読書メモ

・「続・病院が大震災から学んだこと 〜震災から10年
(澤田 勝寛:編著、エピック \1,238) : 2011.03.23

内容と感想:
 
阪神・淡路大震災から10年後の2005年に出た本。 震災当時、神戸の新須磨病院院長として自らも被災した著者が、医療従事者として10年前を振り返って、その教訓をつづった本である。
 震災直後の病院ではレントゲンも撮れず、医療機器も使えず、手術もできない状況。負傷者が殺到したという。 根拠のない噂、疲れ、指揮系統の乱れ、見通しのなさから、現場の職員たちを混乱や動揺が襲ったという。 そうした状況を改善するために著者は、職員への情報提供のために「災害対策ニュース」を定期的に発行した。 その最終号では、多くの教訓を得たこと、それを後世に伝えることが自分たちの役割だと書かれている。
 私は医療とはまったく無縁の人間だが、今回の東日本大震災の医療面での問題などを報道で伝え聞く限りでは、 本書で書かれているような教訓が活かされ改善されている面もあるように見える一方、まだまだ不十分だと思われる点もある。 阪神・淡路とは地域性の違いもあるが。
 本書は震災時医療がテーマであるが、特に、病院としての備えとして3章では資金的な問題に触れている。 震災後は収入がなくなることを覚悟しなければいけないとか、そのためにも平素から資金調達や自己資本整備が重要だと述べている。 興味深かったのは4章だ。 「医療におけるリスクマネジメント」と題して、 企業価値とリスク、医療におけるリスクの分析、医療事故などリスク要因についての分析、事故対策のマニュアル化について書いている。 その内容は病院だけでなく、多くの企業や組織のリスク管理のヒントとなると思われる。

○印象的な言葉
・職員に正確な情報を提供し、見通しを語り、希望を与える。指揮系統の一元化
・災害対策本部の設立、組織図づくり
・復旧状況の把握、補修・修理の以来、勤務体制の変更、職員の被災状況把握、マスコミ対応、行政との対応、救援物資受け入れと配布
・災害対策ニュースの発行
・こんな時だからこそ、笑顔でいよう
・ガンマナイフ(放射線治療器)にひびでも入れば、一帯は放射線汚染地域となる
・疲労からくる局所免疫の低下
・緊急時、極限状態でも作動する防災管理体制
・自衛隊は自己完結型の組織。自分たちのライフラインは自己で確保
・不自由さは戦時中よりはるかにマシ
・軽症では病院に行かないこと。破壊消防を覚悟する
・燃料電池が普及すれば補助電源の問題も解決
・災害であっても国全体が滅びるわけではない。必ず援助がある。短期間の困窮生活に耐える
・原因を構造化し分析する
・単純化、標準化、システム化が過ちの頻度を下げる
・熟練したものが師匠となり、道を極めた人は名人となる
・医療は自動車産業に次ぐ大きな産業
・非常事態に対する手引書を常備する
・極限状態において何もかもむきだしで助け合い、励まし合って生まれた信頼感

-目次-
はじめに
1章 医師の被災日記
2章 病院の体験 ―その時、職員たちは
3章 病院が阪神大震災から学んだこと
4章 医療におけるリスクマネジメント
5章 病院経営戦略
危機管理能力は人で決まる