読書メモ

・「割り箸はもったいない? ―食卓からみた森林問題
(田中 淳夫:著、ちくま新書 \680) : 2010.10.01

内容と感想:
 
割り箸を使うことは森林破壊につながるとか、 「マイ箸」持参で森林保護を、という主張に違和感を感じた著者。 そうした主張が事実かどうか十分に確認もせず、他人に強制したり勧めないでくれと、 自称エコロジストの独善を斬り捨てている。
 割り箸の使い捨ては「もったいない」という論理からも割り箸排除意識が持たれていることもあるようだ。 しかし塗り箸であっても洗浄、消毒には手間とコストがかかるし、洗剤による水の汚染など環境負荷も発生することを忘れてはならない。 割り箸は衛生的でゴミとして捨てれば、焼却炉の燃料にもなる。「マイ箸」持参もいいが、洗わずに持ち帰るとすれば逆に不衛生だ。 最近は割り箸を出さない外食店もあるようだが、環境意識が高いところをアピールできるメリットくらいしかない。
 割り箸はそもそも「もったいない」という発想から生まれたことを第2章では説明している。 切った木をすみからすみまで使い切り、無駄にしたくない、という先人の知恵から生まれたのが割り箸なのだ。 丸太をまるまる全部割り箸にしているわけではない。建材などにした後の残り、端材と言われるものから作っているのだ。 しかし、割り箸を中国からの輸入に依存している現在、その割り箸が端材だけから作られているかどうかは保証できない。 割り箸にするためだけに大量の木が切られているとしたら、それは環境破壊と言われても仕方がない。 が、中国もそんな馬鹿なことはしない。中国は世界一の木材輸入国だそうで、そんな状況で木をまるまる割り箸にするはずがない。
 本書では割り箸の歴史や、いまやほとんどを中国から輸入している現状や、日本の森林事情、林業と環境問題などについても考えている。

○印象的な言葉
・林業の真髄は割り箸にあり
・アドバシ。箸袋に広告を入れ、広告料によって割り箸の価格を抑えようとする
・吉野杉の高級割り箸は洗って何度でも使える。割り箸発祥の地・奈良県吉野。吉野でも材料となる端材(背板と呼ぶ)が手に入りにくくなっている。製材自体が縮小している。 高級割り箸に特化して差別化している。
・割り箸の98%が中国製。日本の需要を支えるのは外食業界
・塗り箸の8割以上は若狭地方、主に小浜市で生産。下級武士の内職として定着。今は小浜では漆塗り職人自体が数人しかいない
・箸は食事の際に唇や歯や舌に直に接触する。匂い、硬さなどは料理の味に微妙に影響する
・杉は日本固有種。香りがよく、防虫、防菌効果がある
・タケ割り箸はモウソウチクがほとんど。腐蝕しやすく、すぐにカビが生える。タケは3年で資源が回復する。タケ製は日本の割り箸の1/4を占める。
・日常生活ではないハレの食事では一度きりの箸を使うのが日本の伝統
・韓国で割り箸が普及するのはソウルオリンピックを控えた時期、外食の衛生向上を目指して広げた。北京オリンピックを控えた中国でも普及が著しい
・柳は邪気と不浄を払う霊木
・木肌に触ると脳波にα波が現れリラックスする
・中国は世界一の木材輸入国になった
・シベリアの森林事情もいよいよ逼迫してきた
・中国では大規模な植林事業が進められている。西域の半砂漠地帯でも木が育つ程度に降水量がある
・日本の山で木の間伐後に放置される林地残材は年間300万トン
・若くて細い木から割り箸は作るのは難しい。強度不足
・木炭も中国製が増えた。輸入で日本の需要を賄っている。価格と量を維持するには輸入に頼るしかない
・日本の木を中国に輸出して、そこで割り箸に加工して、輸入する
・(株)シースワローの割り箸製造機は全自動に近い。国内でも割り箸を増産できる
・マイ割り箸:割り箸を持ち歩き外食するときに使う

<その他>
・日本の森がいつの間にか中国など外国資本に買い占められることはないか?

-目次-
第1章 割り箸づくりの現場から
第2章 「もったいない」から生まれた割り箸
第3章 市場を席巻する中国製割り箸
第4章 寄せては返す、割り箸不要論
第5章 国産割り箸に未来はあるか
第6章 割り箸から読み解く環境問題