読書メモ
・「経済危機は9つの顔を持つ」
(竹森 俊平:著、日経BP社 \1,600) : 2011.02.23
内容と感想:
「日経ビジネスオンライン」の掲載を整理した本。2009年8月に出た本。
9人の対談者との議論を通して、経済危機というドラマの9つの異なる顔を見つめている。
「失われた10年」の間の政策の失敗や成功を振り返りながら、今後の世界経済の行方を予想していこうとしている。
地方や産業、政治の視点など異なる見地から日本経済の希望も探ろうとしている。
第8章の対談では中原伸之氏が、
歴史的に見て、社会を動かしてきたのは政治力、経済力、宗教権力の3つだとした上で、
「この30年間は経済権力が最上位」にあったとし、それが歴史を通じてもほとんど見られない出来事だと分析しているのが印象的だった。
戦争のように力と力が直接ぶつかる戦いは減り、国や企業が資本の力で世界を股にかけて動き回る現在の状況を的確に言い表している。
また、第9章で著者は竹中平蔵氏は、「日本経済の恩人である」と持ち上げる。不良債権処理の功績を評価しているようだ。
その竹中氏は日本経済の展望をこう語っている。
「財政が危なくなった時点で、次の新しいクライシスに向かう可能性がある」。
もはや日本国の財政は破綻寸前。このまま愚図愚図していると本当に日本は破綻しかねない。
政治家も国民も本当に危機感を感じているのだろうか。見て見ぬふりをしていても、結局ツケは自分に回ってくる。
「沈むときは皆一緒」でいいのか。
かといって託せる政党も政治家も不在。我々は「自分事」として考える必要がある。
○印象的な言葉
・企業家による投資行動の決定はアニマル・スピリット、一種の信仰・信念に基づいてなされている(ケインズ)
・現代経済の薄皮の一枚下にある「中世」。黒魔術のような金融商品
・経済について考え、発言していること、そのこと自体が経済を動かす
・「地方からの文化の発信」という大義名分をつけ、有名建築家の名前をハコモノに付与したバブル崩壊後
・東京・汐留の高層建築ラッシュ。コンセプトも統一感も、魅力もない
・持ち家政策は人間を猛獣化する。自分の城を守ろうとする
・江戸から明治までは賃貸的なシステムにより支えられていた。家を資産と考える発想がなかった
・商売は不確かなところに行かない限り、絶対に儲けは出てこない。予測不能な新規な領域に踏み込まざるを得ない
・中国人は歴史を大事にする。歴史にどう評価されるかを意識する。時間を超えた価値
・銀行業とは農耕民族型ビジネス。投資銀行は狩猟民族型ビジネス
・「大きいことはいいこと」が破綻。大きすぎると管理が不可能
・専門性の時代。銀行は顧客サービス業に戻る時代
・長く低迷が続くと新しいものが出てこないことに慣れてしまう。ポストバブルがその後の日本人の思考パターンを規定している
・輸出依存型を継続するなら、輸出先である国の窮状には救援の手を差し伸べるべき
・日本の輸出の3/4は自動車・自動車部品、電子機器、資本財に偏る
・アジア通貨危機のとき、タイ、インドネシア、韓国では政情不安があった
・アジア経済が内需依存型でないのは、貯蓄がアジアの投資に向かわないため、マーケットの未発達が原因
・中国の消費を増やすには、医療制度、年金制度、教育制度をよくする必要がある
・米国は競争を重視しすぎるところがある。行き過ぎが起こることがある。何か問題が起こると対応は早い
・大都市に医師が集まりすぎている
・医療、介護依存型経済成長は不可能。医療、介護は「非貿易財」だから
・最低限の所得を保証する制度を整えないで個別の問題をいじっても何の意味もない
・長期的に安定した医療の仕組みを決めないと、政治形態も経済も社会も安定しない
・経済学は性悪説、「自分の利益しか考えない」という前提の理論
・チームワークが日本の強み。米国は分業化、モジュール化、市場化をやりすぎた
