読書メモ
・「資本主義はどこへ行くのか 〜新しい経済学の提唱」
(滝川 好夫:著、PHP研究所 \1,500) : 2011.02.22
内容と感想:
リーマンショック後には、一世を風靡した強欲資本主義、市場原理主義を反省するような本や、
「こうなることは分かっていた。それ見たことか」というような分析本など、それこそ資本主義に乗って出版された本は数知れず。
ある意味、本書もそうした便乗本のうちの一冊であるが、タイトルが示すとおり、それまでの経済活動を反省し、新たな方向性を探ろうとした本である。
「日本の協同組合組織の父」といわれる賀川豊彦を取り上げながら、「新たな経済学」への道を指し示している。
著者が唱えるのは道徳にもとづく「道徳経済」。「道徳の欠如が経済社会をダメにし」たと彼は考えている。
なんかカビくさい道徳を持ち出してきたなと感じる人も多いだろう。改めて言われるまでもなく、日本はかつては道徳経済だったのではないか。
それほど欧米流のやり方に毒されていたということか。
リーマンショック前は無限の欲望を追及する「強欲」資本主義者たちが世界経済をリードし、かき回していた。
我々はショックの後に、資本主義とは暴走するもの、欲望はなかなか止められない、ということを学んだ。
今なお世界はバブル崩壊のダメージをひきずるが、果たして「道徳経済」だけで人間の暴走は止められるのか。
欲望に取り付かれた人間に道徳を説いても聞くのか疑問だ。バブル崩壊で大損して痛い目に合わないと目は覚めないのではないか。
さて、賀川は「人格社会主義」という概念を提唱した。また、「大きくなるために泥棒する国家を恥じる、その無道徳、無思想、無節操を恥じる」
とも書いている。この一文の国家を企業や一個人に置き換えてみても通用する言葉である。日本は「恥の文化」と言われるが、世間の目を気にしながら、
自己抑制していけるのが美徳である。今後もそれを忘れないことだろう。
○印象的な言葉
・オバマが唱える「米国民の融合(unity)」。社会連帯意識
・道徳経済。道徳の欠如が経済社会をダメにしている。経済学者はそれを合理的行動とさえ説明する。自立・互助・自制が指針
・金融仲介機関の役割:情報の非対称性を克服するために監視活動を行なうこと
・賀川豊彦の生き様:人格社会主義。高度の意識結合の社会
・無限の欲望を満たすことを至上命題としていてよいのか
・経済社会を安定化させるための第一歩は人間の尊厳を基礎にしたもの
・分業化が一人で何でも行なっているときに得られていた悦びを奪う。やりがいを奪う。人間が機械化する
・明治維新ができたのは日本人の社会連帯意識(道徳)によるもの(⇒今、我々は連帯できるか?震災を契機にできるか)
・道徳を欠いた失業者は寄生する
・日本の間接金融は人格を有する取引を行なう。直接金融、証券化では人格を有する取引はない。それが心理的不安、倫理の欠如をもたらす
・組合金融(⇒マイクロファイナンスに近い)
・竹中平蔵の経済学は「合理的経済人」というロボットを経済主体としている。精神(心)の問題を無視
・個々人が少しの不自由を忍び、全体として生きる
・経済の基本「経世済民」はモノ中心主義のアイデア
・生理経済→感覚経済→心理経済(心の豊かさ)
・人間は競争を一種のゲーム感覚で楽しむところがある
・一方の福祉の向上が他方の福祉の犠牲の上に成り立つ「生存互助:は好ましくない
・労働能率を上げる:個性の目的に合致。自治的な作業。結果が目に見える。作業に変化。最小限の生理的・心理的疲労感
・需要から「必要」の経済へ
・希望は教育。他者の痛みを理解する
・幕末志士の生態は「設計図も後継者もない革命児」「代策をもたぬ現状破壊の専門家」(マリウス.B.ジャンセン)
・忍耐は一生の間、精神(心)の傷になる
・大きくなるために泥棒する国家を恥じる、その無道徳、無思想、無節操を恥じる(賀川豊彦)(⇒国家を企業に置き換える)
・社会化された人間:集合体から課せられた役割を分担することを自発的に受け入れる。他者と協働しながら機能的要件に貢献する
・恥の文化。世間の目。自己抑制、無我
・貧民にも同情されることを好まない自我がある。同情は貧民を侮辱する。慈善主義が貧民を増加させる。慈善は資本家の自己防衛のための逃げ道(賀川豊彦)
・ボランタリズム:進んで重荷を負う心意気
・NPO、NGO:地位、名誉、力、お金を中心としない生き方
・非道な行為に対して、個人的責任に全部を帰すのではなく、社会に罪を六分もたねばならぬ。困窮から生まれる悲劇の多くは社会の問題(賀川豊彦)
・宗教の力、信仰の熟度とともに非寛容な性格は高められていく。それを抑えていくことが「共存」の必須条件。他宗他派に寛容な宗教はもはや宗教ではなくなっている。
共存のための最上の条件は宗教を捨てること(大宅壮一)
・人格は人格を呼び集める。利のために集まる者は不利な状況になると散っていく
-目次-
序章 21世紀の経済社会の課題
第1章 なぜ、困窮が発生するのか
第2章 無限の欲望をどう満たすのか
第3章 資本主義と社会主義、そして道徳経済
第4章 英米型資本主義と日独型資本主義
第5章 道徳経済をどう運営するのか
第6章 道徳経済の組織を知る
終章 自立・互助・自制のすすめ
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