読書メモ
・「たった1%の賃下げが99%を幸せにする 〜雇用再生へのシナリオ」
(城繁幸:著、東洋経済新報社 \1,200) : 2011.03.04
内容と感想:
45〜55歳正社員が年間受け取る給与総額は約45兆円。
そのうち1%、4,500億円を非正規雇用側に分配することで、10万人分の雇用を維持できる、とする。
つまり労働価格を切り下げることで、失業率を低く抑えようというのが著者の主張だ。
一種のワークシェアリングといえる。
これを実現するには正社員層の合意を得ることが必要だ。たかが1%、されど1%。
皆で痛みを分かち合おう、と思いを一つにできれば、オランダのように実現できるだろう。
政府が改革を唱えながら、その実、遅々として改革は進んでいないように見える。
それは既得権益をもつ勢力が抵抗するからだ。正社員も一種の既得権となっている。
著者は国全体がもう一段ほど落ちてから、あらゆる組織が再編され、改革の議論は前進する、と考えている。
日本経済の落ち込みが予想以上に激しいため、日本型雇用は今後5年で崩壊すると予想する。
既得権はなくなってしまえば調整の必要はなくなる、といかにも簡単なように書いているが、世の中そんなに単純ではないだろう。
「アナザーウェイ」と称したコラムが各章の終わりにあるが、これが紛らわしい。
シュミレーションというか未来予測(願望か)らしいのだが、知らずに読むと事実と思い込んでしまう。
○印象的な言葉
・雇用の流動化を前提とした組織に変わるほうが望ましい
・「希望のなさ」が心を蝕む
・年功序列はエンジニアを守れない
・職務給:労働者の1/3である非正規労働者は既に職務に値札が付いた職務給で働く
・正規労働者と非正規との賃金格差は生産性の差をはるかに上回る。不公平
・欧州では最低賃金制の賃金水準の上に職種別賃金が企業を超えた社会的な基準として存在する
・高齢フリーター問題が顕在化するのは20年後。そのとき社会は大量の血を流すことになる
・職を与えて世帯当たりの所得を増やすほうが児童手当を上げるより効果的
・移民を受け入れるには社会インフラ整備への莫大なコストが必要
・学生運動:大学生がただの人やただのサラリーマン予備軍になる不安と憤怒が原因。運動は挫折し、「知」も捨てた。能力や知識は要求されず組織に従順で真面目であることが求められた
・重厚長大系企業はエンジニアの長期育成、10年スパンでの技術蓄積をはかる
・IT系企業は職務年俸制をベースに優秀層を取り込む。昇格・降格を柔軟に行なう
・役職に応じて広い視野・教養が必要。政治経済についても一定のオピニオン発信が求められる。10年単位での知識の蓄積が必須
・正社員で採るのは極力、幹部候補足りえる人材のみに限定していく
・蓄積より革新
・日本企業にはMBA取得者、ビジネスエリートを遇するキャリアパスがない
・職務給と職能給(年齢給)の折衷型;序列と報酬を切り離す。職能給を抱えたまま、柔軟に序列を上下する。成果分は賞与で上乗せする
・組合組織率の低下:組合費を払うのが馬鹿らしいから払わない人が増えた
・年功序列や終身雇用は60〜70年代に形成された最近のシステム
・日本で改革が停滞する理由:年齢と既得権益の量が比例。ベテランほど先送りするインセンティブをもつ
-目次-
第1章 正社員と非正規の間にあるもの
第2章 生き残る21世紀型人材像
第3章 年功序列は日本社会も蝕む
第4章 雇用再生へのシナリオ
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