・モジュール化:調整努力をなるべく減らし、協業より分業の利益を重視。オープンにすると競争が激しくなる。そこで利益を出し続けるにはコンスタントにイノベートしていくしかない
・複雑な人工物は階層的にならざるをえない。モジュールやレイヤーがないと手に負えない
・米国では大きなディーラー網が販売力と開発力のギャップを埋めてきた
・政治家は明るくなきゃいけない
・自民党政権時代は官僚が方針を作り、政治家がロビイストのように特定利益団体のために働いた
・日本は二大政党制より緩やかな多党制がいい
・日本国民はわがまま。欧州型の福祉と米国並の税負担の両方を求める。そのギャップが財政赤字。どちらか選ぶべき
・日本は外国から借金していないのが強み
・官僚的な発想、官僚マインドで政治をやっている人が多過ぎる
・米国は国に権力が集中しないことを考えて制度を作った。大統領も議会を説得しないと何もできない
・1980年代後半のバブルのときも、銀行の貸し出しの変化をきちんと見ていれば、かないの部分を防ぐことができた
・米国発の金融危機では貸し手が銀行やローン会社だったが借り手が家計だった。これが致命的だった
・不況脱出に農業や、医療が有望だというのは安易
・竹中平蔵の功績:銀行問題の解決に貢献、恩人。一気に不良債権を処理しようとしたら企業の清算が増え、深刻な不況に陥る。それ以上に時間がかかるとますます大変になる。
不良債権は癌細胞と同じように増殖する。早く対応しないと処理コストは大きくなる
・不動産価格が適正水準まで調整されるには長い時間が必要。米国も「失われた10年」を避けられない
・成長はすべての矛盾を覆い隠す(チャーチル)
・成長率に2%の差あると、35年で二倍に広がる。日本人の一人当たりの所得が米国の半分以下になってしまう
・借金を返した国はない。ナポレオン戦争後のフランス、第一次大戦の英国は借金残高を増やさないようにして、その間に経済成長させて解決した
・日本の金融業界にはプロがいない。サラリーマンはたくさんいるが、フィナンシャーがいない。人件費もそれほど高くない。リスクを取らない。日本人純血主義
・日本は過去の失敗はともかく早く忘れようとする
-目次-
まえがき 危機とケインズ・ニュートン的方法論
第1部 バブルと金融資本主義の「原罪」
第1章 持ち家政策が人間を猛獣化した
ーー建築家・隈研吾氏と「バブル」と「公共投資」について議論する
第2章 究極のロビイスト、ゴールドマン・サックスの罪
ーー神谷秀樹氏と「強欲」資本主義の終焉と金融の「質」について議論する
第2部 グローバル危機と地方経済
第3章 変わるべきは中国とアメリカ。日本は今のままでいい
ーー黒田東彦アジア開発銀行総裁と「中国・アジアの将来」を議論する
第4章 万策尽きた日本は、こうして浮上した
--溝口善兵衛・島根県知事(元財務官)と「国際金融と地方経済」について議論する
第3部 産業の視点ーー自動車から医療へ?!
第5章 「車がダメなら次は医療」の間違い
--河北博文・河北総合病院理事長と「日本の医療のこれから」を探る
第6章 「トヨタ型ものづくり」復活の日
--藤本隆宏東大教授と「自動車産業の今後」を議論する
第4部 日本の弱点、それは政治
第7章 「議院官僚内閣制」は変えられるか
--ジェラルド・カーティス氏と「日本政治」を議論する
第5部 世界金融システム再生への道
第8章 フランク・ナイトとアニマル・スピリットの復権
--中原伸之氏と「新自由主義と資本主義の今後」を議論する
第9章 「竹中氏は、日本経済の恩人である。」
--竹中平蔵氏に「失われた10年」の真実と「不良債権処理」の極意について聞く
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