマイナス。本業には余裕があり、将来に向けて投資を行なっている
・生産性を上げる技術が全世界的に普及していけば、その土地のGDPは人口によって決まる
・勝利ではなく棲み分けを求める商売観。世界の「逆張り」のモノづくり観
・ガラパゴス諸島のような希少性は差別化要因になる
・1980年代以降のスイスの時計産業の再編。企業の集中化で、大規模な設備投資の余力を生み、コスト競争力も向上。グローバルなブランド戦略。 時計へのニーズがファッションの一要素になった。垂直統合型、すり合わせ型の産業構造を発展させた
・トレンドマイクロ社のFAME戦略:Focus(製品特化)、Aliance(提携)、Major account(大口顧客)、Expert(エキスパート)
・英語は発音より発言
・市場にいち早く参入することでゲームのルールをつくる
・感動を提供することに国境はない
・論語をベースとした教育。価値観の共有
・我が子によい教育を受けさせたいという親の普遍的な願い。教育を通じての世界平和
・日本発のインデックス(指数)で、世界の国や企業を格付けし、日本にとって有利な方向に導く
・P2P金融:個人間でお金の貸し借りができる金融の仕組み。Zopa社。
・人的資本への投資は最もリターンが高い投資の一つ。社会人に対する教育ローンは品揃えは潤沢ではない
・政策で重点分野を指定することは特定産業に補助金を与えることで、市場がゆがむ。政府がやるべきは企業の成長を促す規制改革
・新しい企業や産業に資金や人材が流れ、そこで新たな付加価値が産み出される循環をつくる

<その他>
・果たしてガラパゴス化した企業だけの国になったとして、それらの企業は棲み分けられるのか?
・世界が日本に追いつけていない面もある。日本が最先端から降りる必要はない
・ガラパゴス化した日本は、ガラパゴス諸島のように世界遺産登録されるか?絶滅しないように保護されるか?
・独自進化したからといって魅力がないわけではない

-目次-
第1章 ガラパゴス化する日本
 ガラパゴス化とは何か?
 日本製品のガラパゴス化 ほか
第2章 なぜガラパゴス化はよくないのか?
 柔道とJUDOの教訓
 日本製品のガラパゴス化の行き着く先 ほか
第3章 脱ガラパゴス化への道
 海運業界のケース
 トレンドマイクロのケース ほか
第4章 脱ガラパゴス化へのヒント
 企業の新しい戦略遂行能力 ―ゲームのルールをつくる、ルールをかえる
 霞が関商社化シナリオ ほか