読書メモ

・「デフレと円高の何が「悪」か
(上念司:著、光文社新書 \740) : 2011.01.06

内容と感想:
 
このままデフレが続けば昭和恐慌の二の舞。デフレや円高は嬉しいという議論は「トンデモ」だと斬り捨てる。 デフレ脱却のために政府は日銀に国債を引き受けさせてカネをばら撒け、というのが本書の結論。 しかし、そんなに簡単なことなのかと私は懐疑的である。ちゃんとシミュレーションした上での結論なのか。
 「デフレ歓迎」と庶民感覚でデフレを語るな、と説いているが、庶民には庶民の目の前の生活がある。庶民に為政者の視点を持てと言われても難しい。 また、本書は円高をネガティブに見ているが「円高は国益」にも一理ある。 昨今の輸入する原材料価格の高騰は、企業のコストアップ要因となるのだから、円高で軽減できれば助けにはなる。
 デフレは「政府と日銀の経済政策の失敗という人災」というのは多くの人が認めているところ。 では、どうすればデフレ脱却できるか? 第3章ではデフレ解消策として、定額給付金のようなものを配り、物価が下げ止まって、上昇に転ずるまでそれを「続けることを約束してしまえば」、いつかモノが売れ始める、と提案する。 それには財源が必要だが、国家財政は火の車。財政再建が先か、景気回復が先か。答えは明白だが、景気優先では回復する前に財政破綻してしまう恐れもある。 財政再建を果たすためには「名目GDPを増加させるしかない」、消費を刺激するため「減税こそ検討すべき」というが、それをやるにも必要なのはお金だ。 どれくらいの国民が借金大国日本の「国家破綻」の危険を身近に感じているか分からないが、そうなる前に国のリーダーは決断と納得のいく説明をするべきだろう。 時間はそう残されてはいない。

○印象的な言葉
・コードネーム「静かな革命」
・お金の供給を怠るとお金が不足し、人々はモノよりお金を欲しがる。これがデフレ。浅ましい時代
・デフレのデメリット:失業。住宅ローン破綻が増える、企業倒産が増える。借金返済の負担が契約上の利率より重くなるため
・実質金利:名目金利に物価の下落(上昇)を加味
・デフレ下では「物価下落期待」がある。今、モノを買うのを手控える
・行き過ぎたデフレでは不動産や株式など実物資産が売られ、現金、預金、国債に資金がシフト。政府の信用があるとみんなが思っているが、信用は悪化している。 これは持続可能ではないためバブルといえる。ショックを和らげながらお金の価値を殺していく必要がある。
・円高では日本人の労働者の賃金が高くなる。企業は海外へ脱出、失業が増える
・中国からの輸入額の増減とインフレ率には相関性はない
・CPI(消費者物価指数)の算出は585品目のサンプル調査から行なう。支出割合の大きいものから順に指数に採用
・2006年の量的緩和解除はCPIが安定的にゼロ以上になったと判断したから。ゼロ金利政策も解除
・城山三郎は日本をダメにした人を感動的に描くのが上手い困った人
・政府は国内に多様な産業が生まれるような土台を作るだけで、あとは起業家に任せるしかない
・日銀による国債買い切りが増額されれば財政規律への不信感から長期金利上昇を招く恐れ
・日本で金融資産5億円以上の超富裕層は約6万世帯。全体の0.12%
・教育、少子化対策投資などによる需要拡大政策
・お金を刷り続けてもインフレにならないなら結構なこと。財源不足でできなかった施策を実現できる
・ハイパーインフレの原因:戦争や間違った政策による生産設備の破壊や機能停止、極端な生産量の低下
・第二次大戦で日本は国富の1/4を失った。生産水準は戦前の2〜3割に落ち込んだ。敗戦でも日本はハイパーインフレにはならなかった
・消費税を増税してもお金そのものは増えない。増税分を価格に上乗せできればいいが、それができない企業は増税分が新たな経費として増えることになる。価格が上がれば需要は減る
・国の純債務387兆円のうち93%は国民が政府に貸している
・1920年代の世界恐慌は世界規模のデフレスパイラルだった
・戦前の昭和恐慌による経済的な困窮は人々の心を蝕んだ。将来に暗い見通ししか立たなくなり絶望した。そうした空気が開戦に導いた
・戦前、高橋是清は金本位制からの離脱と日銀による国債の直接引き受けを実施。景気は回復し、引き締めの時期が来た。緊縮財政に転じたが、軍事費カットが軍部は面白くなかった
・戦前の議会制民主主義への絶望が軍への期待に転じた。2.26事件の首謀者に国民も同情的だった。軍賛美が進んだ
・日本人は、昔から「根本的な解決」が大好きな「根本病」
・中央銀行の職員は選挙で選ばれたわけではない。金融政策の目標も手段も勝手に決めるべきでない。中央銀行の独立性とは目標を達成するための手段の独立性のこと

<その他>
・庶民は金がないのに市場には金が余っている矛盾。必要としている人の手元にお金がない
・金融緩和しても庶民には直接お金は入らない。子供手当てのようにして配るしかない。ただ配っても国の借金が増えるだけでは誰も消費しない
・リーマンショック後、諸外国は以前の2〜3倍のお金を供給。
・供給過剰、モノ余り、需要不足をどう解消するのか
・従来の輸出産業重視では解決しない
・借金大国日本。もう徳政令しかない?そんな政府を国民は許せるか?といって日本を脱出するとは思えない

-目次-
はじめに 
第1章  デフレと円高は恐ろしい ---- 生活に与える諸影響
第2章  物価の動きにチェックせよ ---- デフレが進んだ理由
第3章  日本に無税国家が誕生する? ---- 金融政策と金利のメカニズム
第4章  金ならなる、心配するな ---- 財政と財源を考え直す
第5章  歴史は繰り返す ---- 昭和恐慌から学べ
第6章  今、やるべきことは何か ---- 具体的な政策を実行せよ
おわりに