読書メモ

・「武器なき“環境”戦争
(池上 彰、手嶋 龍一:著、角川SSC新書 \780) : 2011.01.24

内容と感想:
 
21世紀は「環境の世紀」と言われる。 国際政治でも「環境」は主要なテーマになっている。そこが外交の「戦場」になっている。 兵器のように直接、命まではとらないが、環境問題を武器にした世界の覇権争いが繰り広げられているのだ。 本書は共著者らによる環境をテーマとした対論である。そうした戦場で日本がどう戦っていけばいいかを考えている。
 鳩山前首相がぶち上げた「CO2排出量25%削減目標」を痛烈に批判している。 それをやり遂げるために、どれほどのお金がかかるのか、「正確な試算も精緻な情報もないまま、政治の決断がなされている」と。 そもそも既に省エネ大国の日本が他国と同じ基準で削減目標を競っても、自分が不利になるだけなのだ。 鳩山氏の発言は単なる国際舞台での格好付けと見られても仕方がない無責任なものだった。国内産業界の反発が大きいのは当然である。
 その上で、第5章では池上氏は排出量とは異なる基準を目標にすることを提案している。「エネルギー効率の向上」を挙げている。 国際交渉ではそうした自国を有利にするための駆け引きも大事だということだ。 愚かなリーダーが戦略ももたず、ただの思いつきで発言することは国益を損ねる以外の何ものでもない。 今後も民主党政権の「環境」外交には注視していく必要がある。

○印象的な言葉
・京都議定書は欧州が得をする不平等条約
・参加国が限られる排出権「国際取引」
・カーボン通貨:排出量取引を通貨の形にしたもの。英国では社会実験も行なわれている
・海底油田はとてつもない圧力によって、海底の地中に封じ込められている。世界の石油の4割が海底油田から採掘されている
・日本で消費電力を自然エネルギーで賄おうとしても5%が限度
・日本の送配電線網はすでに「スマート」
・1997年の京都会議では日本は既に世界に冠たる「省エネ大国」だった。日本は分不相応な削減義務を背負わされてしまった
・英国人の究極の武器は「英語」。アメリカも英語力では英国に及ばない
・EUでは2005年から域内での排出量取引制度が発足。取引の主な担い手は金融関係者。取引の大部分は投機目的。ポスト・サブプライム化する可能性
・温室効果ガスはCO2だけではない。6種類ある。CO2で換算するのが一般的
・厳しい排出規制は工場の海外移転を加速させる
・テイク・ノート:ノートに書いておいた、程度のこと
・外交とは言の葉による戦争
・環境税(地球温暖化対策税)の導入:官にお金が入り、官の権限を肥大化させるだけ。削減を促す減税政策のほうが望ましい
・日本海沿岸の松枯れの原因は中国からの酸性雨(雪)
・東シナ海の白樺ガス田では、中国は独自開発ではペイしないため日本を共同開発に引き込んだ。既に中国にはパイプラインが伸びている
・IPCC評価報告書に次々に誤りが見つかり、環境懐疑論者を勢いづかせている。「温暖化説がデタラメ」とするには根拠に乏しい
・温暖化「懐疑派」は長い目で見て、温暖化が進んでいること自体は認めている。そのペースや影響の見積もりが過大に過ぎると疑問を呈している
・メディア・リテラシーが重要。メディアとの付き合い方。
・軍艦、核兵器、CO2という人類が生み出したモンスターをどこまで減らすことができるか
・共通の通貨なき「東アジア共同体」は魂が入っていない地域統合になりかねない

-目次-
プロローグ ヨーロッパ発「環境の世紀」
第1章 「石油の時代」、終わりの始まり―
第2章 すべては「京都」から始まった
第3章 COP15は、なぜ「失敗」したのか?
第4章 地球温暖化懐疑論とメディアリテラシー
第5章 「小さな国」からの脱却
エピローグ 本質を読み解く力