読書メモ

・「論戦2009 櫻井よしこの憂国
(櫻井 よしこ :著、ダイヤモンド社 \1,429) : 2010.06.19

内容と感想:
 
2008年6月から約1年間に渡って、週刊ダイヤモンド、週刊新潮、産経新聞に著者が掲載したコラムをまとめた本。 日本の外交や軍事を中心に、政治経済などをテーマに語っている。
 タイトルにもあるように、冒頭では日本の現状をこう憂えている。 政治が機能しないこと、官僚組織が国益に根差した政策を提案できないこと、まともな外交戦略や経済戦略を組めないこと。
 本書で著者の立ち位置を最も明確に示しているのは次の点だ。 非核三原則の見直し、集団的自衛権の行使、核兵器を保有するか否かの「議論を真面目に始めよう」ということ。 彼女は自衛隊を国軍とし、危機のときの武器使用の規程を定める、という考えだ。
 第三章では「事実上の九条改正につながる集団的自衛権の行使を可能にする内閣解釈を打ち出すのがよい」としている。 第四章では「これまで一律に2%ずつ削減してきた防衛予算を増加させる」ことが、日本が他国に対して「防衛に真剣に取り組もうとしていることを認識させる」ことになると書いている。 このまま北朝鮮の好き勝手にさせておくわけにはいかないのである。牽制のためにも防衛力強化が必要なのだ。
 ところで、対馬の不動産の多くが韓国資本に買収されてしまっている、というのには驚いた。 そこには自衛隊の基地に隣接する土地や、主要な港々の土地が含まれているという。 同様の状況が全国に広がっているというが、どれだけの日本国民がこの事実を認識しているのだろう。 国や自衛隊はどういう対策をとっているのか気になる。
 さて、先日6/18の日経に掲載された各党のマニフェストを読んだが、安全保障問題に関しては、民主党のマニフェストは酷い。 自衛隊や日米同盟、国防のあり方が描かれず、何をしようとしているのか読み取れなかった。 まだ自民党の方はマシで、憲法改正にも触れ、「自衛軍の保持を規定」するなど、より方向性が明確に思える。 近づく参院選にも争点はいくつもあるが、政権党の方針としては心配である。

○印象的な言葉
・中国は日本を言葉を行動に移す力がないと見越している
・外交と軍事は両輪。軍事力の支えなき外交には説得力がない。このバランスが欠けている
・北朝鮮向け船舶の臨検もできないほど海自は無力。国内法の整備が急務
・優しさも余裕も、強さなしでは本物ではない
・50年後には全ての宮家は消滅する。旧皇族の復帰、皇族の養子制度が必要
・日本では医療と福祉が渾然一体となり、医療費を押し上げてきた
・長野県は県民平均寿命がトップクラス、老人一人当たりの医療費は最少。掛かり付け医とクリニック、病院の連携がよい
・英国では掛かり付け医(GP)を経由しないと病院での医療を受けられない。病院を紹介してもらうのに何日も何ヶ月も待たされる。医療費の上限が決まっている。
・ドイツでは在宅で家族が介護する場合、年に4回、1週間の休暇が家族に与えられ、リフレッシュを国が支援。介護を担う家族が体を壊すと労災認定される。
・圧倒的な力量を誇示するプロに共通するのは「1万時間、集中して努力したこと」
・幕末から明治にかけて日本に来た欧米人は、日本人が幸福そうな微笑を浮かべ、物腰は柔らかく丁寧で、清潔さに驚いた。 「よく笑い、微笑む国民だった」。絶望的な貧困に喘ぐ民衆はいなかった。
・日本の国立大学は地味な分野の研究と研究者を守ってきた。研究費は潤沢ではないが、その範囲内で自由な研究が許容された。 5年や10年で目に見える成果が出なくても、科学の基礎研究とはそんなもの。
・非核三原則を見直し、核持ち込みを可能にし、米国の「核の傘」を機能させる
・日本の対中ODAが中国の軍事力構築を助けてきた。また、アジア、アフリカへの中国のODAにすり替っていた
・石光真清:「城下の人」、「広野の花」、「望郷の歌」、「誰のために」(中公文庫)
・明治初期、大人は丁寧で慈愛に満ちた言葉遣いで子供たちに接した。丁寧で穏やかな会話こそ、当時の意志の疎通の形だった。
・田母神俊雄の空自幕僚長退職のきっかけとなった評論は、既に内外の多くの研究者が指摘済みの事実を示しただけ。
・ロシアは老朽化した原潜の解体のため、日本など国際社会から援助を受けながら、最新鋭の原潜を建造している
・日本の資金と環境技術の供出を狙ったのが京都議定書
・「ある明治人の記録 〜会津人・柴五郎の遺書」(中公新書)。日本人の誇りと勇気を取り戻せる本。歴史の見方、国家や指導者のあり方などを洞察。
・蒋介石はドイツから武器装備を調達。ヒトラー政権との武器貿易は急増していた
・満州人の王朝・清が黄昏を迎え、父祖の地・満州へ戻ることを望んだ溥儀。日本が無理やり彼を囲い込んで満州国独立を画策したのではない
・麻生内閣で閣議決定された公務員制度改革関連法は、骨抜きの改革。国が官僚の意のままになる仕組み。
・経済発展だけが中国共産党独裁の正当性を与えている
・リークされる情報に頼って報道するとすれば、メディアの存在意義は消滅
・アジアワクチンセンタ構想:日本が得意な先進医療分野で外交の柱にし、アジア諸国を支援すする。 日本のワクチンメーカーは小規模で、国内基準が煩雑かつ厳しいため高価。戦略的に資金と人材を投入すべき。

-目次-
はじめに
第一章◎迷走アジアと日本外交
第二章◎孤立化する日本の命運
第三章◎歴史観こそ日本再生の鍵
第四章◎まったき自立国家への試練