読書メモ

・「知の超人対談 〜岡本行夫・佐藤優の「世界を斬る」
(岡本行夫・佐藤優:著、産経新聞出版 \1,429) : 2011.01.13

内容と感想:
 
2008年1月から1年間、産経新聞に月一回連載された対談を再構成した本。「知の超人」とは何とも仰々しいタイトル。 対談者二人が政治経済、外交・安全保障にわたって今の日本のあり方への危機感を語る。 「21世紀日本の生き残り戦略」が最大のテーマ。
 佐藤氏は現代を「新たな帝国主義時代」と見ている。それは必ずしも植民地を必要としないという。「資本を輸出することで市場の争奪戦」をするという時代なのだ。 また、第12章では岡本氏が経済危機後の「世界経済のエンジンになり得る国」として、若く人口が増え続け、テクノロジー・資源があり、透明な経済システムがあることを挙げている。 そんな国はアメリカしかないとし、「結局、世界はアメリカに頼らざるを得ない」と述べている。 しかし政権交代後、日米関係が希薄になってきていることに懸念を漏らしている。 「おわりに」では編著者の高畑昭男氏が対談の中で印象に残った点をこう書いている。 国際政治の世界では日本的な「話せば分かる式の思い込みは一切通じない」と。 性善説で外交をやっていると痛い目にあうと、理想主義でなく現実主義の外交を求めている。 日本企業がどんどん海外進出を進める中、政治が外交音痴で足を引っ張ることがないよう願いたい。

○印象的な言葉
・古今東西の歴史、伝統、文化、民族、宗教、哲学、文明史観などを縦糸・横糸に掘り下げる
・米国のネオコンは社会主義者が一挙に右に振れたもの
・中国の科学的発展観。ロシアのユーラシア主義(欧州でもアジアでもない)
・個人や企業、国際機関、地域共同体が主権国家と同じような国際政治のプレイヤーになる
・日本人の「誠」は一生懸命やることだけ。価値観や倫理観の欠如
・中国は能力主義がしっかりした社会。共産党の整然たる世代交代
・インドは冷戦時代、米ソを手玉に取ってきた。現実外交のすごさ
・「菊と刀」:戦時中、敵国日本の文化・行動を分析
・新帝国主義:植民地を必要としない。資本輸出で市場の争奪戦をする
・民主党の国連主義はロシアと中国の判断に従属させること
・性悪説で組み立てた外交がいい外交。性善説では危ない。日本だけが性善説でいる
・革命がやりたかった社会主義者のマルクスと、資本主義が強いことを証明したマルクス
・政治はナショナリズムを操る誘惑に陥りやすい
・アメリカ人は短期的な分析では弁が立つが、全体を俯瞰した議論は苦手
・英国は決してやりすぎない、という柔軟な経験則と現実主義・実利主義をもつ
・ロシアの国家資本主義体制
・日米露の北方同盟で極東開発を進める。中国への牽制
・米大統領3大教書:一般教書、予算教書、経済報告
・日本では「足して2で割る」手法が重ねられてきた
・地域の意向だけでは国の安全保障はできない
・本土の米軍基地は65%削減されたが、沖縄は15%のみ
・沖縄に残る「二重帰属」意識、冊封体制の記憶。中国にひきつけられる恐れ
・アラブとはアラビア語を話す国という意味。22の国と地域がある
・税金を使う人道支援では国益を実現していく視点が必要
・ロシアはロシア領ではないがロシア軍が自由に出入りできる領域を必要としている。緩衝地帯として
・ウラルの西の油田やガス田は資源が残り少なくなってきた
・放射型外交(発信する外交)、保護型外交(防御的)、妥協型(発信できない)
・オバマの思考は中道。第3の道。ポスト・ベビーブーマー世代。何者でもあるし、何者でもない。
・アメリカのことを真面目に思い、アメリカのために行動する人がアメリカ人
・田母神論文の問題は空自の最高幹部の対米観にアメリカが不安をもったこと
・対米外交はアメリカの変化の把握と人脈づくりから
・ロシアの価値観は「力がすべて」。自分の縄張りだけ確保すればいい
・米国の力を過小評価すると進路を誤る
・ユダヤ系人口530万人のうち100万がロシア系。メドベージェフ政権にはユダヤ系が周辺に多い。イスラエルとも協力的
・小沢一郎は政局に有利かどうかだけで180度態度を変える
・パキスタンの核開発のオーナーとスポンサーはサウジ。サウジも核をもっているかも

-目次-
21世紀の世界の展望
冷戦後の世界と新帝国主義
国家とナショナリズム
アメリカの民主主義、ロシアの民主主義
国家の力の源泉はどこから?
外交官とは何だろう
沖縄問題の真実
イスラム、中東世界、そして日本
新冷戦が始まったのか?
欧州とロシア ―永遠のすれ違い?
オバマのアメリカが始まる
2009年、オバマと世界