読書メモ

・「ウェブは菩薩である
(深見 嘉明:著、NTT出版 \1,500) : 2011.02.21

内容と感想:
 
ウェブで情報を探したり、提供するための仕組み「アーキテクチャ」の事例を取り上げて、その本質を解説している。 本書はソーシャルタギングをテーマに著者が書いた修士論文がベースとなった。 ウェブのコンテンツに付ける「タグ」がテーマの中心。その他、RSS、Google検索の仕組み、Amazonの商品推奨の仕組みなどにも触れている。 メタデータやCGM(ユーザが発信する情報)の本質を知ることができる。
 ブログやTwitterのユーザ拡大で、ユーザがコンテンツを作成し、情報発信し共有することが広がった。これがCGMだ。 そうした状況を踏まえて、第11章では「各自の自発的な行動が結果的にみんなにとって役に立つというしくみ」を「意図せざる協働」と呼んでいる。 そうした「協働を実現する場をウェブだけでなく、あらゆる場面に広げていくことがこれから必要なのではないか」と、意図せざる協働の可能性にも期待している。 そのためにはそれを成立させるための仕組み、「アーキテクチャを設計することが必要」だとも言っている。
 CGMのように「一人ひとりが本当に自分が好きなことを、自分のペースで行なって、それが誰かの役に立つ。そうしたことが世界中で少しずつ積み重なって、みんなの日常が効率的になっていく」。 それが「将来、万人にご利益をもたら」すことから、「まるで慈悲深い菩薩のよう」に見えたところから、タイトルの「ウェブは菩薩」というたとえになったようである。
 エピローグではウェブの普及により、「ウェブが弱者や少数者の力になっている」ことに触れている。彼らは「ウェブで情報交換し、自らの置かれた立場をよくしようと行動し始め」ている。 こうした動きは最近の北アフリカや中東での民主化運動でも顕著になってきた。虐げられてきた人々がネットを介して急速に結び付き、行動し影響力を発揮できる素地になっている。 彼らがウェブに菩薩のようなものを感じているかどうか分からないが、大きな力を得たと感じていることは確かだろう。

○印象的な言葉
・タグの公開・共有により動画に字幕や解説を付ける。ボケ、ツッコミを演じる
・閲覧履歴など過去の情報をいくら活用しても、直面している「今」の文脈を捉えて情報探索することは難しい
・ラベル(メタデータ)による分類は階層構造よりも柔軟にグループ分けできる
・ラストFM:曲の再生履歴をもとに好みに合ったCD、アーティストや、似通った好みの人を推薦するサービス
・ソーシャルブックマーク:URLにタグやコメントといったメタデータを付けて保存。登録日付も記録
・専門家独自のものの見方や感性
・タグクラウド:使用回数の多いタグほど大きな文字で表示。直近の期間で使用回数が多いものは濃い色で表示したり強調色で表示。その人のトレンドを把握。 その人がどのようにして情報を整理しているか、ノウハウを盗める
・アマゾンは自社の商品データベースを公開し、利用してもらうことで支店を増やしている。アマゾンのデータベースが標準規格となっている。 他社の飲食店情報、不動産や中古車情報データベースもある
・履歴情報を登録・公開することで得られる利便性。プライバシーの問題。
・利用者にいかに負担をかけずに情報生成に参加してもらうか
・観光地案内のようなコンテンツの集合(⇒地域活性化に活用。地域ぐるみの情報提供)
・ウェブの普及によりマイノリティの人が直面する問題がクローズアップされるようになった。ウェブで情報交換し、自らの置かれた立場をよくしようと行動し始めた。 ウェブが弱者や少数者の力になっている
・コンテンツを整理するという全く個人的な行為により価値が生み出される
・分類は権力。分類の大衆化。人類が世界に意味づけをする上で基本となるのが、分けるという行為

-目次-
プロローグ:ウェブの本質は細部に宿る
第1章:「才能の無駄遣い」というラベル
第2章:空気の読めないグーグル先生
第3章:プッシュからプル、ふたたびプッシュへ
第4章:代理人(エージェント)はメタデータで動いている
第5章:フォルダを捨て去ったグーグル
第6章:アマゾンはワタシよりもワタシの好みを知っている?
第7章:合コンでのアドレス交換とマイクロフォーマットの意外な関係
第8章:「これはひどい」で共振するコミュニティ
第9章:人の目線でものを見る方法
第10章:デルのリアルとアマゾンのリアル
第11章:意図せざる協働
エピローグ:メタデータが世界を変える