読書メモ
・「資本主義2.0 〜宗教と経済が融合する時代」
(島田裕巳、水野和夫:著、講談社 \1,600) : 2011.03.03
内容と感想:
リーマンショック前に出た本。宗教学者とエコノミストの交錯。
資本と国家が一体化していた資本主義は終わり、資本が国境を越えグローバルに動く時代に。
既に欧米先進国を追い越し、先進過ぎて「最先端」の苦しみを味わっている日本の未来を考える。
「資本主義1.0」は16世紀からの近代資本主義。
金融帝国、資本帝国化するのが「資本主義2.0」。
その主役は資本家。
資本を持たざる者、労働のみを提供する者は生活水準が下がっていくことになる。
経済行動を経済ツールだけでとらえていても限界がある。
ほかの学術からの視点を交え、多次元的に分析することが必要。
その一つが宗教学。
○印象的な言葉
・17世紀初頭のジェノバと日本の共通点:複数年に渡って長期金利が2%以下で推移。ジェノバの低金利は中世封建社会・荘園制経済の終焉期に起きた。低金利は繁栄の証。
世界中の富が集まったということ。そのため資本一単位あたりのリターンが低くなる
・改革しなくても成長する。グローバル時代は新興国の近代化と連動して景気が回復する
・イスラム教は神道に近い
・500年のときを経て復活する帝国群。オスマン帝国、ロマノフ王朝、ムガール帝国、清帝国
・経済と宗教のリンクが切れた
・格差2.0
・ローマ帝国が最も繁栄した時期と超低金利の時期は一致
・金利を体温に例えれば、体温が低すぎると活発な活動ができなくなる
・日本はものすごいスピードで近代化したため欧米を追い越してしまった。その矛盾や副作用が出ている。世俗化が早い段階でなされた、宗教の力が弱められたことが背景
・米国の「強いドル政策」が「金融帝国」化宣言だった
・株式のリスクを考えると最低でも債券の利回りに比してプラス5%は欲しい
・2000年の日本のドル買い介入では米国の経常赤字の42%にあたるドルを買った。公的資金注入の役割を果たしたようなもの
・バブルの起きる周期が短くなりつつある
・日本は不良債権処理で46兆円の公的資金を使い、銀行は利益からの50兆円強で、合わせて100兆円で償却した。米国は380兆円を償却しなければいけない。
金融機関が一兆ドルを引き受け、残りを米国の家計が負担する。毎年、0.3兆ドルの消費を控えると返済に9年かかる
・金余り吸収装置の役割を果たす戦争、宗教
・人間がお金をもつと暴走する。それを抑える仕組みとしての宗教
・創価学会は人が集まるコミュニティとしての性格が特徴
・宗教もグローバル化し、新宗教がBRICs諸国でも台頭。経済発展、格差、社会矛盾、それらを解消するため
・基金をつくり順番に巡礼に行けるようにしたのがイスラム金融の始まり。日本の「講」システムに似る。講では仲間内で困っている人に融資
・ポスト工業社会。それを担うのは個人向けサービス産業
・雇用者所得が実質GDPに連動しなくなった。2002年ごと春闘は死を迎えた
・ハイテク化して価格が上がる自動車、価格が下がるパソコン(⇒資産価値の有無の差)
・中国では文化大革命で貴重な文化が失われた。文化の連続性が失われた
・莫大な資金のある特定の人しかできず、他人に損をさせるような金儲けのやり方は間違っている
・市場原理主義:市場まかせの裏には神まかせの信仰がある。根拠のない前提の上に経済学を打ち立てている。宗教に近い。マルクスの資本主義崩壊の予言は終末論と同じ。
マルクス主義で宗教を否定したはずだが、その世界観はユダヤ・キリスト教の枠の中にあった
・16世紀の先進国イタリアでも、後進国イギリスでも実質賃金は一世紀で半減した。それが日本でも起きている
・経済は仏教の因果の法則で動いている
・釈迦は正しく認識することで苦から解放されると考えた
・日本の二大政党はそれを支える社会的な基盤が欧米に比べて明確ではない
・魅力的な投資先がないのは、資本主義1.0の限界
・これから数世紀はオイルマネーで潤うイスラム圏が鍵を握る。イスラム金融は投資に一定の歯止めを設けている。喜捨を推し進め、富の社会的な還元を組み込めば可能性は大きい
・宗教は戒律や教えによって世俗の権力を縛ろうとするが、日本ではそれがなかった
・「明日は良くなる」という思いが支える
・一人あたりGDPが34,00ドルある日本が豊かでないというなら、新興国にとって日本はモデルにならない国
・日本人の無宗教は強み。他の宗教と対峙することにならない。外国人を受け入れやすい
・ケインズは溢れかえる失業者を目の当たりにして、「市場にまかせておけばうまくいく」という考えを改め、ケインズ経済学を打ち立てた
・利益の極大化原理とは別のところに、人を動かす「もっと大きな力」がある
<その他>
・プロスポーツでは一歩先に地方分権が進んでいる
-目次-
序章 これまでの経済理論は通用しない
第1章 1995年に何が起きたのか
第2章 マルチ商法国家の脅威
第3章 なぜ経済を語るのに宗教が必要なのか
第4章 世界経済を支配するイスラム
第5章 富者と貧者 ―引き裂かれる日本
第6章 「資本主義2.0」の時代へ
終章 これからの五百年をリードする日本
|